身近な遊びを題材にした導入が親しみやすく、自然と物語の中に入り込めるお話でした。
「しりとり」という誰でも知っているルールが、そのまま不思議な存在との関係性になっているのが面白く、読み進めるほど発想の広がりを楽しめます。
語り手の落ち着いた視点も印象的で、状況の特殊さを過度に強調せず、淡々と受け止めていく姿勢が物語全体に独特の温度を与えているように感じました。
言葉をつなぐ行為そのものに時間や体力が重なっていく感覚が、じわじわと伝わってきます。
どこか軽やかさもありつつ、不思議な余韻が残る一編でした。
読み終えたあと、何気ない遊びが少し違って見えるようになるのも楽しかったです。
いきなり人間にしりとりを吹っ掛けてきて、勝ったら相手の名前の末尾(しり)を奪(と)ってくる「しりとり妖怪」。
僕が負けたら「順位」にでもなってしまうのか、と本当にどうでもいいことを考えてしまいました。
そんな素敵な設定が光る本作ですが、本作が真の意味で牙を向くのはそれ以降です。どうやら「しりとり妖怪」はしりとりで過去に無敗だというのです。
果たしてなぜ「しりとり妖怪」は勝ち続けることができているのでしょうか。
しりとりを吹っ掛けられた主人公の「私」はいかにして抵抗を図るのでしょうか。
そんなミステリ的要素も含まれており、文章が読みやすいこともあってグイグイと惹き込まれました。
そしてラストで迎えるオチ。ショートショートのお手本のようなオトし方に感動すら覚えます。星新一のような不思議な世界観に浸かることができました。