Moon Archive

Ω-Black: 文書No.44-Σ 技術鑑識レポート(改訂)


《Mavros-Key / Temporal Scatter Incident


(マヴロス鍵・時間散乱事象)》


— 未解決現象調査レポート(統合版 / ver.1.2)



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0. 序:事象分類について(From Moon Archive LL)


本報告書は、2060 年に発生した

「マヴロス鍵の散乱(Fragmentation)」事件と、

その後確認された “時間的異常(Temporal Scatter)” との

関連性を調査するために作成された。


以下の内容は 確定した結論ではなく、

すべて仮説(Hypothesis)である。


また、本レポートの結語は

当局が管理する 《序 0.4:不可逆な転写現象》 の記録と

内容的に重複・補完しあうため、

両文書は 一体として扱うことを推奨する。



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◆ 1. Root-Key 構造の概略(再整理)


エロン・マヴロスが保持していた「十点鍵(Root-Key)」は:


生体認証(Bio-seal microcell)


物理基板(Titan-ceramic)


署名層(Q-Signature:旧 OTO 技術)


神経ベクトル(Neural Vector)



以上 4 層を同時に満たすことでのみ作動する

“多重署名鍵(Multi-layer Identification Key)” である。


本来は破壊も複製も不可能とされていた。


しかし ――

事件は起きた。



---


◆ 2. 事件ログ(復元記録)


2060 年、Helios が TFD の軌道レーザーに被弾した瞬間、

鍵は “死亡検知” を誤作動し、

自動生成プログラム(Backfill)が作動。


以下は復元された原文ログ:


[2060-07-29 21:14:03 UTC]

BIO-SEAL integrity FAIL

Q-SIGNATURE: decoherence

ROOT-KEY: owner = DEAD? (0.87)


Fallback → BACKFILL-AUTO()

Error: Q-signature unstable


Mode = fragmentation

Fragment count = 10

Destination = "global cluster"


問題は、この後である。



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◆ 3. Fragment #10:唯一の“不明領域”


十個の断片のうち九個は、

既知ネットワーク(Omni/Aether/Nexus/LL 等)へ保存された。


しかし Fragment #10 だけは:


保存先 → NULL / Unknown Layer


時間印 → 2060年ではなく、複数の年代に同期


空間座標 → ロスト


宛先クラスタ → 判別不能



→ 本断片は “時間軸そのものを外れた可能性” がある。



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◆ 4.《時間散乱(Temporal Scatter)》仮説


技術班は、本断片が:


**「過去・現在・未来のどこか、特定し得ない年代へ


落ち込んだ可能性」**


を排除できないとしている。


理由は以下:


Helios の核分裂スラスターによる加速で

Q署名の基準座標が破壊された。


Aegis-Lattice の干渉波によって

“時間参照層(Time Reference Layer)” が撹乱された。


Backfill が「空間」ではなく

“最も安定している計算クラスタ” を優先した可能性。


そのクラスタが 時代をまたいで存在する“弱点点(soft-spot)”

に一致した可能性。



本仮説は、

《序 0.4:不可逆な転写現象》に記録された

“原因不明の同期現象” とほぼ同型である。



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◆ 5. 対象者について(未確定)


Fragment #10 が “どの時代へ落ちたか” は不明である。

Moon Archive LL は以下を提示するが、

これは どれも確定していない。


【仮説A:特定の個体に接続した】


→ 断片が「生体署名」だけを検出し、

時代を問わず最も近い生体パターンへ結合した可能性。


【仮説B:特定の時代そのものに保存された】


→ 個体ではなく、“年代の計算クラスタ” に保存された可能性。


【仮説C:断片は“流れ続けている”】


→ 当該フラグメントは時代に定着しておらず、

因果構造の中で漂流している可能性。


結論:対象者は特定できない。


Moon Archive は、

断片の受信者(if any)は 「後世の観測に依存する」

と記している。



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◆ 6.《不可逆な転写》との接続(序0.4)


《序 0.4》に記録された

“ある個体の意識が、別の年代で再起動した現象” について、

本レポートは以下の立場を取る:


両事象に因果関係がある可能性は排除できない。


だが、それを証明するデータが存在しない。


Fragment #10 が原因である可能性は “低くも高くもない”。


認証プロトコル類似性はあるが、

意図的な結びつきは立証不能。



Moon Archive の結論:


> 「あれが誰であるかは、まだ観測されていない。」

「現象は記録されるが、因果はまだ閉じていない。」

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◆ 7. 暫定結論(全て未確定)


Mavros Key は十個に分裂した


九個は地球・火星の既知クラスタへ保存?


一つ(Fragment #10)は時空座標を外れた


保存先も受信者も不明


“転写現象”との関連は完全には否定できない


だが肯定もできない


事件は依然として “観測中(Under Observation)”




---


◆ 8. 研究者ノート(Ω封印)


「Fragment #10 は、いまだ『沈黙』している。」


「誰が受け取ったかは“まだ”明らかになっていない。」


「だが、“偶然とは思えない類似性”が多すぎる。」


「最後の鍵は、過去か未来か、それとも……」


「いつか“応答”が返るかもしれない。」

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