第22話 聖女の堕落と、淫魔の紋章
小鳥のさえずりが、王宮の朝を告げていた。
カーテンの隙間から差し込む光が、散乱した衣服と、乱れきったベッドを容赦なく照らし出す。
「……んぅ……」
僕は、鉛のように重い瞼をこじ開けた。
身体の節々が痛い。腰に関しては感覚がない。
昨夜のアリア様は、まさに獣だった。
「魔力火照り」という名のドーピングを受けた聖女様は、底なしのスタミナで僕を求め続け、僕が気絶(※フリではなくマジ寝)するまで離してくれなかったのだ。
「……アリア様?」
隣を見る。
そこには、シーツを腰まで掛け、とろとろとした寝顔で微睡んでいるアリア様の姿があった。
白い肌には、昨夜の情事の痕跡——赤いキスマークが、首筋や鎖骨、さらにその下の柔らかな膨らみにまで、無数に散らばっている。
(……やっちゃったな)
既成事実どころの話ではない。完全に一線を超え、二線も三線も超えてしまった。
これからどう顔を合わせればいいんだ。
「昨日は魔力暴走の事故でした」で済む話ではない。
その時だった。
——ドクンッ。
僕のS級スキル【危険感知(センス・デンジャー)】が、脳内で最大級のアラートを鳴らした。
敵襲か? いや、違う。
反応は、すぐ隣——アリア様の中から放たれている。
それは、いつもの透明な聖なる魔力ではない。
ドス黒く、粘りつくような、甘ったるいピンク色の闇の魔力。
「……ん……カイト……?」
アリア様が、ゆっくりと目を開けた。
その瞬間、僕は背筋が凍りつくのを感じた。
いつもの、湖面のように澄んだサファイアブルーの瞳ではない。
その瞳の奥が、妖しく、毒々しい**「紅紫色(マゼンタ)」**に濁って輝いていたのだ。
そして、シーツから覗く下腹部——滑らかな白磁の肌に、今までなかった**「ハート型の黒い紋章(タトゥー)」**が、禍々しくも淫らに浮かび上がっていた。
「ア、アリア様……? その目、それにそのお腹の紋章は……」
「……あぁ、カイト……♡」
アリア様が、とろけるような笑顔を浮かべた。
だが、それはいつもの「清楚で少し天然な聖女」の笑顔ではなかった。
獲物を前に舌なめずりをする肉食獣。いや、男の精気を啜る「淫魔」の笑みだ。
「おはよう……私の『エサ』さん……♡」
「……は?」
次の瞬間、アリア様がバッとシーツを跳ね除け、僕の上に馬乗りになった。
豊満な裸体が朝の光に晒されるが、彼女は隠そうともしない。
むしろ、豊かな胸を両手で下から持ち上げて強調し、腰をくねらせて見せつけてくる。
「ア、アリア様!? 恥じらいはどうしたんですか! まだ僕も服を着てないのに!」
「恥じらい? ……ふふ、そんな邪魔なもの、捨てちゃったわ」
アリア様が、妖艶に舌なめずりをする。
その仕草だけで、脳髄が痺れるような色気が放たれる。
「昨日の夜……最高だったわ。カイトの魔力が、私の中を掻き回して……。そしたらね、聞こえたのよ。『声』が」
「声……?」
『——もっと欲しがっていい。聖女の殻なんて破って、快楽に溺れなさい』
アリア様の背後に、揺らめく影が見えた。
蝙蝠のような翼と、矢尻のような尻尾を持つ影。
——サキュバスだ。
(……まさか!)
僕は昨夜の記憶を高速で再生する。
レオハルト皇子。あのダンス対決の最中、彼が放った無数の妨害魔法。
その中に一つだけ、「遅効性の呪い」が混じっていたとしたら?
そして、それが昨夜の「魔力暴走」と「激しい情事」で、アリア様の精神防壁が緩みきった瞬間に発動したとしたら?
(『淫魔の呪い(サキュバス・カース)』……! 聖女を堕落させるための禁呪か!)
本来なら、聖女の浄化力で弾かれるはずの呪い。
だが、今の彼女は「女」の喜びに目覚め、防壁が内側から溶かされている状態だ。
呪いは、彼女の性欲と独占欲を増幅させ、理性のリミッターを完全に破壊してしまったのだ。
「ねえ、カイト。……足りないの」
アリア様が、僕の胸板を指先で這い回る。
その指の動き一つ一つが、電気を帯びたように神経を逆撫でする。
「昨日のだけじゃ、全然足りない。乾いてるの……。もっと、ドロドロになるまで注いで……?」
「ちょ、朝ですよ!? これから王宮への挨拶もありますし、帰りの馬車も……」
「関係ないわよ、そんなこと」
アリア様が、僕の耳元で囁いた。
その声は、理性を直接溶かす毒薬のようだった。
「王様の前でも、馬車の中でも、学園の教室でも……。カイトが欲しくなったら、いつでも『シて』あげる」
「!?」
「みんなに見せつけてやりましょう? あの堅物で清楚な聖女アリアが、こんなに乱れて、カイトなしじゃ生きられない『メス』になっちゃったって……♡」
完全に、タガが外れている。
「聖女」が反転し、快楽を貪る「淫婦(ビッチ)」へと闇堕ちしてしまったのだ。
しかも、その対象は僕一人に固定されている。
「さあ……まずは『朝ごはん』をいただきましょうか?」
アリア様の手が、シーツの下、僕の無防備な弱点へと伸びる。
その手つきは、昨日までのぎこちなさは消え失せ、恐ろしいほど手慣れた、淫らで巧みな動きに変わっていた。
「ひっ……!」
「ふふっ、ビクッてした♡ 可愛い……。昨日は私が攻められっぱなしだったけど、今日は私が……全部、搾り取ってあげるから」
マゼンタ色に輝く瞳で見下ろされ、僕は悟った。
S級魔物よりも、帝国皇子よりも恐ろしい強敵が、ここに誕生してしまったことを。
「い、いただきまーす♡」
「アリア様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
王宮の朝。
サキュバス化した聖女様は、もう止まらない。
僕の「平穏」どころか、「貞操」と「尊厳」、そして「生命力」の危機が、かつてないレベルで迫っていた。
【第22話・完】
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無能と呼ばれた俺が、実は世界最強だった件 〜最弱スキル【鑑定】が万能すぎて学園最強の聖女様に惚れられました〜 深海馨 @carpwr80
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