大阪梅田の地下街は秘密基地 ―全ての伝説は始まる―

天空蒼峯

戦いの始まりは唐突でした

 大阪平野がまだ湿原だったころ、宇宙から2つの物体が煙を上げながら舞い降りた。1つは現在の梅田に、もう1つは現在の難波に墜落したが、忽ち汚泥の中に埋没した。


 その日、俺は梅田の地下街、大阪駅前第2ビルの地下のゲームセンターで、新しく公開された「レーシングゲーム」のホログラム3Dのリアルな闘いに熱中していた。


 備え付けの3Dメガネをかけ、ゲームシートに深く腰を落とす。エンジンを吹かすと低い重低音が響き、臨場感を掻き立てる。

 画面の風景がどんどん後方に流れ、美しい山並みを見ながら加速する。急カーブが見えてきた、ハンドルをきって…。


 フォーン、フォーン、フォーン 


 突然、フロアに大きな警報音が響く。

「なんだ、この音は? ゲームじゃないよな」

と俺は周りを見回す。他のお客も同じように様子を伺っている。


 ガーーーーーッ


 突然、地下街の出入り口のシャッターが降りてゆく。

<< 非常警報、非常警報。現在、難波方面より攻撃を受けています >>

アナウンスが響き渡る。


 どぉーん、どぉーん


 激しい衝撃と、連続的な爆発音が梅田の地下街に響く。照明が突然消えると、赤い非常灯に切り替わった。


「なんだ、なんだ?」

 俺は突然の出来事に狼狽え、ゲーム機の座席に座り込む。


 何人かの客が、非常口にたどり着くが、ガラス戸にはロックが掛かっていて開かないようだ。ガラス戸をドンドンと叩いている。


「くそう、何が起こっているんだ?」と俺。

 非常口のシャッターの隙間から、眩い閃光と踊り狂う火花が見える。


<< 全戦闘機は迎撃準備、迎撃準備!!>> とアナウンスが響く。


 目の前のアーケードゲーム機がクルクルと回ると、座っているお客と一緒に、順番に横にスライドすると、床の開口部に滑らかに吸い込まれてゆく。


 俺もゲーム機と一緒に勢いよく水平に移動し、さらに開口部から垂直に落下する様に移動、大きな機械音と共に何かに組み込まれて停止した。


 俺は顔を伏せ、椅子にしがみついて震えていた。顔を上げると、「レーシングゲーム」のゲーム画面が、戦闘機のコンソールパネルに切り替わっていた。


 ゲーム機の上方からガラスのシールドが覆いかぶさり、戦闘機のコックピットが出来上がった。前方に尖った機首が接続され、左右にエアインテークが組み上がる。


 後方を見ると、三角錐形のロケット噴射口らしき物がドッキングされ、見る見る内に戦闘機の様な形に組み立てられる。


「なんだこりゃ? 出してくれー」と俺は叫ぶ。


 隣を見ると同じように戦闘機のコックピットの中で、叫んでいる男がいる。


 ガックンという衝撃と共に、戦闘機らしき物が前進すると、地下通路の中をゆっくりと前進し、従業員用通路から地下鉄の駅の中に侵入する。駅の表示を見ると御堂筋線の梅田駅だ。


 戦闘機は御堂筋線の線路を、天王寺行の方向に自走している。

[ 戦闘機042号、発進準備完了!!]とコンソールパネルに表示が出る。

 俺は有無も言わさずに、戦闘要員にされていた。

  ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。

 大きな音と共に、梅田のJR大阪駅と北新地駅の間の区画の、全体が盛り上がり始めた。東は谷町線、西は四つ橋線の矩形の領域だ。

 アスファルトに亀裂が走り砂煙が舞う。電柱と信号機はスルスルと地下に潜っていく。

 何か動力源らしき物の稼働音と振動が、ドンドンと大きくなる。2000年かけて地下を張りめぐらせた構造物が、生気を取り戻し青白く輝き出す。


 俺の「戦闘機」のコックピットから見える、御堂筋線のトンネルの先に青空が見えてきた。トンネルが地下からせり上がって、外部に剥き出しになっているのだ。


[カタパルト、オールクリア。発進準備完了]と、コンソールに表示。


 前方の線路の信号が青色に点灯する。

 ついには梅田地下街の全体を取り込んだ、巨大な船殻が地上に浮き上がって来る。


<<全艦発進、全艦発進!!>>とコックピットにアナウンスが響く。


 俺の前のコンソールには、鮮やかな色彩で情報が次々と表示さされる。

[戦闘機042号、発進!!]


 ガゴッン

という音で、戦闘機の下部ロックが外れ、猛烈な速度で前方のレールに押し出される。

 俺の体に強烈なGがかかる。先ほどの駅の表示通りなら、天王寺に向かって加速している筈だ。


 ド――――ン


と言う衝撃音とともに、戦闘機はトンネルを抜け、濃紺の成層圏に飛び出した。

すでに巨大戦艦は宇宙空間に向かって上昇していた。


 前方を見ると、巨大な機動要塞が対峙している。ごちゃごちゃとした構造物が組み合わさった船殻だ。サーチライトが四方を照らし、けばけばしい照明が点灯し周囲を飾る。


 「なんだ、ありゃあ」と俺は戦闘機のコックピットで叫ぶ。

 よく見ると、「餃子XXX」「カラオケ・ボックス」「居酒屋XXX」などの電飾看板だ。


 後ろを振りかえると、俺が出て来た梅田の巨大戦艦が、大気圏上に浮かび上る。上面には様々なビルディングが立ち並び、下方には俺が射出された発射口が橙色に輝く。

 奥に聳え立つブリッジらしき2棟の構造物は、大阪梅田ツインタワーズ・サウスか。窓が白く輝いている。宇宙戦艦ぽい落ち着いたデザインだ。前方の機動要塞とは全然違う。


 機動要塞の格納庫らしき所から、白いシャツに、白い半パンで両手を挙げたモビルスーツが次々と発進してくる。


「あれはグリコか?」


 カニっぽいデザインのモビルアーマーの編隊が、両手の爪をふりかざして攻めてくる。背中のキャノン砲を打ち込んで来る。


「あれはカニ道楽か?」


 タコ型のロボットが梅田の巨大戦艦に、ワラワラとアリの群のように降りかかる。口の加粒子砲から激しく火炎を噴いて攻撃している。


「あれは…タコ・ボールか?」


 極めつけは、高速に回転する観覧車型のブリッジの下で、ペンギンが狂ったように手の旗を振り回している。


 俺は頭がいたくなってきた。


 とつぜんコンソールにウィンドウが開き、敵艦からの動画映像が表示される。画面には赤白の縞模様の服を着て、三角帽子を被り、黒縁メガネを掛けたロボット(?)が叫んでいる。


「オラ、ワレ、何さらしとんじゃ。ガタガタ言うてると、いてかましたるぞ。ええ加減にさらせや、ボケっ!!」


 あれは何とか太郎ではと、俺は思った。

 俺の戦闘機は、グリコ型のモビルスーツが、両手を挙げて隊列を組んで迫ってくるのを、辛うじて横に避けた。コンソールに何かターゲットが表示され、撃てとばかりに緑の十字が点滅する。


「おりゃあ、いてまえ!」と俺は叫ぶと、手元の発射ボタンを押す。


 ぐわんと衝撃があり、戦闘機の両翼からミサイルが発射され、機動要塞の中心部に命中する。激しい閃光と共に、機動要塞の上部のパーツが吹き飛ぶが音はしない。もう周囲は真空らしい。


[ミサイル2発、敵、機動要塞のサブセンサーモジュールを破壊!]と戦果が表示される。


 良く判らないままに、発射ボタンを押してしまったと、俺は少し後悔する。

 後方の宇宙戦艦の中心部の丸い建物が、グイ―ンと向きを変え、機動要塞の方を向いた。


<< 決戦兵器、ニュー大阪マルビル砲、発射!>>とアナウンスが入る。


激しい光のビームが機動要塞を貫き、炎につつまれる。

「すごい!」と俺は、その破壊力に感心する。


俺の戦闘機は大きく旋回すると、宇宙戦艦への帰路に就く。


 [戦闘機042号は、母艦『宇宙空母ウメダティカ』に着艦します]

とコンソールにメッセージが表示される。


 俺は表示を見ると笑い転げた。

「なんだ、梅田地下だから『ウメダティカ』か! 『宇宙空母ギャラクティカ』じゃないのか!!」

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大阪梅田の地下街は秘密基地 ―全ての伝説は始まる― 天空蒼峯 @TenkuuSeihou

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