第45話 森に消える声

 森はしんと静まり返っていた。

 鳥の鳴き声さえ遠く、ただ枝葉が風に揺れる音だけが耳に届く。


 アウレリウスたちは分散して森を探していたが、何も見つからない。

 一行の誰もが、ここは無駄足だったのだと――口には出さないまでも、そんな諦めの色を帯び始めていた。


 その時、アウレリウスはふと足を止めた。


「……おかしい」


 彼の視線の先には、地面の陰にひっそりと生えた雑草が一房。

 それは侯国では滅多に見かけない種類だった。エドワードと共に留学生活を送り、この土地の植生にも慣れ始めていた彼の目には、それが確かに「違和感」として映った。


 だが――それだけだった。


 根を掘り返しても、周囲を探しても、古びた建物の壁を叩いても、中には何の痕跡もない。

 魔術の気配があったという報告も、この風にさらわれて消えた幻だったのかもしれない。


「……もう撤退の時間です」

 斥候の一人が声をかけた。


 アウレリウスはゆっくりと頷き――そして、膝から崩れ落ちるように地面に座り込んだ。

 長い沈黙の果て、ようやく彼の喉から声が漏れた。


「くそっ……!」


 拳が地面を叩く。乾いた音が森に響く。

 もう限界だった。どこにいるんだ。どこで一人で泣いているんだ。


 堪えきれず、彼は叫んだ。


「オクタヴィア――!!」


 その声は木々の間に吸い込まれ、誰の耳にも届かないまま、森の奥へと消えていった。

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