コミック書評:『言いたいことも言えないこんな"あの世"の中じゃ』(1000夜連続2夜目)

sue1000

『言いたいことも言えないこんな"あの世"の中じゃ』

——こんな除霊なら毎日でも頼みたい。胃袋と魂がほぐれる、ゆるくて沁みるあの世巡りグルメ旅


現代の霊能力者ものといえば、血みどろの怪異、厳めしい祈祷、緊張感あふれるバトル…そんなイメージが一般的かもしれない。

しかし、本作『言いたいことも言えないこんな"あの世"の中じゃ』は、その常識をあっさりと裏切る。ゆるい。とにかく、ゆるい。除霊というより、"傾聴"だ。けれど、読後には確かな満足感が残る。不思議と癒されてしまう。そう、まるで、美味しい駅弁を食べながらふと涙腺が緩んでしまう、旅の途中のように。


主人公は20代の女性霊能力者・葉山 澪。とはいえ、特殊能力でバシバシ悪霊を祓うようなことはしない。彼女がするのは、ただ話を聞くこと。相手は、全国津々浦々に出没する霊、妖怪、土地神。だが、怪奇現象を起こしている彼らの多くは「ただ誰かに話を聞いてもらいたいだけ」なのだ。


毎話、彼女はあやかしの狐・コハクをお供に、どこかの土地を訪れる。

道中で駅弁を2つ買い、祈祷らしきパフォーマンスをし、ベンチや神社の境内で食事を広げる。すると、自然と“今回の霊”が現れ、ぽつぽつと語り始める——生前の愚痴、成仏できない未練、最近の地元の変化。話の内容はシリアスだったり、コメディだったり、切なかったり。でも、話し終えると、食事と話を聞いてくれたことに満足して彼らは去っていく。


さらに印象的なのは、彼らの語る物語の背景に描かれる食事の描写だ。

地元の名物駅弁や郷土料理が、これでもかというほど美味しそうに描かれる。湯気の立ち方、ご飯粒のつや、魚の脂の光沢…。読者の空腹を直撃する。特に、第一話の「有田焼カレー弁当」の描写は圧巻。

温め直されたルーの香りに、器の重みまで伝わってくるようだった。

食事と会話という、どこか日常的な営みを通して、異界の存在たちの「存在の意味」や「忘れ去られた土地の記憶」に触れる構成は、奇妙なほどしっくりくる。


「除霊」と「ご当地グルメ」という、普通なら交わらないテーマを、ここまで自然に結びつけた手腕は見事。肩肘張らない読書体験のなかで、気づけば人の孤独や土地の記憶にまで思いを馳せてしまう。そんな不思議な力を持った作品だ。


『言いたいことも言えないこんな"あの世"の中じゃ』——この皮肉めいたタイトルに込められたのは、「せめて死んでからくらい、話を聞いてほしい」という幽世の住人たちの切なる願いなのかもしれない。そして彼らの声に、駅弁片手に耳を傾ける主人公こそ、今の時代に必要な“癒やし手”なのだろう。


次巻も、胃袋を空っぽにして待ちたい。










というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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