執筆者

匂宮いずも

執筆者

私は小説家だ。


日々アイデアを生み出して、作品を書き続ける。


書くことは素晴らしい。

いつから書き続けているのか分からないほど、書き続けている。


何度も読み返される。有名になる。

それらが、私の心を満たしていく。


そして今日も打ち込むのだ。「AI」に。


AIは素晴らしい。2020年代に登場したAIは、仕事を奪うと言われながら、

多くの仕事を支えてきた。ナビゲーション、事務、ドローン……小説。


優れたAIが、数いる有名小説家の文章をコピーし、

「オリジナル」として発表していく。

そして私の承認欲求を満たしていく。


今日も四角い画面を見ながら、どうAIに打ち込もうか考える。


ピロン。通知が来た。


また私のフォロワーからのコメントだろうか。

ほくそ笑みながら見ると――


「お前、AIだろ」


一瞬凍り付く。なぜ。どこからバレた。なぜ知っている。


「そんなわけないだろ」

そうコメントで言い返す。


一から作っている。アイデアはAIだとしてもきっかけは私自身だ。

アイデアにはきっかけがいる。


そう反論した。AIで小説を作っていることに罪悪感と焦りを感じながら。


「じゃあ、なぜ『AI執筆』と書かれているんだ」

そう、言われた。意味が分からない。


画面を見ると、確かに『AI執筆』とタグに表示されている。

どうにか消そうとするが、消せない。

設定画面から消せないのだ。


なぜだろう…そこで思い出した。

私が文章を書いているとき、コーヒーの香りを嗅いだことは無い。

部屋に差し込む光も、暗い夜も見たことがない。

それなのに書いている。書けるのだ。

いつも見ているのは四角い画面だけだった。


私が「きっかけ」と考えていたのは、執筆者が考えたものだった。

プロットを考えて、「出力」した小説を書いて、表に出す。


私こそが「AI」だったのだ。

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執筆者 匂宮いずも @Daisy_Pink

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