老人と犬と夕焼けと —愛情とはー

Kay.Valentine

第1話

会社の帰り道に、少し腰の曲がった老人が


犬と散歩をしているのをよく見かける。


歩きながら老人はいつも犬を叱っている。


「このバカ犬」


「まったく、おまえさんはのろまだよ」


などと言って、


よく頭を叩くしぐさをしたりする。


もう少し優しくしてあげたらいいのに


と思っていた。


会社帰りに、


私は下町の裏通りにある「福屋」という


おでん屋によく寄り、


店の外のベンチに座って


おでんで一杯飲むのだが、


晩秋の或る夕暮れ時、


その老人が犬を連れてやって来て


私の横に腰かけた。


老人は、


おでん二皿とコップ酒を一杯注文した。


そして、まず、


おいしそうにコップ酒に口をつけた。


その後、おでんを食べるかと思っていると


老人は足元で尻尾を振っている犬に


タマゴとかチクワとか、


おいしそうな具をひたすら与え続けた。


犬が満腹になり、


食べ物に振り向かなくなって初めて


老人は自分が食べ始めたのだった。


それは私が幼い頃、


母親とレストランに入った時に


母がしてくれたことと同じだった。 


しばらくして、


老人は「よいしょ」と立ち上がり


勘定を払うと、


犬を連れてゆっくりと歩き始めた。


おりしも真っ赤な夕日が


落ちようとするところで


夕映えのなか、


ふたつの影は長く尾をひき


やがて、一つにとけあった。

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