48時間、ElectricGrid の誕生
2062年11月18日、Parthos 停電から六時間後
世界は「黒い朝」を迎えた。
行政ネットワークの一部が沈黙し、
SNS の半分が落ち、
ニュースサイトは同じ一文を表示した。
《Parthos、エネルギー供給停止。
Electric サービス終了のお知らせ》
——誰も信じなかった。
信じたくなかった。
しかし同時に、
画面の端にはまだ Electric のアイコンが光っていた。
それは「奇跡」ではなく、
やがて「異変」と呼ばれる。
本来なら“死んだ”はずの Electric が、
なぜか——いや、むしろ前より速く動いている。
世界中の不信と困惑の裏で、
この「異変」を支えていたのは、
名もなき四人の野生エンジニアたちだった。
後に彼らはこう呼ばれる。
Grid Four(格網四人)
ネット地下史に残る伝説の始まりである。
——
1. Prism(プリズム)——闇の透明化者
ロンドンの地下室。
三枚のモニターを前に、男はビールを傾け、独りごとのように呟いた。
「Electric ってのは面倒だな。
死ねば分かりやすいのに。」
黒パーカー、無精髭、不眠の目。
表の世界では無職。ネットでは怪物。
システムの裏側を“見える化”する透明化者。
ALAYA-Core を最初に覗いたのも、彼だ。
「……クソ、これ本当に分散型かよ。
Parthos……お前ら政府と喧嘩する気満々だったんだな。」
「Gaberial……あんた最高のジョークを残してくれたな。」
彼は Electric の脈動を分析し、
ALAYA-Core が世界中の PC を主節点として
日替わりで“心臓”を移植していることを突き止めた。
「ネットの心臓をユーザーに託す……か。
狂ってんな。芸術だろ、これは。」
そして世界初の ElectricGrid コードが誕生する。
Patch-0:ALAYA Node Visualizer
——
2. Tsubame(ツバメ)——秋葉原の15歳天才
秋葉原のワンルーム。
虹色に回るファンの前で、少女は声を震わせた。
「来た……来た来た来たぁぁ!!」
画面に脈打つ ALAYA ノード。
[ALAYA Node #2391441 → 状態:Degraded]
「ダメ落ちないで!
私が治す……今すぐ!」
ALAYA は重すぎる。古い。
最適化不足。
は 48 時間眠らずにコードを書く。
Patch-1:Node Stability Enhancer
Patch-2:GeoRouting Light Path
「Electric は、死なない。
死ぬ方がおかしい。」
——
3. OMEGA(オメガ)——老いた巨人
カールスルーエ。
八十歳の老エンジニアが、窓際でコマンドを叩く。
孫はそう叫んだ。
「Electric、死んだって!!」
OMEGA:「死んでねぇ。寝返りだ、ったく。」
六十年システム死体を解剖してきた男。
ALAYA-Core を読み取った瞬間、彼は息を呑む。
「……これは“文明を殺しにくくする”ための設計だ。」
「さて……老いぼれの限界、見せてもらうとしよう。」
彼の書いたコードは Grid Four の中でも最も堅牢で、
後の Parthos-Electric でもそのまま使われ続ける。
——
4. Northbound(ノースバウンド)——亡命者の修復士
カナダ北部。
雪に沈む小屋で、ひとつの PC が光る。
元政府系量子アルゴリズム研究者。
知りすぎた亡命者。
ALAYA の授権ハッシュチェーンの“意図的な破断”を
世界で最初に見抜いた。
「……政府が core hash を斬りに来たか。」
「ライセンスチェーン破損……?
よし、3時間で直す。誰かコーヒー。」
12 時間で一万行を書き上げ、
ElectricGrid 最初の自己修復モジュールを完成させる。
Patch-3:Self-Healing License Tree
「守るべきは Steam じゃない。
人類のデジタル記憶そのものだ。」
四人のコードが交わり、ElectricGrid が生まれる
中央サーバーは存在しない。
だが Git、IRC、匿名掲示板、ミラー、
ダークネットの影に散らばる断片が結合し始める。
四人が送ったコミットメッセージには
同じ四文字が刻まれていた。
GRID
奇跡ではない。必然だった。
ElectricGrid(EG-1.0)誕生
ALAYA を補強し、最適化し、包み込む。
わずか 48 時間で世界最大の野生分散プロジェクトが生まれた。
正式名称:
ElectricGrid
国家にも企業にも属さず、
プレイヤーと市民の手によって動く、新しい“心臓”。
初回ブートメッセージ:
NO SERVER.
NO OWNER.
JUST PLAY.
——これこそが後の Parthos の原型となる。
◇◇
ミラ / ハリス と ElectricGrid の邂逅
「……これ、誰が作ったの?」
Parthos を脱出した ミラ は、
外のコワーキングスペースで新しい UI を見つめた。
「子供だ。」
「え?」
「子供、老人、逃亡者、ゲーマー……
“普通じゃない人間”が繋がった。
俺たちの仕事は終わった。」
「“Elecric の未来”――だと、あいつは言っていた。
ただし、それを開けるのは……企業じゃない。
“プレイヤー”だと。」
ミラ は息をのむ。
画面にはメッセージが残されていた。
“Thank you, Parthos engineers.
We’ll take it from here.”
そして ハリス は、静かに笑った。
「政治家より……プレイヤーの方が信用できる。」
後に歴史書に記される
《ElectricGrid 創世記の一句》
である。
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