星降る夜の贈り物

星降る夜の贈り物

雪がしんしんと降り積もるクリスマス・イブの夜、山あいの小さな村は静まり返っていた。

その一軒家の中で、祖母の澄子(すみこ)は古びた暖炉の前に座り、ひと針ひと針、銀色の糸で編み物をしていた。


「おばあちゃん、まだ寝ないの?」

布団から顔を出したのは、孫の莉子(りこ)。小学三年生の小さな女の子だ。


澄子は微笑んで答えた。

「もう少しだけね。サンタさんに頼まれた仕事があるのよ。」


莉子は目をぱちくりさせた。

「サンタさんに? 本当?」


祖母はうなずき、声をひそめて言った。

「この村のサンタさんはね、年を取りすぎてソリを引けなくなったの。それで、代わりに“想いを届ける人”を探していたのよ。」


莉子は目を輝かせた。

「じゃあ、おばあちゃんがその人なの?」


「ええ。でもね、私はもう昔ほど魔法が使えない。だから今夜は、莉子の力を借りたいの。」



深夜、二人はそっと外へ出た。

月の光が雪を照らし、世界は銀色に輝いている。澄子が手に持っていたのは、小さな毛糸の袋。中には温もりを宿した“星のかけら”が入っていた。


「このかけらは、誰かの“願い”なの。叶えられなかった想いが、夜空から落ちてくるのよ。」


莉子は袋をのぞきこみ、小さな光の粒を見つめた。

「これをどうするの?」


「贈り物に変えて、必要な人の枕元へ届けるの。」



二人は村の家々を回った。

病気の子には星が“元気のりんご”に変わり、ひとりぼっちの老人には“語りかけるランプ”が灯った。

莉子が心をこめて袋を開くたび、星のかけらは違う姿で輝いた。


やがて夜が明けるころ、袋の中にはひとつだけ、光が残った。

「これは……誰の願い?」と莉子が尋ねると、祖母は静かに微笑んだ。


「それはね、あなたのパパの願いよ。」


莉子の目が丸くなる。

「パパの? でもパパはもう――」


祖母はうなずいた。

「ええ。けれど、あの人は今でも、あなたと私が幸せでいることを願っているの。」


澄子が手を伸ばすと、最後の星のかけらは柔らかな光を放ち、雪の中に舞い落ちた。

その瞬間、空にオーロラが広がり、風の中で誰かの優しい声が聞こえた気がした。


「メリークリスマス、澄子。メリークリスマス、莉子。」



朝になり、暖炉の前にはふたりのための贈り物が置かれていた。

莉子の靴下の中には、小さな銀の鈴。振ると、どこか懐かしい音が響いた。

そして澄子の椅子には、淡い光を放つ編みかけのマフラーが完成していた。


澄子は静かに微笑み、孫の手を握った。

「見たでしょう、莉子。願いは、ちゃんと届くのよ。」


雪の朝日が差し込む中、ふたりの笑顔が、まるで星のようにきらめいていた。


−終−

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星降る夜の贈り物 @nobuasahi7

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