エピローグ

赤色置換現象が収束して、1年半が経った。




あれほど世界を揺るがせた異常は、今では誰もが口にしなくなっている。


まるで、最初から何もなかったかのように。




懐古病の犠牲者は、約800人。


その全員が——帰ってこなかった。




シュンだけが、唯一の生存者だった。




タケルも、きっと生きている。


どこかで、誰かの声に応えて。


——この世界の、どこかに。




「シュンさんお墓参りご苦労様」




肩を並べて歩いていたナルミがシュンの顔を覗き込む。




「悪かったな、墓参りの間、車で待っててもらって」


「ううん。家族水入らずなんだから」




ナルミの顔は晴れやかだった。




二人は海沿いの歩道を歩く。




ナルミはシュンの歩幅に合わせ大股に歩きながら訪ねた。


「それにしても…」


「ん?」


「なんで海に行きたいなんて言い出したの?」




シュンは


少しだけふっと微笑んで




「おさんぽだよ」




ナルミは首をかしげたが、深くは聞くまいと微笑みで返す。




その時


シャボン玉が流れてきた。




目をやると




見覚えのある




ダルそうな歩き方をした若い男を見つけた。


 


END

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赤い悲雨 光春樹 @mitsuharu-itsuki1176

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