シリアルを踏んだ。→→

ベジローロ

am4:30→

 タンタラランッタンタンッ。木琴で奏でたような、きっと穏やかな森林の早朝を表しているのだろう音が、一回半繰り返されたくらいのところで私は止める。四時三十分に起きる。いつものことだが、やっぱり体が重すぎる。瞼は皮をうまく畳めないようで、多分今、二重線が四本くらいできている。二の四乗なので、十六重。


 身体的にも精神的にも非常にだるいが、ここで身体を奮い立たせて動き出さなければ、明日の起床は準備運動なしの走り出しということになる。この一瞬の怠惰で、作り上げた毎日の起床リズムを崩せば明日の朝の走り出しは鈍くなる。そう、起床はスポーツだ。一昨日、昨日から渡ったバトンを今の自分が明日へつなげる一人リレー。まあだから誰も見てないし、バトンで地面に猫さんをお絵描きする日があってもいいと思う。


 二本足で布団の上に立ち上がる。これこそ起床!扉を肩で押し開ける。ゆらゆらやる気のなさそうな扉から、やる気のなさそうな私がふらふら出てくる。階段を下りる。トン。トン。トントン、トントントントン。クレッシェンド下り。まだまだ。トン、トン、クシッッカンッカッカッ・・・。誰だよ、階段にシリアルばらまいたやつ!


 足の裏、土踏まずを避けて、ドーナツ型の、カラフルなユニコーンカラーのシリアルがこびりついているのを確認。しかしなぜか、一つも割れずに原型をきれいに保っている。右足裏のシリアルらを払おうとする。が、全く取れる気配なし。びくともしない、結構しっかりとくっついている。そういう仕様か。

 

 シリアルの一つをつまんでみて、引きはがそうとするが、マグカップの取手のごとく動かない。だから皮膚との隙間に爪を入れ込んでみた。その時、人差し指の第二関節の腹に僅かに、風を感じた。気のせいだろう、いやそんなことはない、強くなってないる。どこからか吹き始めた風によって、確実に指の腹が押され始めている。


 眠気眼をかっぴらいて、足の裏を凝視し私は確信した、風は、シリアルの穴から噴き出している。それに気が付いたあたりから、足裏にへばりつく二十ほどのシリアルが一斉に風を起こし始めた。そういえば最新のドライヤーもこんな感じのフォルムをしてたな。しかもこれ、よく見たらシリアルではない。最新型ドライヤーの頭部であった。小さいが、それは確かにウィングを持たずに「穴」から風を吹き出すそれだった。


 風力がどんどん、どんどん強くなる。私は、右足裏が斜め上を仰ぐように左手で足首をつかみつつ、右手は壁につき、左足を軸にしてフラミンゴ状態をキープしていた。しかしこのままでは押し負けてバランスを崩してしまう。そう思った瞬間、右足の“シリアル”達の総風力は形容するならばジェット機並みになった。

 

 そしてどうしたことだろうか、私はフラミンゴ状態を保ったまま、右足裏からのジェット並みの噴射に身を任せ、その場で縦回転した。それは「4」の暴走、それは扇風機のファンのように。グオングオン、グオングオン、自宅の階段でひとり、私はものすごい豪速で回り続けたのだった。    

 

 タンタラランッタンタンッ。タンタラランッタンタンッ・・・。五時を示すアラームが響き渡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シリアルを踏んだ。→→ ベジローロ @Vege_loro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画