音は途絶えた

ドライアイスクリーム

第1話

月の光が地上を照らすある夜のこと。


その人物は、そんな明るい光とは対照的に悲しみに打ちひしがれていた。


長い髪で表情はよく見えず、性別さえ分からない。


しかし、震わせている小さな体からして子供なのだろう。


その子は声も上げず周囲を一切確認しないままひたすら涙を流し続けている。周囲に人はいないものの異様な光景に見えるかもしれない。


そんなとき、突如としてその子の体が宙に浮いた。


空を飛んでいるわけではない。定型縊死をした人間のように宙ぶらりんになり、そのまま未知の力により上空へと引っ張られていったのだ。


その子は既に泣くことは止めていた。しかし驚きもしなかった。


こうした異常現象に直面した場合、通常ならば驚きや恐怖のような反応を示すべきなのだろうが、それをする気力さえも残されていなかった。


感情を示すにも気力がいるものなのだ。その子は考えた。


手足をだらりと垂らした自身が上空へと引っ張られていくうちに、その子は見た。


真横に高速回転している巨大な刃物だった。赤黒いものがへばりついており、先端部分は月明りを受けにぶく光っている。


どうしてこのようなものがあるのかなど気にもしなかった。世の中にはそうした不可思議なものも存在するのだろうという感想以外頭に浮かばなかった。


そして、この回転する刃物は頭上にある。もしこのままさらに引っ張られたら。


予想は的中すると同時に、その子の意識は断絶された。


鋭利で巨大なナタに首を分断され、断面から血液が溢れるように流れ出ている。


途端、宙に浮いていた体が止まり、そのまま重力に従い落下していった。


一体どれほど高くのぼったのか。崩れ落ちた体は地面に落ちたらどうなるのか。


人々は猟奇的殺人事件としておそれるかもしれなかった。


しかし、既に命のないその子にとってはもはやどうでもいい話だろう。


絶命すればこの世の喧騒とは無縁でいられるのだから。

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