第3話 異空庫を作った後…。 その3

 紬はヴァンパイアにはなれない!


 [紬 進化先残り候補]

・ファントム【幻霊】

・スペクター【亡霊】

・ジバクレイ【地縛霊】

・リッチ【不死導師】

・レギオン【群霊】

・ノーライフキング【不死之王】


「…紬ちゃんはどういう戦い方したいか決まってる?」

「ええっと…痛いのは嫌ですね。」

「俺の出番もう終わり?」

「…悠、その人、棺に詰めといて。」

「分かったー。」

「ちょっ、えー?」

 アインが少し強く力を込めれば、悠じゃどうしようもできなくなるが…大人しく棺に詰められた。

「痛いの嫌なら、遠距離か支援か防御とかだけど…。」

「そもそも、ある程度欲しい能力選べるってこと自体、普通じゃないし。型だけ決めて進化先決めないっていうのもありじゃない?」

「…どうしたいか、紬ちゃんが決めて?」

「私は…」

 そう言って紬は、長考する。



 * * *


 数十分後…菜緒がアイン入り棺を家の中に戻し終わって戻ってきた。

 ついでに飲み物も持ってきて、悠に飲ませていた。

「決めました!私は…」

 紬は菜緒と悠を見て、

「術系にします!!リッチ、もしくはノーライフキングでお願いします。」

「おー。」

「ん。理由は?」

「格好良さそうだからです!」

「おー!」

「ん。」

『…紬ちゃんが良いならいいんだけど』


「じゃ、進化させるから…」

《異空庫》にホワイトボードなどをしまう。

契約死霊術。私は貴女に力を…」

 菜緒は紬に目配せする。

 紬はハッとして契約した時を思い出して、菜緒に続ける。

「私は菜緒ちゃんに手を貸します。」

 …菜緒と紬の繋がりをより強固にした。


「…とりあえず、器を無理矢理広げるから、耐えて?」

「え?」

 菜緒が圧縮した呪力を解放し、紬の限界ギリギリまで注ぐ

「え“!?ッぐ”!?…!?“」

 紬の全身に激痛が走り、その場にうずくまる

「…やっぱり。」

『パワースポットでもない場所でレイスのまま残れてたから、そうだと思ってたけど…上限が普通じゃない。術士として産まれてたら、多分十二神将になれてたなぁ。』

「でも、もっと強くなれるかも。」

 痛みで、菜緒の言葉は耳に入らない。

「…もう空き始めた。」

 器が空くたび、注ぐ呪力を少しずつ増やす。

「菜緒姉、紬さん大丈夫なの?」

「ん。死にはしないから。」

『コレで多分…生き返ったら、器と釣り合う呪力の回復速度になる。』


 呪力の上限は普通数十年の修行の中で上げていくものだが、菜緒の荒技なら元の上限の倍位まで、一時間程で上げられる。(呪力の制御を誤ると死ぬ、全身に激痛が走る、呪力が足りないと効果が無いので、効率的だが誰もやらない。)



 * * *



 紬に呪力を注ぎ始めて、一時間後。

 立ちっぱなしで呪力を注ぐ菜緒、痛みでうずくまる紬、特に動きのない二人を見るのに飽きた悠は菜緒に許可取って、庭で果物狩りしていた。

「菜緒姉ー。色々採ってきたけど、鈴姉たちのお土産どれが良いかな?」

「ん…鈴ちゃんは桃とかメロン?千賀ちゃんはぶどう、紫か緑、両方でも良い。結乃さんは…苺かな。パパさんは…渋柿。」

「父さんだけ渋柿?」

「思い出の味。」

「まぁ、いっか。」

「ん。」

「じゃ、僕は…バナナでいいや。余りは紬さんに渡すとして、菜緒姉は…」

「私はいらない。」

「そっか。だけど、ここって果物何種類位あんの?国も季節もバラバラなのが生えてるし…」

「知らない。家の中探せば知ってる人いると思うけど…」


 注いでいた呪力を少しずつ減らしていく

「ん、お疲れ様。」

「……。」

「紬さん?」

「…人喰いウサギ、以上でした…。痛いの嫌って言ったのに…」

 目元がウルウルして、今にも泣きだしそうになっている。

「まだ、終わってないよ?」

「ヒッ!?」と悲鳴を上げ悠の後ろへ隠れる。

「えっと…果物食べてて。たくさんあるから取り出すのに時間かかる。」

 とりあえずで紬にリンゴを渡して…《異空庫》を開き、紙やら本やら巻物なんかを中身を確認しながら取り出していく。

 リンゴをもっちゃもっちゃ食いながら菜緒を見る。

「これで全部かな?」

 ドサっと紬の前に取り出した物を置く

「術式の資料。好きなのだけ覚えて?」

「これは…?」

「リッチになるには生き返るまでに、覚えて術式を組めるようにならないといけないから…急いでね。」

「えっ、はっ、はい!」


 リッチは生前に覚えた術式を再現できて、なるパターンと、

 死後に術式を我流で組めるようになって、リッチになるパターンがいる。

 紬が目指すのは後者。


「木、火、土、金、水が基本の"陰陽術"。」

「はい!」

「呪いがベースで、たくさんあるのが"呪術"。」

「…はい。」

「…他にもあるけど、早く覚えられるのは、この2つ。」

「…えっと、オススメは?。」

「…呪術。」

「呪術にします!」

「ん。基礎覚えたら、オリジナルで術式組むから

考えといて。」

「後、質問あったら言って」と言いながら《異空庫》に呪術以外の資料を戻し、机と椅子をを取り出し、座る。

「私はここで布織ってるから。…悠は帰っていいよ。果物忘れないでね。」

「んー、もうすぐ夕方だしね。じゃあね。」

 バイバイと紬は手を振ってその場で悠を見送る。

 菜緒は椅子に座ったまま、一部を《髪鬼化》と《蜘蛛化》して、《操髪》と《生成系》を混ぜ、布を織る。

 悠を見送った後、机に向かって呪術を勉強し始める。

「菜緒ちゃんここは…」

「ん?そこは––––」

 紬の勉強会が始まった。



 * * *



 紬は固まっていた体をグググっと伸ばした。

「終わりましたー!」

「ん。」

『…生き返るまでの、残り時間は三時間位かな。結構ギリギリ。』


「もうすぐ夜ですね。菜緒ちゃんは帰らなくて良いんですか?」

「ん?ここ、私の家だよ。」

 家を指差す。

「あっ、そうでした。でも、三日前は悠君と帰ってたじゃないですか?」

「悠の家に、居候してる。」

「居候ですか…良いですねぇ、恋愛ドラマみたいで。中学、高校辺りで居候先の人と恋に落ちるとか–––」

 妄想に入った紬を置いて、菜緒は小声を漏らす。

「好きな人はもう居るんだけど…」

『まぁ、いいや。』

「紬ちゃん、どういう術を使いたいか決めた?」

「あっ……。」

《異空庫》に織った布を入れる。

 ジト目で紬を見る。

「こ、候補は決めてますよ…?」

「……まぁ、ん。どんなのが良いの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る