第4話 異空庫を作った後…。 その4

「……まぁ、ん。どんなのが良いの?」

 紬が決めた呪術の候補は––––

「瞬間移動か、欲張りかもなんですけど…全部乗せです。」

 菜緒は一瞬キョトンとして、少し笑い、

「…瞬間移動は無理だけど、全部乗せは、良いよ。」と、紬に言う。

「全部乗せの方がダメだと思ってたんですけどね。」

「ん。私と契約してるから特別…制限はつくけど。瞬間移動–––《転移》は術式自体はあるけど、理解できないから無理。」

『ふふっ、忘れてた。紬ちゃんは人間じゃなくなってるから、寿命のこと考えなくて良かったんだ。』

「なんなら全部乗せ–––《模倣》の術式作ってあるし。」

『少し調整して……ちゃんと生き返ったときに固有術式になるように体の中に刻めば…。』


 普通、新しい術式の開発には数十年。

 適正があるうえで、新しい術の習得には数年以上かかる。

 だから普通の術士は、一つの術を小さい頃から学び、覚えて、応用して使う。

 もしくは一族に遺伝する固有術式を使う。


「…紬ちゃん、呪力の循環教えるから覚えて。」

「呪力の循環、ですか?」

「ん、呪力を動かすから自分で維持、停止、再開出来るようになって。」

「分かりました!」

 紬の体に触れ、紬の中の、菜緒の呪力を少しずつ動かす。血液のように全身に巡らせ一周、二周と繰り返し…手を離す。

「…そう、そのまま動かして。」

「むっ、ずかしい、です、ね。」

「…ん。しばらく続けて」

「む、むむ…。」

「止めて。」

「っ、はい!」

「ん。出来てる。」

『さっき無理矢理、器広げたからちゃんと感覚で出来るようになってる。』


「次、自分で動かし始めて。」

「は、い、グ、グググ…」

『まだ遅いけど、ちゃんと出来てる。』

「ん、止めて。」

「はいっ!」

「…また何回か動かすから、止めた後から10周動かして、止めて、再開、を繰り返してて。」

「はい!」



 * * *



 紬に呪力の循環を練習させている中、菜緒は術式の調整を進め始めた。

『ん、模倣回数は私が干渉して増やす形式…適性がないと模倣出来なくして…模倣出来るのを術に限定して––––』

《模倣》の術式を組み、変え、調整を終える。

「…出来た。」

 術式の調整を終えた菜緒は、循環を練習中の紬を見る。

『…そこそこ、かな。』

「紬ちゃん…術式を刻むから、循環止めて。」

「分っ、かりました!」

 循環を止めた紬に菜緒が近づき、《模倣》の術式を刻む。

「っ!…あんまり、痛くないですね?」

「…痛覚が麻痺してるだけ。」

 少しずつ、少しずつ…刻み込む。

「ん。循環始めてみて。」

「はい!…ふっ。」

「…増えてるの、分かる?」

「多分!」

「私も動かすから、後を追って…形を覚えて。」

「…コレ、元の三倍以上になってませんか?」

「ん、回路も広げといた。」

 呪力を回路、術式に組まなく流し…全体像を紬に教える。


「呪力動かし続けて。」

『ん、サービス。』

 菜緒の呪力で、わざと不完全な状態の《模倣》の術式を空中に作る。

「足りない部分繋げてみて。」

 紬に欠けた術式を直させる。

「えーっと、ここと、ここと、ここ、あとあそこもですかね。」

「…正解。次はこれ。」


 その後、数十回、数百回…少しずつ欠けた部分を増やしながら術式を直させ続け、


「…覚えた?」

 そう聞いた菜緒の目の前に完璧な形で、術式が浮かぶ

「どう、ですか!」

「ん。循環も止めて良いよ。」

「ちゃんと覚えま、し…」

 術式を覚え、組めるようになった紬の体に変化が起きた。

 霊体の最適化、それに続くように魂と体の同化…

 霊として、より高位に至った事で予定よりも早く紬は完全に生き返った。


 ただ、一つの誤算があり…リッチと呼ぶには強く、ノーライフキングと呼ぶには弱いという、よく分からない状態になってしまった。


 よく分からないことは一旦置いておいて、菜緒はもう一度紬に聞く。

「…今度こそかな、生き返った感想は?」

 紬が感想を考えるよりも先に、「ぐぅ〜」という音がお腹から聞こえてきた。

「ご飯…食べる?」

「はい!」



 * * *



 〜次の日の朝〜

 場所は変わらず枷取家の庭。

「昨日の続き。」

「ですね!」

 昨日の夜、紬にご飯を振る舞ったあと、菜緒は直人が帰ってくる前に逃げた為…色々途中で止まっていた。

 紬の完全に生き返る前のアンデッド状態を…リッチっぽい、ノーライフキングっぽい状態だったので、呼び方が暫定でリッチキングに決まった。


「循環とか、ちゃんと出来る?」

「ふっふっふー、昨日のうちに全部確認済みです。」 

 菜緒に向かってピースしながら、ドヤ顔をする。


「ん、分かった。じゃあ、《模倣》の使い方…実戦形式で教えるね。」

 ドヤ顔にちょっと…イラっときちゃった。

「……え…。」

 扱いが簡単な術をいくつか模倣させ、半不死の呪い(弱)をかけて、実戦形式で菜緒が相手をした。スパルタで。

 そう簡単に死なないようになった紬が、どうなったかは…言うまでも無い。



 * * *



 紬は、全身ボロボロで庭に倒れている。

「ん。そうだ、紬ちゃん?」

「はーい、ボロ雑巾の、紬ちゃんです。」

「紬ちゃんの戸籍偽造するけど、苗字変えないといけないから…」

「…戸籍の偽造ですか?もう、驚き疲れてるんですけどね。まだ驚きポイントあったんですか。」

「なんて苗字にする?」

「苗字を考える、ですか…」

「どうでもいいなら私がつけるけど…」

「苗字、みょうじ…あの、この体の元の持ち主の名前って、椎 濡羽さんでしたよね。」

「ん。」

「濡羽を苗字にしちゃダメですかね、元の持ち主が居たことを忘れないように…」

「ん、いいよ。」

「じゃあ、私は今日から…濡羽 紬ですね。菜緒ちゃん、これからも末永くよろしくお願いします!」



 …数年後、龍脈の噴出地の一つに…白黒の髪に金色の目の女が、居座るのを多くの術士が見ることになる。同時期に、他の噴出地にも居座るものが、他に二人現れたことから…後に、三巨頭と呼ばれるようになる。


 噴出地に近づく霊を片っ端から祓い、力不足の術士を追い返し、邪魔をする者をボコボコにする、化け物三体のうちの一体として、濡羽 紬は成長する。



 ちなみに、お土産の果物を持って帰った、悠が父親に渋柿を渡したら…とっても渋い顔をしたそうな。


…To Be Continued?

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「異空庫を作った後…。」 殺人姫:枷取菜緒は幸せに  たい sterben @sterben_dead

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