降りれない

★祭り★

降りれない

降りれない


稲成 歩夢 イナリ アユム  (男)歩夢

南葉 緑冴 ナンバ ツカサ  (男)緑冴

桧並 千秋 ヒナミ チアキ  (女)千秋

有島 一期 アリシマ イチゴ (女)一期

八代 夢翔 ヤシロ ユメカ  (女)ユメ

下鴨 兼緒 シモガモ ケンオ (男)学研

高良 花樹 タカラ ハナキ  (男)花樹

矢崎 叶絵 ヤザキ カナエ  (女)矢崎

植田 利佳 ウエダ リカ   (女)植田

青年            (男)ツカサ

その他部員         



〈一〉 眩む。


 六月の涼しい朝

 朝の声がする(人々の声とか、鳥の囀り、工事の音や信号の点滅音)小さく音楽も聞こえる

 舞台装置(乱雑に机や椅子も数個置かれている)

 キャストは全員台本を持っている(あるキャストは台本を読みながら、あるキャストは雑に台本を振り

回して、あるキャストは人と喋りながら、あるキャストは泣きながら、歩き続けている)

大きな一拍子で全ての音響が止まり、キャストの動きも止まる


歩夢  人生は演劇だと誰かが言いました。


 児玉のように連なる台詞


千秋  「この世は一つの劇場にすぎぬ。人間のなすところは一場の演劇なり。」

緑冴  「我々は人生という大きな芝居の熱心な共演者だ。」

花樹  「人生・・・人間喜劇。」

一期 「全世界は一つの舞台であり、すべての男と女はその役者にすぎない。」

ユメ  「人生はどうせ一幕のお芝居なんだから。」

矢崎  「人生は演劇そのものだ。」

植田  「人生は演劇のように生きるべきだ。」

学研  「人生は芝居の如し。」

歩夢  僕等はいつでも線引きを求めている。

千秋  「授業と休み時間の線引き」。

緑冴  「友人と恋人の線引き」。

花樹  「教師と生徒の線引き」。

一期 「凡人と天才の線引き」。

ユメ  「リアルと妄想の線引き」。

矢崎  「子供と大人の線引き」。

植田  「他者と自分の線引き」。

学研  「生きる事と死ぬ事の線引き」。

全員  僕等はいつでも線引きを求めている。テストの解を求めるように、求めざる負えない。

求めなければいならない。そうでなければ、僕等は直ぐに社会から切り離されてしまうから。

お前は駄目だと言われるのが嫌だから、それが嫌だから、僕等はいつでも線引きを求めている。

・・・なら、演劇と人生の境界線は何処にある?

青年  (一呼吸)人生は演劇だと、誰かが僕に言いました。


 学校の鐘の音が鳴り、キャストは再び動き始める。キャスト同士は舞台の話をしている

 緑冴だけは一人、台本を確認している


一期 音響さーーん。準備良いですか?

音響  すみません少し待ってください!

一期 了解でーす。

ユメ  先輩、椅子と机、あの位置で良いですか?

歩夢  オッケーだよ。

矢崎  ちょっと!舞台の上走らないで。

花樹  すみません。これドコに持って行けば良いですか?

千秋  あーそれは舞台袖にインパクトと一緒に並べといて。

花樹  コッチですかー?

歩夢  違う上手!

照明  舞台聞こえますか?

歩夢  マイクどこ?

ユメ  ココです!

一期 ちょうだい。

ユメ  はい。(一期にマイクを渡す)

一期 はーい聞こえますよー。

照明  ホリの色これで良いですかー?

一期 舞監オッケー?

歩夢  オッケー。

一期 オッケーだそうでーす。

照明  ありがとうございます。

一期 音響オッケー?

音響  多分、大丈夫です。

千秋  多分って何よ。

音響  大丈夫です!

一期 じゃ、キャストは定位置についてー。

全員  はーい。


 数人のキャストは舞台下手や上手にはけていく。青年だけは本を一冊持ち舞台から飛び降り、客席に着く


一期 それじゃ、準備良いですか?

全員  はい!

一期 いきます!よーーい。(一拍子をしようと構えるがしない)


 学校の鐘の音が鳴る



〈二〉 解夏


 夜の東京、繁華街の声

 街は酔っ払いでむせ返っている

 大学生の緑冴が一人、夜も更ける時間帯繁華街で先輩に挨拶をしている


緑冴  いやぁ、ご馳走様でしたぁ。ゴチです先輩!大丈夫ですよ。まだ終電もあるんで、え?ああ、明日は三限からです。二件目?すみません。今日は家で彼女が待ってるんです♡幸せでごめんなさい。

お疲れ様でした!


 緑冴は一息つくと歩きながら語り手をする


緑冴  俺は南葉緑冴。酒の味を覚えたての二十になったばかりの大学二年生ということもあり、こう毎夜

毎夜と先輩方に連れられて東京の酒屋を練り歩いています。上京したての頃はキラキラと輝いていた

東京の街並みや、大人世界香る酒屋並び繁華街も、意外と慣れてしまえばつまらないもので、

入学したての頃は終電を逃してでも遊んでいたものですが、最近では終電の二本前に乗って

帰っています。まぁ、それもこれも東京に慣れた。だけではないのですが、


 緑冴は語り手から緑冴の人生へと戻る

 ユメが舞台上に現れる


緑冴  (ドアノブを回し)ただいまー。

ユメ  おかえりぃ。緑冴早かったね。ご飯にする?お風呂にする?それともぉ、わ・た・

緑冴  風呂。それにご飯は食べてくるってラインしました。

ユメ  やだ即答。そこは「ユメにする!」って即答するところでしょ。

緑冴  しないよ先輩。それにそれが言いたいだけでしょ?

ユメ  うわうわ、緑冴罰金。先輩は禁止って昨日約束したじゃん。

緑冴  ・・・ユメさん。

ユメ  よろしい!ユメ、緑冴に名前読んでもらえて嬉しい。大好き!

緑冴  俺も大好きです。

ユメ  きゃ♡

緑冴  (語り手になり)そう!なぜなら俺には恋人がいる!同じ学部の一つ上の先輩。人生初めて恋人の

できた俺にとって、先輩は天使、いや女神そのもの!半年の交際に至り、今では半同棲状態だ。

ユメ  お風呂の準備してくるねー。(はけていく)

緑冴  ありがとうございます。(語り手になり)俺の大学生活は順調そのものだ。毎日が楽しくて仕方ない。


 緑冴、鞄を背負い大学を歩いている

植田  おぉ、緑冴おはよう。昨日先輩にあんだけ飲まされてたから来ないと思ってた。

緑冴  植田よ、俺を誰と心得る。

植田  笑わせんな。オレより酒弱い癖に。

緑冴  それはお前が異常なんだ。酒呑童子。

植田  誰が酒呑童子だ!酒飲まして首取るぞ。

緑冴  あー怖い怖い。そんなんだから恋人できないんじゃない?

植田  フッフッフ。それがな、聞いて踊れ!

緑冴  驚けな。

植田  ん、まぁそこは置いといて。聞いて驚け!なんとなんと、オレ、彼女ができちゃいましたー‼︎

緑冴  は?え?マジ?

植田  マジマジ。同じ学部の先輩でさぁ。もうまじ可愛いのぉ。

緑冴  やるじゃんか植田の癖に。

植田  祝福し、讃えろ。

緑冴  讃えはしないけど祝福はしてやるよ。

矢崎  (上手から出てきて)おっはよぉ〜。

植田  矢崎今日は早いじゃん。

緑冴  おはよ。

矢崎  いや今日はピッタリアラームで起きれたのよ。お母さんびっくりしちゃって、今日は赤飯だって。

学研  (上手から出てきて)良いなぁ実家暮らし。帰ったらあったかぁい我が家とあったかぁいご飯が

待ってるんだから。

植田  学研までもが珍しく早い。

学研  心外だ。俺はいつもコイツよりは早い。てか、今夜ライブあるから。

矢崎  こんな感じなのにバンドやってんだもんなー意外も意外。

学研  いやいや、こんなイケメン。バンドやってない方が勿体無いだろ。

植田  緑冴も楽器、できるんでしょ?

緑冴  もう辞めたけどね。

学研  勿体無い、お前めっちゃ上手かったのに。

矢崎  高校時代は学研とバンドを組んでいたとか⁈

緑冴  昔の話。

矢崎  昔、とかカッコつけちゃって。まだそんな歳でもない癖にっ。

学研  あーあ、ライブ会場、緑冴の下宿から近いんだけどなぁ。

緑冴  彼女いるのにお前を泊められるか。

植田  今日も仲良いねぇ同高コンビー。

緑冴  仲良くない。

学研  ケーーッ冷たいことだい緑冴くんは。

矢崎  ワン‼︎

学研  ヒヤッ‼︎

矢崎  ギャハハ!引っかかった引っかかった!学研だせぇー。

学研  矢崎お前‼︎(携帯がバイブする)・・・ん、電話?

緑冴  (語り手になり)酒屋を巡る日々、愛しの先輩、愉快な学友達。俺のキャンパスライフは

   こんなにも毎日楽しくて良いのか?いや良いだろ!これが大学生というものだ!

学研  ・・・緑冴。

緑冴  どうした学研。

学研  ・・・歩夢が、

緑冴  歩夢?

学研  ・・・歩夢、死んだって。

緑冴  は?

矢崎  学研ー。緑冴ー。早くしないと授業始まっちゃうよーー!

学研  お、おう。(足早に去って行く)


 緑冴以外、舞台から立ち去る


緑冴  は?・・・歩夢が、死んだ?(語り手になり)歩夢は中高の学友でした。一昨年の夏に癌が見つかり今月、七月の十五日に亡くなったそうです。歩夢は、俺の親友でした。(緑冴に戻り)死んだ?歩夢が、死んだ。いやいやいやいや、嘘だ。何かの悪い冗談だよな、冗談だろ?きっとそうに決まってる。だって歩夢、

一期  緑冴?


 学校の鐘の音が鳴る

 場転、中割りが開かれ軽音部室が姿を表し、一期が机を移動させている

 千秋は机に突っ伏して寝ている

 CDプレイヤーから音楽が流れている


緑冴  ・・・。

一期  どうしたの、ボーッとしちゃって。机、運ぶの手伝ってよ。


 緑冴、ポールハンガーから制服の上着を取り羽織る


緑冴  ごめんごめん一期。ちょっと考え事しちゃっててさ。

一期  考え事?

緑冴  いやぁ、もう俺らも引退かぁ。って、なんか考え深い。

一期  分かる。私も余韻に浸っちゃうわ。入部したのがつい昨日のように思えて仕方ない。

緑冴  それな。それから仲間集め大変だったよなぁ。

一期  あー、引退かぁ。寂しいね、最後って。・・・なのに、何で時間になっても三人しか集まってないの‼︎

緑冴  まぁまぁ一期。

一期  まぁまぁじゃないわよ!何で最後だって言うのに、アイツら‼︎

緑冴  どうどう!どうどう一期。

一期  何がどうどうよ!私は馬じゃないの!

千秋  うるさい。

二人  !

千秋  うるさい。寝れない。寝かして。うるさい。

一期 ご、ごめん千秋。


 緑冴、CDプレイヤーの電源を切る


緑冴  ごめんなぁ。

一期  って、何で私達が謝ってるのよ!

緑冴  まぁまぁそっとしとこうよ。千秋、寝起き怖いし。

一期  緑冴はいつもいつもまぁまぁまぁまぁってアンタの口はそれしか言えないの?

緑冴  すみません。

一期  にしても、本当に来ない。花樹は学級委員だからとして、緑冴。あんたクラスメイトでしょ?

緑冴  あ、歩夢?歩夢なら購買に走ってくところ見た。

一期  は?何見てんのよ!止めなさいよ!

緑冴  すみません。

一期 全く。・・・ねぇ、緑冴。(ギターを触り)私たち、バンドは続けるのよね?

緑冴  おう。話し合ってそう決まったじゃん。

一期 大学行ってもバンドはやめないもんね。

緑冴  そうでしょ。

一期 うん。よかった。緑冴とは、大学別々だもんね。

緑冴  一期はココ残るんだっけ?

一期 うん。東京怖いし。家から通えるところが良いねって前から家族と話し合ってたから。

緑冴  それでも、一ヶ月に一回は集まれるよな?

一期 皆そう言ってたけど、私、不安だな。だって私と歩夢、千秋以外皆第一志望東京の方だし。

緑冴  心配すんなって、スマホ一本で繋がれる時代だぜ?

一期  そう、だよね。

緑冴  ・・・一期、俺、


 学研と花樹がドアから顔を覗かせている、それと目が合う緑冴


緑冴  お前ら!

学研  やだぁ、お邪魔しちゃった?

花樹  ごめんごめん。あとは若い人二人で。

緑冴  キモ。

学研  辛辣だなぁ。折角俺ら空気読んでやったのに。

一期 何が空気読んでやったよ!私たちそんな、

花樹  はいはい。分かった分かった。

一期 は、花樹!遅刻理由。

花樹  俺は委員会の集まり。学研は補習。

学研  いや困った困った。先生が俺を離してくれないの。

一期 ウゲェ。

学研  おい、何だその反応は。

緑冴  花樹、歩夢は?

花樹  えまだ来てないの?

緑冴  来てない。購買に走って行くところ見たっきり。

花樹  ってことは、まだ購買にいるのかな。

学研  アイツ最近オカシイらしいじゃん。

緑冴  あぁ、授業も上の空でずっーと空見てるの。

花樹  ポエマーにでもなるんじゃない?

千秋  オリジナル曲の歌詞も、全部歩夢が書いてたしね。

学研  ヒヤッ!び、びっくりした。千秋か。

千秋  あー眠い。眠すぎる。

一期 まだ、歩夢が来てないの。

千秋  分かってる。・・・色々あるんじゃない。歩夢にも。

花樹  お、千秋。お前なんか知ってるんだろ。

学研  もしかしてもしかして、そう言う?

千秋  違う。恋愛脳やめろ。アタシとアイツは幼馴染だから。

緑冴  え、え、そんなこと言ったら俺も入るんだけど?

千秋  アタシは保育園から一緒。緑冴は中学からでーす。乙。

緑冴  うわウザ!

一期 ウゲェ。何その歩夢をかけた小さなマウント。ウゲェ。

花樹  全日本キモい選手権決勝大会の会場ってここだっけ?

千秋  花樹ウゼェ。学研の次にウゼェ。

学研  え、今飛び火じゃない?飛び火だよね?アッツ!

千秋  そこがウザイ。


 ガタガタと音を立て、ドアが開きお菓子をいっぱいに手に抱えた歩夢が駆け込んでくる


歩夢  ごめんごめん!遅れた。セーフ?セーフ?

一期 遅い歩夢!

歩夢  ごめんごめん、お菓子買っててさぁ。

学研  歩夢にしては気が効くぅ。明日は雨かな?

花樹  いや、明日は槍が降るな。

歩夢  何だよそれ、どーいう意味だ。

緑冴  ・・・。

歩夢  どうしたんだよ、緑冴?

緑冴  あ、いや、

植田  緑冴ー、二件目行くぞぉおー。


 学校の鐘の音が鳴る

 場転、中割りが締められ植田が酔い潰れている

 緑冴、制服を脱ぎ駆け寄る


緑冴  えぇ今日も二件目行くのか?彼女はどうした彼女は、

植田  ・・・アイツ、彼氏いた。

緑冴  え?

植田  いや、顔はしっかり見えなかったんだけど。この前、男と二人で買い物してた。

緑冴  いやそれまだ彼氏とは、

植田  絶対彼氏だよ!だって、腕組んで歩いてたもん。

緑冴  それはそれは、

植田  別に、何とも思ってない。どうせオレはいつも男の代替え品。

緑冴  植田。

植田  それでも、それでもアイツが好きなんだよなぁ。

緑冴  ・・・好き、か。

植田  だから、昨日会ったのに、言えなかった。

緑冴  は?

植田  別れようって、言えなかった。(泣き始める)

緑冴  バカ。そんなやつとっとと捨てちまえよ。

植田  そう簡単に言ったてよぉ。お前には分からねぇよ。彼女と幸せそうなお前には分からねーよ。

緑冴  ・・・植田。よし!二件目行くぞ!

植田  え?

緑冴  今日は朝まで飲み明かそう。

植田  でもお前、彼女は、

緑冴  良いの良いの。こん時くらい友人優先しても、怒るような人じゃないし。それに、・・・俺も

忘れたいことあるから。

植田  緑冴ぁあ!

緑冴  おーいっぱい泣け。いっぱい泣け。

植田  よーし、矢崎にも電話しようぜ。それから学研にも。

緑冴  学研、か。

植田  学研となんかあったのか?

緑冴  いや、直接的にはないんだけど、まぁ電話してみるか!

植田  おうよ。

緑冴  (電話をかけ)あ、もしもし学、・・・。(電話を切る)留守電だった。

植田  チッ。じゃ次々!矢崎!矢崎に電話かけようぜぇ。

緑冴  そうだな。(電話をかけ)矢崎?今さ、植田と一緒なんだけど、

植田  つ、緑冴、や、やばい。ビニール、ビニール袋、ウッ!

緑冴  え?

植田  (嘔吐する)

緑冴  お、おい!植田!


 二人、慌てて下手へはける

 放課後の声

 場転、中割りが開き教室が姿を表し、千秋と歩夢の姿がある


千秋  言うの?言わないの?

歩夢  ・・・。

千秋  だんまりかよ。

歩夢  いざ自分が、ってなると嘘ーって感じ。

千秋  ・・・、

歩夢  でも、そりゃそーよな。今じゃ二人に一人は、って言うし。でも早すぎー。俺まだ十八だって。

千秋  うん。

歩夢  俺の祖父母もそうだった。結局、血には抗えねー的な、

千秋  バカ。何が血には抗えねーだよ。

歩夢  千秋、

千秋  ・・・。

歩夢  千秋、俺って幸せ者だよなぁ。

千秋  は?歩夢、それ正気で言ってるの。

歩夢  正気だよ。

千秋  ・・・頭も診てもらった方が良いんじゃないの?

歩夢  こんな時だからそう思ったんだよ。

千秋  ・・・。

歩夢  だって、他の人はこうやって腹割って話す機会がないんだよ。いつになるか分からないから。

千秋  それは、そうかもだけど、でも、

歩夢  俺、幸せ者だな。こうやって最期に会いたい人達を選べるんだから。最期の言葉も選べる。

千秋  ・・・諦めんなよ。本人が諦めてどーすんだよ。

歩夢  千秋。

千秋  アタシは諦めない。諦めたくない。

歩夢  ありがとう千秋。

千秋  うっさい!(泣きそうになって)礼なんて言われるようなこと、アタシ歩夢に一回もしたことない。だから、ありがとうとか言うな。

歩夢  千秋らしいね。

千秋  うっさいうっさい。アタシ、諦めないから。だから、歩夢も諦めんな。

歩夢  ・・・うん。そうだね。諦めない。諦めないよ、千秋。

千秋  うん。うん。諦めんなよ。諦めんなよ。

歩夢  あーあ。千秋には、一生かけても勝てないな。

千秋  勝たなくて良い。お前がアタシに勝ったら、誰がお前を分かってやるんだよ。

歩夢  そうだね。・・・ありがとう、千秋。


 繁華街の声

 場転、中割りが締められる

 下でから酔った植田を抱えて緑冴と矢崎がふらふらと歩いている


矢崎  植ちゃん頑張れ。植ちゃーん、頑張れぇ。

植田  ウェ、気持ち悪い。

緑冴  あんな飲み方してたら吐くに決まってる。兎に角、電車乗れるか?

植田  無理、絶対無理。

緑冴  はぁ?

植田  タクシー乗りたい、でもお金はかけたくない、

矢崎  そんな無茶苦茶な。もう駅目の前だよ。・・・あれ?

緑冴  どうした?

矢崎  あれ、学研じゃない?おーーい!学研!

緑冴  ・・・。


 喪服姿の学研が上手から姿を現す


緑冴  ・・・よ。

学研  ・・・。

矢崎  あれあれぇ?どうしたの学研。そんな正装着込んじゃって。

学研  ちょっとな、

矢崎  (ネクタイに気づき)あ、なんかゴメン。アタシこーゆーとこだよねぇ。アハハ、

植田  眠ーーい!ダルーーい!

矢崎  ちょ、ちょっと植ちゃん。

緑冴  おい植田。

植田  お、アレはベットだぁ。

矢崎  違うよアレは地面だよ。あーーぁ、植ちゃん。


 植田、少し離れたところに倒れ込み、矢崎が駆け寄り介抱する


緑冴  ・・・歩夢の、だよな。

学研  まぁね。皆来てたよ。一期も、花樹も。

緑冴  千秋もだろ?

学研  うん。千秋は、見てて痛かったよ。葬儀中、ずっと泣いてて。

緑冴  だよね。

学研  棺桶に縋りついて、泣いてた。

緑冴  ・・・ッ。

学研  歩夢の、叔父さんかな?歩夢の棺桶の方に杖で一生懸命向かいながら、手を伸ばしてさ、「歩夢、どこ行った。歩夢、どこ行った。」って、

緑冴  そっか。ソウタ叔父さんかな?

学研  ・・・歩夢。痩せてた。

緑冴  ・・・。

学研  化粧で綺麗になってたけど、やっぱり頬は痩けてるのが分かる。

緑冴  ・・・。

学研  髪も、ウィッグだった。

緑冴  ・・・何が言いたい。

学研  ・・・なんで、なんで葬儀に来なかった。

緑冴  ・・・。

学研  お前!(緑冴の胸ぐらを掴む)

矢崎  やめて学研‼︎

学研  ッ・・・悪い。俺、帰るよ。


 学研、下手へはけて行く

 矢崎と植田も下手へはけている


緑冴  歩夢は、死んでも俺を許しちゃくれないよ。


 学校の鐘の音が鳴る

 場転、教室が現れる


花樹  は?歩夢。今、なんて言った。

歩夢  だから、俺、バンド抜ける。

学研  は、え?

一期 ど、どうしたの急に、

歩夢  急じゃないよ。前から決めてた。文化祭が終わったら、俺はバンドやめる。

花樹  お前ふざけてんのか?

歩夢  ふざけてないよ。(笑って)

学研  え、俺ら仲間じゃん。なんかあったなら聞くよ?

歩夢  お前らに話すことなんて、ないよ。

緑冴  歩夢‼︎


 緑冴、歩夢に殴りかかる


千秋  やめて緑冴‼︎

緑冴  ふざけんな!何がバンド辞めるだ!意味分かんねーよ!俺ら今まで一緒にやってきたじゃねーかよ!

歩夢  そう言うのがダルいんだよ!

緑冴  ‼︎

千秋  ・・・。

歩夢  全部、そう言うのがダルいんだよ。仲間?一緒にやってきた?違うよ!全部めんどくさかった。毎日毎日集まって、意味もない音楽ならして、それが何になるんだよ‼︎受験に役立つのか?人生に役立つのか?生きる意味になるのか?ならねーよ!音楽で誰か救えるとか、お前らよく言ってたけどさ、そんな簡単じゃねぇもん。人生ってさ。

緑冴  歩夢お前良い加減に‼︎

歩夢  何が音楽だ!何がバンドだよ!そもそも俺たちみたいな弱小の塊が、バンドが、バンド続けたって

意味ないんだよ!受験勉強でもしとけよ!

緑冴  何で急にそんなこと言い出すんだよ!何が気に食わねーんだよ!

千秋  やめて!緑冴やめて!

緑冴  ふざけんな‼︎ふざけんなふざけんな‼︎

一期 緑冴!緑冴やめて‼︎

花樹  落ち着けよ緑冴。落ち着けよ。

緑冴  (歩夢から引き離される)ふざけんなぁ‼︎

歩夢  (笑って)ごめん、言いすぎちゃった。

千秋  歩夢。

歩夢  ・・・ごめんね。俺、下手くそで。

一期 え?


 歩夢、早々と教室から立ち去る


花樹  何だよ、アイツ。意味分かんねー。(苦笑い)

学研  急にバンド辞めるとか、何だよ。

一期 兎に角、もう一回話を聞いて、

緑冴  止めろよ。

一期 は?

緑冴  あんな奴、ほっとけよ。

一期 緑冴そんなの、


 千秋、すかさず緑冴を平手打ちする


千秋  ・・・なんでアンタが無傷なのか、考えて!


 千秋、教室を飛び出す


花樹  千秋!

緑冴  ・・・何だよ。千秋まで。


 緑冴、制服を脱ぐ

 舞台には小さくWurtSの解夏が流れている

場転、中割りが閉まる

緑冴はベンチにもたれかかりため息をつく


緑冴  ・・・そんなの、考えても分からねーよ。


 植田、鼻歌を歌いながら下手から現れる


緑冴  植田、その曲。

植田  え、あー音漏れしてた?メンゴ。(スマホを切る)

緑冴  それ、知ってるよ。

植田  お、趣味良いねー。WurtSの「解夏」って曲。

緑冴  俺じゃなくて、親友がよく聞いてたんだ。

植田  ほほーん。・・・どーした、緑冴。浮かない顔して。

緑冴  ちょっと、昔のこと思い出して。

植田  そっか。(缶ビールを差し出して)まぁ飲めば。

緑冴  ありがとう。(受け取ったビールを見つめている)

植田  飲まないの?

緑冴  いや、なんか気分じゃなくて、

植田  飲めば良いのに。

緑冴  え?

植田  飲んで話してみ?飲んで、全部オレに打ち明けてみ?

緑冴  ・・・。(ビールを一気に飲み干す)

植田  お、良い飲みっぷり。さすが緑冴くん。

緑冴  ・・・この前、喧嘩別れした幼馴染が、死んだんだよ。

植田  ・・・そうかい。

緑冴  ガンだったんだ。なんか正確に言うと白血球が何とかって、

植田  ほう。

緑冴  そいつ、元バンドメンバーでもあってさ。

植田  学研と組んでた?

緑冴  そう。俺ら、部活引退してもバンドだけは続けていこうって話してたんだ。

植田  青春だね。

緑冴  そうだろ?青春。青春だった。・・・なのに、歩夢のやつ。急にバンド辞めるとか言い出して、

植田  殴ったの?ガン患者を。

緑冴  知らなかったんだ!知らなかったんだ。幼馴染なのに、千秋は知ってたのに、何で、

植田  ・・・迷惑、かけたくなかったんじゃないかな?

緑冴  ・・・。

植田  緑冴はさ、友達のことになるといつも自分犠牲にして、助けてくれるから。きっと、その歩夢?って奴も、緑冴に迷惑かけたくなかったんじゃないかな。

緑冴  ・・・バカ。歩夢の馬鹿野郎。お前のこと、一度も迷惑なんて、思ったことねぇよ。

植田  ・・・。

緑冴  クソ、クソクソ、クソッ。・・・バカだよ、俺も。何で、会いに行かなかったんだよ。会って、話をすればよかった。もう一回、バンドがしたい。歩夢と、・・・話せれば、そうすれば、最期くらい、

クソッ、クソクソ、クソ・・・。ごめん、ごめん、ごめん歩夢。ごめん、ごめん、

植田  この前、講義で先生言ってたよな。

緑冴  ?

植田  ほら、文学史の講義で、なんだっけ、確か坂口安吾の、

緑冴  「青春は、

植田  そうそう。「青春は絶望する。なぜなら」

緑冴  「なぜなら」

植田  「大きな希望がある。」

緑冴  ・・・希望、希望か。歩夢には、あったのかな。

植田  分からないけど、お前と歩夢くんの間に希望があったように、彼にもあったと思うよ。

緑冴  俺、どうすれば、

植田  そんなの、自分で考えなよ。

緑冴  ・・・。

植田  まぁ、そうだね。オレが言えるのは、歩夢くんの分まで、緑冴が生きていかなくちゃね。

緑冴  ・・・うん。ありがとうな、植田。

植田  ・・・オレは、そんな良い人間じゃないよ。

緑冴  (スマホがバイブする)

植田  スマホ、バイブしてる。

緑冴  あ、本当だ。・・・ごめん、電話。

植田  彼女?

緑冴  うん。(電話に出て)もしもしユメさん?・・・今友達といる。植田だよ。うん。そろそろ帰るよ。

   ご飯は食べる。・・・ごめんね、最近食欲なくって。もう大丈夫だから。ん、じゃ。

植田  仲良いね。

緑冴  まぁね。ユメさんまじ可愛いから。んじゃ、ありがとうな植田。(空になったビール缶を掲げて)

植田  うん。じゃ、また大学で、


 緑冴、上手へはけて行く


植田  オレは、緑冴みたいな良い人間にはなれないかもな。(どこかに電話をかける)あもしもしユメさん?

   ねぇ、話があるんだ。・・・オレ達、別れよう。・・・ユメさん。緑冴の彼女でしょ。オレ、友達の

彼女と浮気するほど、キモ座ってないわ。・・・もう、浮気とか考えちゃダメだよ。


 植田、下手へはける

 学校の鐘の音が鳴る

 場転、教室が現れ、緑冴と歩夢がいる

 CDプレイヤーから曲が流れている


緑冴  その曲好きだな。

歩夢  WurtSは最強だもん。初恋の人が好きだったんだ。

緑冴  お前も恋とかするんだ。

歩夢  意外?

緑冴  いや、なぁ、恋ってどんな気持ちなの?

歩夢  お、緑冴にもついに好きな人が?

緑冴  いや、分かんない。

歩夢  ・・・分かんない。ねー。

緑冴  何だよ。

歩夢  俺、緑冴が好きな人知ってるよ。

緑冴  は?

歩夢  一期でしょ。緑冴、一期のこと好きなんでしょ?

緑冴  え、マジで?

歩夢  自分で気づいてなかったの?

緑冴  え、ガチか、俺、好きなの?一期のこと?

歩夢  うわー。これは重症だ。

緑冴  いやいやいや、ないないない。なしでしょ。

歩夢  いや、緑冴結構一期のこと好きだよ。一期には特別優しいし。もう好き好きオーラダダ漏れ。

緑冴  マジで?

歩夢  マジで。一期見るとドキドキするーとか思ったことないの?

緑冴  ・・・。

歩夢  あるんだ、分かりやすっ。

緑冴  えーマジか、好きなのかよ俺。

歩夢  なんか逆にウケる。


 千秋がドアから入ってくる


千秋  何だお前らか。

歩夢  ねぇねぇ聞いて千秋、緑冴がね、

緑冴  おいバカ!やめろ!

千秋  何々?聞きたい聞きたい。

緑冴  バカ聞くな!

千秋  教えて教えて、

歩夢  あのねあのね、

緑冴  バカ!歩夢の馬鹿野郎!言ったら三発殴る!

歩夢  チェー、言ったって良いじゃん。

千秋  そうだそうだー。

緑冴  嫌だね絶対。


 終始、三人は楽しそうに話している

 緑冴が何かを思い立ったように、急に口を開いた


緑冴  ごめんな、歩夢。

歩夢  ?・・・(笑って)仕方ないな。許してやるよ。

緑冴  ・・・ありがと。


 音楽が段々と大きくなっていく

 一拍子が大きく舞台上に鳴り響き、途端に音楽が止まる

 歩夢、緑冴、千秋の動きも止まる

 学校の鐘の音が鳴る



  〈三〉 冴える。


 キャストと部員が次々に集まる

 歩夢と緑冴だけが取り残されている


一期 それじゃ撤収するよー。決めた手順通りに解体していってねー。

ユメ  私下手行きまーす。

一期 じゃあ男子陣一人でいいからユメを手伝ってあげてー。

花樹  俺行きます!

一期 ありがとう。マイクどこ?

千秋  ここです。

一期 ありがとう。あーあ、照明室聞こえますかー?

照明  聞こえまーす。

一期 オッケー。照明室ももう降りてきちゃって良いからねー。

照明  了解でーす。

一期 歩夢、良い演劇だった。

歩夢  ・・・。

一期 歩夢?

歩夢  まだだ。

一期  え?

歩夢  まだ、終わりたくない。

学研  どうした歩夢。

歩夢  まだ、舞台に立っていたい。終わりたくない終わりたくない終わりたくない終わりたくない。

緑冴  歩夢、

歩夢  ダメだ!まだダメだよ。まだ幕を下ろすな。お願いだから、時間が、舞台が繰り返されれば良い。

ユメ  歩夢先輩、しっかりしてください。どうしたんですか?

歩夢  止めろよ!

ユメ  キャッ!

矢崎  ユメ!大丈夫ユメ?

ユメ  はい。大丈夫です。

矢崎  歩夢何してるの!ユメに謝って!

歩夢  まだだ。まだ終わりたくない。まだ、だってまだ。

緑冴  だってまだ、

歩・緑 だってまだ、演じていたいからか。


 教室の鐘の音が鳴る

 キャストは全員が舞台上のキャラクターへ戻り、上手や下手へはけて行く

 教室の鐘の音が鳴る

 CDプレイヤーから曲が流れている


緑冴  その曲好きだな。

歩夢  WurtSは最強だもん。初恋の人が好きだったんだ。

緑冴  お前も恋とかするんだ。

歩夢  意外?

緑冴  いや、なぁ、恋ってどんな気持ちなの?

歩夢  お、緑冴にもついに好きな人が?

緑冴  いや、分かんない。

歩夢  ・・・分かんない。ねー。

緑冴  何だよ。

歩夢  俺、緑冴が好きな人知ってるよ。

緑冴  は?

歩夢  一期でしょ。緑冴、一期のこと好きなんでしょ?

緑冴  え、マジで?

歩夢  自分で気づいてなかったの?


 繰り返される舞台、繰り返される台詞

 客席で誰かが声を上げた


青年  もういい。

歩夢  ・・・。

緑冴  どうした歩夢。

歩夢  何でもない。きっと気のせい。

青年  もういい‼︎

歩夢  ‼︎


 青年が舞台上に登り上げる


緑冴  誰だお前!どこから、

青年  もう十分だ。もう舞台は終わる。

歩夢  ・・・。

青年  お前も、舞台を降りる時が来たんだよ。

歩夢  ・・・。

青年  お疲れ様、歩夢。

歩夢  ・・・違う。俺の台本に、そんな台詞はない。そんな、台詞は、

青年  もう終わるんだよ‼︎

歩夢  ・・・!

緑冴  おい‼︎お前誰だよ‼︎

青年  ・・・お前は関係ないよ。

緑冴  は?

青年  作り物のお前には、関係ないよ。

緑冴  ・・・は?

歩夢  ・・・ツカサ、先輩。

緑冴  ツ、カサ?・・・歩夢、お前何言って、

青年  俺は、南葉緑冴。お前のモチーフになった、歩夢の先輩だ。

緑冴  モチーフ、

青年  これは、歩夢が書いた、台本だ。

緑冴  ・・・・・・意味、分かんねーよ。

歩夢  ツカサ先輩、俺は、俺はまだ、

青年  もう良い。お疲れ様、歩夢。

歩夢  違う、違う!だってまだ、まだ俺は演じきれてない!演じきれてない。俺には、手があって、足が

あって、考える力がある!まだ表現できる!もっと、もっともっともっと上手く!上手くなれるのに、

・・・何で、何で、何で、終わりってあるんでしょうね。

青年  それが演劇だよ。

歩夢  演劇って、何ですか?

青年  ・・・演劇は、人生だ。

歩夢  人生って、何ですか?

青年  必ず、終わりが来るものだ。

歩夢  おわ、り。

青年  必死に演じて、必死に生きて、終わる。何でも、必ず終わる。・・・必死って言葉。ずっと不思議に

思ってた。必ず死ぬって書いて、必死。・・・終わるんだよ。歩夢。

歩夢  終わる。・・・俺らの舞台が、終わる。・・・先輩、ツカサ先輩、俺は、

青年  分かる。分かってる。お疲れ様、お疲れ様。

歩夢  でも、俺、俺は、

緑冴  ・・・違う。これで終わりじゃない。

歩夢  緑冴。

緑冴  俺は、台本の中の登場人物じゃない。

歩夢  ・・・。

緑冴  だって俺はココにいる‼︎ココで生きて、喜び、悲しみ、傷つき、愛して、俺には記憶がある。

歩夢  ・・・。

緑冴  俺はココで生きてるんだ。その記憶もあるし、感情だって、・・・なのにそれが全部作り物?

   台本?キャスト?役者?ふざけてんのか?ふざけんじゃねぇ‼︎・・・・・・いや、違う。本当は

分かってた。俺らは存在しないって。何そっちの都合で勝手に終わらせようとしてるんだよ。俺達は、この舞台上でしか生きていけねぇんだよ。だから続けろ。お前らが死ぬまでこの舞台を続けろ。

演じ続けろ。

歩夢  緑冴。もう、

緑冴  もうじゃねぇよ歩夢‼︎続けようよ俺らの舞台。お前と演劇続けられるのはツカサじゃない。俺だろ?

青年  こんな舞台続けたって歩夢は救われない。

緑冴  お前に聞いてねぇよ‼︎ならできるのかよ。お前に歩夢と演劇を続けることが。お前に歩夢の痛みを

共有することが。

青年  ・・・

緑冴  できないんだろ?俺はできる。だって歩夢だから。俺の記憶は歩夢の記憶で、俺の感情は歩夢の

感情だ。だから、舞台を続けようよ。

青年  歩夢。

歩夢  ・・・。

緑冴  何とか言えよ‼︎

歩夢  ・・・。

緑冴  頼む。何とか言ってくれ、歩夢。俺は、お前が舞台から降りたら消えちまうんだよ。俺を見殺しに

しないでくれ、俺を、捨てないで、まだ南葉緑冴を演じていたいんだ。歩夢‼︎

歩夢  緑冴。

緑冴  歩夢。(安堵して)

歩夢  緑冴。もういいよ。

緑冴  は?

歩夢  もういいよ。十分だ。俺は、十分、稲成歩夢を演じ切った。

緑冴  え?

歩夢  楽しかったなぁ。この三年間。いろんな役を演じた。学生に革命家や、童話の登場人物。どれも俺のかけがえのない存在だ。・・・楽しかった。本当に、楽しかった。だから緑冴、

緑冴  い、いやだ。終わりたくない、終わりたくない!終わりたくない!

歩夢  緑冴、

緑冴  いやだ‼︎

歩夢  ありがとう。


 緑冴の身体から力が抜ける(まるで操り人形の糸が切れたよう)


歩夢  ・・・いざとなると怖いな。

青年  そうだな。

歩夢  ツカサ先輩も、怖かった?

青年  あぁ。怖かったよ。

歩夢  そっか。・・・そっか。(笑って)先輩も、怖かったのか。

青年  うん。怖かった。

歩夢  ・・・じゃ、準備。良いですか?


 歩夢が緑冴の台本を拾い、二つに破る

 音楽

 倒れていたキャストがゆっくりと立ち上がり、各々の道を見つめている


歩夢  演劇部、文化祭公演。「降りれない」。終幕します‼︎

全員  はい‼︎


 全員が各々の台本を破いていく

 キャスト全員が客席に向かい頭を下げる

 音楽が徐々に大きくなっていく




                          終幕

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降りれない ★祭り★ @Matsuri0511

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