MAMINUMAME
人間ではない、とされる。
始まりの時代に地上に遣わされ、酸鼻をきわめる暴辱と流血の果てに再び天へ召された
猯沼女は長らく経済動物として扱われてきた。彼女らの●●から分泌される●●●●●●には美容、若返り、長寿の効能があるとされ、それを狙う密猟や虐殺によって著しく数を減らしてきた。海外の摘発では、「工場」と称される巨大カルテルで、薬物注射による●●の肥大化や●●の分泌増進を施した上で機械による大規模な●●を行っていた事実が近年発覚している。これは猯沼女の家畜化が現実に行われていたことを示す仄暗い証左でもある。
現在、猯沼女の生息地はほぼ日本に限られる(そのため日本語の名称である『猯沼女』が世界共通語の『MAMINUMAME』として通用する)。その主な理由として、日本政府が彼女らを手厚く保護し、海外渡航を強権的に厳しく制限していることが挙げられる。表向きは安全を保障するためのやむを得ない措置とされているが、戦後復興期に滋養強壮薬の原料供給で日本経済を支えた彼女らを国家の管理下に置いておきたいという政治的思惑も大きい。いずれにせよ、世情を鑑みれば国家ぐるみの囲い込みはやむを得ない措置ではある。
事実、1980年代には乱獲によってウズペキスタンで猯沼女の絶滅が確認され、2010年にはスイスで国内最後の猯沼女にして世界最高齢と目された162歳の修道女が永眠した(彼女は棺に入れられてなお十代の肌艶を保っていたという)。絶滅の危機は今に始まったことではない。アフリカでは人間の入植によってそれまで住んでいた黒曜石色の肌をもつ一族が滅んだ記録が公式に残されているし、ロシアでは1950年以降、それまで広く流布していた銀の頭髪を腰まで伸ばした赤目の一族の目撃情報がぴたりとやんだ(1950年は悪名高い例の政権が10年に及ぶ独裁をしいた最初の年でもある)。かつては極地を除く世界各地に分布していたというのが専門家に共通する見立てだが、人類の経済圏の進出に伴い、猯沼女はその生息域をじわじわと狭められてきた。
現在も、海外の一部僻地には猯沼女の形質を受け継ぐ者が細々と生き残っており、稀に市井から先祖返り的に猯沼女の血の濃い者が生まれることもあるとされる。が、そうした突然変異的な先祖返りは多くが一代限りであり、個体数の回復にまでは寄与しない。
我々は、現存する猯沼女を、細心の注意を払って保護し、絶滅しないように管理していく必要がある。
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