第44話 曇天の誓い

 出発の朝、空はどんよりと曇っていた。

 最低限の人員――アウレリウス、ギルベルト、カール、それに侯国の斥候たちだけが旧ローゼンタール邸の門前に集まった。竜騎兵団の本隊は依然として他の地域を捜索している。この森の廃墟はすでに一度探索した場所であり、「一応」向かうにすぎない場所とされていた。


「殿下は……」

 アウレリウスが口を開くが、声はかすれていた。


 エドワードは玄関の前から見送っていた。彼は最後まで「僕も行く」と言い張ったが、警護の責任者にも、軍の司令官にも止められ、結局アウレリウスにすべてを託すしかなかった。


「必ず……見つけてくれ」

 絞り出すような声だった。


 アウレリウスは深く頭を下げ、何も言わずに馬に跨った。手綱を握る手には力がこもり、白くなった指先が彼の迷いのすべてを物語っていた。言葉にすれば、自分の中の祈りが壊れてしまいそうで、ただ胸の奥で繰り返す――


 今日こそ……今日こそどこかで、オクタヴィア殿下が見つかってほしい。

 自分でなくてもいい。他の誰かが彼女を見つけてくれるなら、それでいい。

 どうか……どうか無事でいてください。


 馬の蹄が地を叩く音だけが、重い空気を切り裂いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る