0章ー5

「そして、忘れてはいけない者がもう一つ。

 ロンドン以外の騎士団です」


 映し出されるのはロンドン以外の騎士たちの映像。


 まず初めに写されたのはラドローと呼ばれるウェールズとの境界付近に存在する街だった。

 豊かな自然と、古城を模した騎士団支部。

 街では住民と騎士たちの交流が映し出されている。

 騎士団の中にはまだ幼さを感じさせる少女もおり、大人の騎士に混じりながらも戦っていた。


 場面は変わり、極彩色の港町、テンビーへ。

 水産と観光を主産業とするこの町にも騎士はいる。

 両誌の船に混じり船舶警護に商店街の見回り。

 ラドロー同様、地域に密着した活動をしていた。


「もちろん、騎士団が常駐するのはこのロンドンだけではない。

 テンビー、ラドロー、各地の都市に『分隊』が存在している。

 見ての通り、それぞれの地域の特徴に合わせた業務内容となっているため、ロンドンとはまた違った活動になる。

 それぞれの拠点による活動内容は、各自手元の資料を参照してください。

 そして、地方勤務と侮ってはいけません。

 我々の最大の任務は『英国の守護と発展の助力』。

 城がどこにあろうと果たす使命は何も変わらない。覚えておくこと」


 メモを取る者がちらほらと見られる中、ふと、一人の学生がこわごわと挙手をした。

 グレースが指名すると、彼はグレースの表情を伺いながら口を開く。


「スミス先生、ペンドラゴン十三騎士団と名前にありますが、十三番目の騎士団は……? 

 今十二しか説明されていませんが、噂に寄れば――」


 すると、グレースは「そうでした」と声を上げる。


「ああ、よくある話ですよ。

 円卓における十二番目の席が空席であるように、十三番目の騎士団は存在しない。

 オカルト的だと私も思う。

 けど、伝統は伝統。そういうものなのです」


 他の学生が言う。


「先生! 私、十三番目の騎士団があると聞いたことがあります。

 あれは嘘だというのですか?」


「あはは、未だにあるんだねその都市伝説。

 私もよく欺されてましたよ。

 アレキサンドリアの遺物叱り、意志ある魔書叱り、オペラ座の怪人叱り……いや、怪人は確か実在したんだった。

 いつの時代でも人はあり得ざる存在を求める」


「きっと、どこかの物好きが流した噂でしょう。

 誓って私は、十三番目の騎士団は知りませんよ」


 グレースが胸に手を当てたその瞬間、生徒席の最奥から彼女を見下ろす一対の視線があった。


 生徒たちの中には、「そもそも都市伝説を信じておらずグレースの発言を当然と受け取る者や、真実を聞いて肩を落とす者。絶対十三番目の騎士団はあると信じて疑わない者もいる。

 その様子を見てグレースは、微笑ましそうに口元を緩めるのだった。


「さてと」


 指を弾く音と共に、光像は光の粒となり、教壇の方に一手に集まる。

 集合したそれらは、ロンドン=ペンドラゴン城へと変わり、グレースの背後にそびえ立った。

 ゆっくりと回転しその全貌を悠然と披露する。


「授業前の演説は終わり。

 今改めて君たちを歓迎するよ。

 英国の未来を支える若駒たち!」


「ようこそ、竜の居城へ。

 ようこそ、ペンドラゴン十三騎士団へ」


「共に、未来へと歩みましょう。

 輝かしい、英国の未来を共に作りましょう」


 グレースは大きく手を広げ、ゆっくりとお辞儀をする。

 瞬間、生徒たちは拍手を始め、講堂は喝采に包まれるのだった。


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ペンドラゴンの騎士 内海郁 @umiumi0916

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