魔女のジャック狩り
磐長怜(いわなが れい)
「お疲れ様です」となにげない風を装って退勤する、ハロウィンの夜だ。家に着くなり段ボールから取り出したのはカブとミニカボチャ。もちろん乾燥・加工済みだ。これらを作るのも手間だったが、持って外に出るかと思うとまた骨が折れる。しかし研究の素材のためである。今夜のレア素材ほしさに夏の暑い時期筋トレが欠かせない。
私の本業は魔女である。「
今年は規制が厳しくなった渋谷に繰り出す。谷の水気と薄暗く古い建物が同居するこの町では、たまにお祭り騒ぎを超えて暴動事件なども起きるがここ数年は小康状態ということだ。
「けちで結構、名無しのジャック。さまようのに疲れたら、棲みかに入ってみてはどう?」
魔女の力量やジャックの個体との相性はあるが、うまくすればこれで用意したカボチャやカブに入ってくれる。今年はミニマムなカブがジャックの間で流行すると聞いたので、多めにカブを仕入れておいた。どうやらそれは正解で、先ほどまで隅にいたジャックは今はカブの中で炎に顔を照らされていた。
基本的に大きなジャックほど、ケチで嘘つきで自己愛が強い。手に入れたいジャックは交渉次第――つまりほとんどナンパの
いくつか捕まえて
「けちで結構、名無しのジャック。さまようのに疲れたら、棲みかに入ってみてはどう?」
ジャックは応えない。
まずいと思って距離をとる。ジャックの生前を計るのは魔女でも危険だ。うまくいかないならあきらめることも肝心である。ふと見るとジャックはがらんどうの目で泣いている。少なくとも泣いていると思わせるだけの何かを持っている。依存心の強さがふくれあがったようなわがままボディである。もう一度だけ、
「けちで結構、名無しのジャック。3万出すよ、何もしなくていい。今晩はうちに泊まったら?」
金で自分の価値を図るタイプだったのだろう。わがままボディのジャックは
もしもあなたが人間なら、決して魔女のジャック狩りを邪魔しないでほしい。これは正当な取引だし、また、あなたにもいつか魔女からの「お呼び」がかかるかもしれないのだから。
魔女のジャック狩り 磐長怜(いわなが れい) @syouhenya
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