神と聖女と呪いと愛と
@Hkoh
第1話
目を開けると、見知らぬ天蓋があった。
白い布と金の装飾。豪奢すぎて、まるで劇の舞台みたいだった。
「……ここは、どこだ?」
寝返りを打った瞬間、脳裏に奔流のように流れ込む記憶がある。
王族の子として生まれ、剣と魔法に満ちた世界を生きてきた――そんな異世界の記憶。
俺の名はアルト・エルネア。エルネア王国の第二王子。
どうやら俺は、本当に転生してしまったらしい。
前世では大学生。トラック事故で死んだ記憶がある。
気づけば王族。ゲームみたいだが、どうやら現実らしい。
この世界のことは“アルト”としての記憶にしっかりある。
王位継承、貴族制度、魔法学園――全部、知っている。
だが……なぜか一つだけ、記憶にない情報があった。
「聖女との……婚約?」
その言葉だけが、頭の中で霞がかかったように曖昧だった。
なぜだろう。俺の記憶には“聖女”という存在自体が、ほとんど残っていない。
そこへ、扉の向こうから侍女が現れ、恭しく告げた。
「殿下。聖女セラフィナ様が、謁見の間でお待ちです」
やはり、本当なのか。
自分の記憶にない出来事が進行している――それだけで、背筋が冷たくなった。
王族としての人生の記憶があるのに、“聖女”の一件だけが抜け落ちている。
転生の影響か、それとも別の何かか。
俺は小さく息を吐き、鏡に映る自分を見た。
銀の髪に、見慣れたはずの青い瞳。だが、そこに映る表情は確かに“俺”ではなかった。
「……行くしかないな」
謁見の間は荘厳な静けさに包まれていた。
王の座の前に、白いドレスをまとった少女がひざまずいている。
淡い金髪が陽光を受けて揺れ、空のように澄んだ瞳がまっすぐこちらを見ていた。
彼女の名は、セラフィナ・ルミエール。
神に選ばれし“聖女”。そして――俺の婚約者らしい。
「アルト殿下。初めまして。……ようやくお会いできましたね」
柔らかい声。けれどどこか、均一で整いすぎている。
笑顔なのに、体温を感じない。まるで祈りの像が喋っているようだった。
「俺のことを……知っているのか?」
「もちろんです。神が仰いました。
“王の血に祝福を与えなさい”と」
「……神が、命じた?」
「はい。それが私の使命です。
私はあなたを愛します。命に代えても」
その言葉に、思わず息を呑んだ。
あまりに真っ直ぐで、あまりに歪だ。
“好きだから愛する”のではなく、
“神に命じられたから愛する”。
一瞬どこか諦めたような顔をした彼女に
俺は、口を開こうとして――何も言えなかった。
だが次の瞬間、空気が震えた。
セラフィナの手元の花が、光を帯びて咲き乱れる。
まるで見えない力に操られるように、花弁が宙を舞った。
「神は……見ておられます。
私があなたを疑わないようにと」
彼女の瞳が金色に輝いた。
美しい瞳から涙がこぼれる。
俺は悟った。
この世界の“愛”は、祝福ではなく、呪いだと。
神と聖女と呪いと愛と @Hkoh
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