占いが趣味の僕が、隣の席の栗原さんの恋占いをしたら……!?

間咲正樹

占いが趣味の僕が、隣の席の栗原さんの恋占いをしたら……!?

「うん、その彼との相性はピッタリだよ」

「ホ、ホントですか!?」

「ラッキーアイテムはキーホルダーだね。持ってれば、運気がアップすると思うよ」

「わあ、早速明日持ってきます! 本当にありがとうございました、能勢のせ先輩!」

「どういたしまして。でもあくまで素人の占いだから、ハズレても怒らないでね」

「はーい!」


 名前も知らない一年生の女の子が、満面の笑みで教室から出て行った。

 今の娘は同じクラスの男子に片想いをしているそうで、その彼との相性を占ってほしいという依頼だったのだ。

 趣味で始めた占いだが、何故か異様に当たると口コミで広がり、今ではこうしてほぼ毎日昼休みになると、誰かしらが自分も占ってほしいと押しかけてくるようになった。

 我ながら自分の才能が怖い。


「ね、ねえ、能勢くん」

「ん?」


 その時だった。

 不意に隣の席の栗原くりはらさんから声を掛けられた。

 栗原さんは若干声を震わせており、目も泳いでいる。

 はて?


「どうかした栗原さん? ひょっとして栗原さんも占ってほしいとか?」

「えっ!? な、なんでわかったの!?」

「あ、マジで?」


 今のは占いとか関係なく、適当に言っただけだったんだけど……。


「……うん、実は私も占ってほしいことがあるの」


 指をもじもじさせながら、頬を染めて俯く栗原さん。

 その仕草が小動物を彷彿とさせて、庇護欲をそそる。


「いいよ、僕でよければ何でも占うよ。でもあくまで素人の占いだから、ハズレても怒らないでね」

「も、もちろんだよ! よろしくお願いします!」


 栗原さんは左手の手汗をゴシゴシとよく拭いてから、手のひらを僕に差し出してきた。


「うん、では、何を占えばいいのかな?」

「……あ、あの、私今……好きな人がいて」

「――!」


 まさかの恋占いだったか。

 まあ、栗原さんも年頃の女の子だもんな。

 そりゃ好きな人くらいいるか。


「了解。じゃあ、その彼との相性を占えばいい?」

「はい、お願いします!」

「では」


 僕は栗原さんのぷにぷにの左手を握り、手のひらをじっと見つめる。

 所謂手相占いというやつだが、僕には詳しい知識はないので、手相を見つめていると何となく頭に浮かんでくるイメージをそのまま伝えているだけだ。

 程なく僕の頭に、とあるイメージが浮かんできた。


「おお! おめでとう。栗原さんとその彼との相性はピッタリだよ」

「ホ、ホントに!?」

「うん。ああ、でも、彼は相当ニブい性格みたいだから、栗原さんからの想いには気付いてないっぽいね」

「あ、あはは、それはそうかも」


 へにゃりと眉毛をへの字に曲げる栗原さん。

 ド、ドンマイ……!


「ラッキーアイテムはヘアピンだよ」

「ヘアピンかあ。わかった、早速明日着けてみる! ホントにありがとね、能勢くん!」

「いえいえ、どういたしまして」


 少しでも栗原さんの役に立てたなら、僕も嬉しいよ。




「お、おはよ、能勢くん」

「――! おはよう、栗原さん」


 その翌朝。

 誰もいないはずの教室に入ると、そこには栗原さんが一人でスマホをいじっていた。

 僕は誰もいない教室で本を読むのが好きなので、いつも早起きしているのだが、毎日遅刻ギリギリに登校してくる栗原さんが、今日は随分早いな?


「どうしたの栗原さん? 何か用事でもあった?」

「い、いや、別に!? な、何も用事はないけど!?」


 露骨に目を泳がせる栗原さん。

 ふうん?

 ……あ。

 その時僕は気付いた。

 栗原さんが、花をモチーフにしたヘアピンを着けていることに。


「そのヘアピン、早速着けたんだね」

「う、うん……! 変じゃないかな?」


 もじもじしながら上目遣いを向けてくる栗原さん。

 か、可愛い……!


「全然変じゃないよ! むしろ凄く似合ってて、いいと思うよ」

「ホントに!? やったあ」


 瞬時にヒマワリが咲いたような、満面の笑みになる栗原さん。

 僕の心臓が、ドキリと一つ跳ねた。


「じゃあさ能勢くん! また昨日と同じく、占ってもらってもいいかな!?」

「え?」


 ま、また!?


「それはいいけど……。一日じゃ、それほど結果は変わらないと思うよ?」

「それでもいいの! 念のため! ね? お願いお願い」

「――!」


 縋るような潤んだ瞳で見つめられると、とてもNOとは言えない。


「わかったよ。では、拝見します」

「よ、よろしくお願いします!」


 また手汗をゴシゴシと拭いてから、左手を差し出された。

 ぷにぷにの左手を握り、手のひらをじっと見つめる。

 程なく僕の頭に、とあるイメージが浮かんできた。


「あれ!? 彼との相性が、昨日よりも更によくなってるよ!?」

「ホントにッ!!?」

「うん。相変わらず彼は、栗原さんからの想いには気付いてないっぽいけど」

「でも確実に前進してるってことだよね!?」

「ま、まあ、そうだね」

「やったあ!」


 子犬みたいにぴょんぴょんと飛び跳ねる栗原さん。

 あはは、よかったね、栗原さん。


「ラッキーアイテムはヘアゴムと出ているね」

「ヘアゴムかあ。了解! ありがとう、能勢くん!」

「いえいえ、どういたしまして」


 栗原さんの恋、叶うといいね。




「おはよ、能勢くん」

「――! お、おは、よ」


 その翌朝。

 今日も登校すると、そこには栗原さんが。

 しかも栗原さんは、ヘアゴムで髪を二つ結びにしていた。

 耳の上で髪を結ぶ、所謂ツインテールというやつではなく、首筋で結ぶタイプのやつだ。

 こ、これは……!!

 ――実は僕、二つ結び大好きなんだよねッ!!

 どうしよう、凄くドキドキする――!!

 ただでさえ可愛らしい栗原さんが、五割増しで可愛く見えるッ!

 心臓が自分のものとは思えないくらい早鐘を打っている。

 くう! 静まれ、僕の心臓……!!


「あー、どう? この髪型、変じゃないかな?」

「へ、変じゃないよッ! ……むしろ、凄く……凄くイイと思う」

「そ、そっかあ」


 指で髪をくるくるさせながら、口元をもにょもにょさせる栗原さん。

 可愛すぎるだろこれッ!!

 クソッ、段々栗原さんが好きな男に対して、嫉妬心が湧いてきた――!

 い、いかんいかん。

 僕はあくまでただのクラスメイトに過ぎないんだから、あまり調子に乗るなよ!


「じゃあさ、今日も占ってもらってもいいかな!?」

「今日も!?」

「はい! オナシャス!」

 

 例によって手汗をゴシゴシ拭いてから、左手を差し出す栗原さん。

 これはとても断れる雰囲気じゃないな……。


「……わかったよ。拝見します」


 ぷにぷにの左手を握り、手のひらをじっと見つめる。

 程なく僕の頭に、とあるイメージが浮かんできた。


「なっ!? そんなバカな!? 相性がほぼマックスに近くなってるッ!?」

「ホントに!? FOOOOOOOO!!!」

「……依然として、栗原さんからの想いには気付いてないみたいだけどね。これだけされても気付かないなんて、その彼は相当鈍感極めてるみたいだね」

「んふふ、でも、そんなところも好きなの」

「……そうなんだ」


 心底幸せそうに両手で頬を押さえる栗原さんを見ていたら、僕の心臓がズキリと痛んだ。


「ラッキーアイテムは……、メガネだって」


 なっ!?

 この時、僕は嫌な予感がした――。


「へー、メガネかあ」

「……でも、ヘアゴムとかと違って、メガネは簡単には用意できないよね? 栗原さん、目良いでしょ?」

「ううん、実は子どもの頃からド近眼で、ずっとコンタクトだったから、メガネも家にはあるよ」

「そ、そうなの!?」

「せっかくだから、明日は久しぶりにメガネで来ようかなー」

「……」


 そ、そんな……。




「おはよー、能勢くん!」

「――!!」


 その翌朝。

 今日も登校すると、もちろんそこには栗原さんが。

 昨日言った通り、メガネを身に着けて――。

 うおおおおおお、メガネ女子キターーー!!!!

 ――実は僕、メガネ女子が大大大好きなんだよおおおおお!!!!

 しかもヘアピン着けて髪を二つ結びにしてるとか、僕の理想そのものなんですけど???

 ……もうダメだ。

 ……もう自分の気持ちに嘘はつけない。

 ――僕は栗原さんのことが好きだ。

 いや、本当はずっと前から栗原さんのことが好きだった。

 でも勇気がなくて、その気持ちから無意識のうちに目を逸らしてたんだ。


「どうかなどうかな能勢くん? 私のメガネ姿、どうかな?」

「……うん、とってもよく似合ってるよ」

「えへへへー」


 そしてこの瞬間、僕の失恋も決まったわけだ。


「では、今日も占い、お願いします!」

「……うん」


 ハァ、何が悲しくて、好きな人の恋占いをしなきゃならないんだろ……。

 ぷにぷにの左手を握り、手のひらをじっと見つめる。

 程なく僕の頭に、とあるイメージが浮かんできた。


「……おめでとう、栗原さん。たった今この瞬間から、栗原さんとその彼は両想いになったよ」

「ふふふ」


 ……ん? 待てよ?

 ――!?

 てことは、栗原さんの好きな人って――!


「もう、本当にニブいんだから能勢くんは。――でも、そんなところも好きだよ」

「――!!」


 栗原さんの左手を握っている僕の手に、そっと右手を重ねてくる栗原さん。

 栗原さん……。


「これからは、恋人としてよろしくね、能勢くん」

「うん……。大好きだよ、栗原さん」

「私もだよ、能勢くん」


 僕たち二人以外誰もいない朝の教室で、僕らは甘いファーストキスをした。


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占いが趣味の僕が、隣の席の栗原さんの恋占いをしたら……!? 間咲正樹 @masaki69masaki

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