第21話 脱ぎ捨てられたドレスと、聖女の暴走

 夜会は、僕たちの勝利という劇的な幕切れで終わった。

だが、本当の「戦い」は、会場を後にした直後から始まった。

「……はぁ、はぁ……カイト……早く、部屋へ……」

王宮の控え室。

重厚な扉の鍵をかけた瞬間、アリア様が崩れ落ちるように僕の胸に倒れ込んできた。

その身体は、ドレスの上からでも分かるほど異常に熱い。

「アリア様!? 大丈夫ですか!?」

「……熱いの。身体の奥が、疼いて……」

あの大掛かりな「シャンデリア演出」で、僕のS級魔力を大量に経由させたせいだ。

魔力回路が過熱し、興奮状態が収まらない「魔力火照り(ヒート)」を起こしている。

しかも、今回はダンスによる密着と高揚感が加わり、症状はルナリア湖の比ではない。

「カイト……苦しいの……。このドレス、脱がして……」

アリア様が、背中を向けて懇願する。

ディープブルーのドレスは、コルセットで極限まで締め上げられている。一人では脱げない。

「……失礼します」

僕は震える指で、背中のレースアップの紐を解き始めた。

ハラリ、と結び目が解けるたび、締め付けから解放された白磁の肌が露わになっていく。

汗ばんだ背中は、甘い香水を煮詰めたような濃厚な香りを放っていた。

「んっ……♡」

僕の指先が背筋に触れるたび、アリア様がビクリと背中を反らせ、甘い声を漏らす。

最後の紐を解くと、重たいドレスが重力に従って床に滑り落ちた。

残されたのは、薄いシルクのシュミーズと、ガーターベルトに吊られたストッキングだけ。

月明かりに照らされたその姿は、聖女というよりは、夜の女神のような背徳的な美しさを放っていた。

「……ふぅ……。やっと、軽くなれた……」

アリア様が振り返る。

その瞳は、トロトロに溶けていた。理性など、もう欠片も残っていない。

「ねえ、カイト。……鎮めて?」

「し、鎮めるって……冷たい水でも持ってきましょうか?」

「違うわ……。あなたが火をつけたんでしょう?」

ドンッ!

アリア様が、僕を部屋のソファに押し倒した。

「うわっ!?」

抵抗する間もなく、アリア様が僕の上に跨ってくる。

薄い下着越しに、柔らかく熱い感触が下腹部に押し付けられる。

「ア、アリア様! これは流石に……!」

「黙って……」

アリア様が、僕の唇を塞いだ。

いつものような軽い触れ合いではない。

舌をねじ込み、僕の呼気と唾液を貪るような、深く、濃密な接吻。

「んっ……ふぁ……んむ……っ♡」

水音が部屋に響く。

アリア様の腕が僕の首に絡みつき、逃げ場を封じる。

酸素が足りない。思考が溶ける。

「はぁ……っ、カイト……♡」

ようやく唇が離れると、銀の糸が二人の間に引かれた。

アリア様は、潤んだ瞳で僕を見下ろし、自分の胸元——シュミーズの布地を両手で掴んだ。

「魔力が暴れてるの……。ここが、一番熱いの……」

ビリッ。

薄い布地が引き裂かれ、豊満な双丘が弾け出るように露わになった。

先端は、興奮と充血で鮮やかな桜色に染まり、固く尖っている。

「触って……。あなたの手で、直接……魔力を流し込んで……」

これは「治療」だ。

そう自分に言い聞かせなければ、僕は発狂していただろう。

僕は、震える手でその柔らかな膨らみに触れた。

「ひゃうっ!!♡」

アリア様が、電流が走ったように仰け反る。

「あぁっ! そ、そこ……! いいっ、すごくいい……♡」

僕が指先から微量の魔力を流し込み、円を描くように揉みしだくと、アリア様は腰を振って僕に擦り寄ってきた。

快楽と魔力の奔流が、彼女の脳髄を焼き尽くしていく。

「もっと……! もっと奥まで……!」

「ア、アリア様、これ以上は……!」

「ダメ……止まらないで……! おかしくなるまで……私を愛して……!」

アリア様の手が、僕のベルトに伸びる。

その指使いは、拙いながらも、明確な意志を持って「ソレ」を求めていた。

「カイトの……欲しい……。全部、私の中に……」

彼女は僕の耳元で、聖女が決して口にしてはいけない言葉を囁いた。

その声は、甘い毒のように僕の理性の最後の砦を侵食していく。

もう、逃げられない。

平穏な生活? 知るか。

目の前で、こんなにも乱れ、僕だけを求めてくる世界一美しい女性を前にして、止まれる男がいるなら連れて来い。

僕は、アリア様の腰を強く抱き寄せた。

「……後悔しませんね、アリア様」

「後悔なんて……させる隙も与えないで……♡」

二人の影が、ソファの上で一つに重なる。

王宮の片隅、誰にも邪魔されない密室で。

聖女と守護騎士の「主従」の枠を超えた、長く、熱い夜が始まった。

窓の外では、星々がその情事を見守るように、静かに瞬いていた。

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