02 温度
胴体が、欲しい!
それは、あまりに切実な願いだった。初めは、生き別れた胴体に会いたいだけだったはずなのに。いつのまにか、何でもよくなっていた。
何でもいい。誰か助けてくれ。
生首になっても、元気に喚くので、あちこちで煩がられた。
炭焼き小屋で暇をしている農夫に話を聞かせてやったり、サーカス小屋でも似たようなことをした。たまに、不要な胴体を恵んでくれる者もいたが、あまり鮮度がよくなくて、うまくいかなかった。
それにしても、今日はいい日だ。
吸血鬼なのか、それは傷まない死体だった。
ものすごい形相の若者が、大きな鞄を引きずってきて、穴を掘って埋めていったのを見たので、転がって追いかけて、声をかけたのだ。
この若者が何をどう、しでかしたのか、仔細は知らない。ただ、死体の処理になれておらず、あちこち痕跡があり、汚れており、早晩死体は衆目にさらされるだろうことは明白だった。
自分が助けてやらなければ。
──声をかけたのは、慈善か? そんな訳はない。
生首になる前のことはあまり思い出せないが、生首にされるぐらいだから、自分は碌でもないやつだったのだろう。
これは我欲の問題だった。我欲と、相手のニーズの問題。
死体の胴体を受け取り、その場で回ってみせる。
男とも女ともつかない、しろい肢体。若者とも老人ともいえない、生気のない、冷たくて温度のない体──まぁ死んでいるから、だけど。
生首の方は生きているので──何でだ? と自分でも思わなくもないが──肢体の状況を確認する。
調整すると、カチッとはまる感触がして、ただ乗っかって操るのではなく、ちゃんと指先まで意思が通るようになった。
「よかった、これで突然人前でバラバラになって、手品師ですと叫びながら遁走しなくてもよくなった」
関わりたくなさそうな、面倒そうな顔をした相手の、名前を聞いて別れる。
さて、胴体がこれなら、首の方も似たようなものではなかろうか。
おそらく、死なず、腐らず。
首を刎ねてなお傷まぬ体が、なぜ生きていないのか、逆に気になるけれど。
それはまた、別の機会に分かるだろう。
誰かの首と胴体と せらひかり @hswelt
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