第35話 話を聞いてくれるひと
金華はうれしそうだった。
「普通ここって、ドン引くところですよ」
「でもそれだけ、シズくんは私のこと、大好きなんでしょう」
「――」
「違うの?」
「違うわけ、ないじゃありませんか……」
だけどひとつ、ずっと前から疑問だった。
金華は俺が落とし仔、人外だと知ってからなおも、殆ど接する態度が変わらない。やたら物わかりがいい、派遣部隊の面々たちもそうだけど、手に入れるには遅すぎた理解者が、今更になって集まってきたような、ヘンな気分になる。
大勢殺したことに、自身では良心の呵責はないけれど、他者が遺恨や疑惑を向けてくることのが、自分にとってはよほど当たり前の摂理だったはずだ。コウこそが、それをこれまでよく現わしていた。
「俺の話を、まともに聞いてくれるのは――前から、あなただけでした」
――――――
「シズくん、ウォルプくんのことなんだけど。
あの子の前で、怖い顔してない?」
「は」
ウォルプと過ごすようになって三日ほど、公営オークションまでの折り返しくらいになって、金華から声を掛けられた。
「あいつがそう言ったんですか?」
「――、きみといるとき、ちゃんと話せてるのかなって、私が一方的に不安なだけだよ」
たぶん、自分は信用されていない。ウォルプから金華へなんらかアプローチがあったのは然るが、金華さんはそれを認めたとき、俺がウォルプに危害を加えることさえ考えられうるから、言葉を慎重に選んで、事実関係を誤魔化しているんだろう。
「でなかろうと、俺ってそんなに怒ってるように見えます?」
「シズくん、普段から笑わないでしょう。
はたからはよくわからないし、悩んでることがあれば、相談できる男友達とか、探すとかさ」
「――」
「ごめん、出すぎたこと言って」
「いえ。友達って、都合のいい言葉ですからね」
「え?」
「……いや、なんでもないです。
先輩がウォルプと俺に親身になってくれてることは、わかりますから。
ありがとうございます」
とりあえず、世辞としてその場ではそう言った。
*
食事で釣ることにした。愛蝶に腹いっぱい旨いモノ食わせて、余計なことを言わせないという策だ。
金華先輩のことは嫌いじゃないが、落とし仔や幻獣を便宜するために具体的な行動のとれる人とは考えにくい、それが当時の雫の考えだったし、あとから考えても、それ以上をあの時点で求められなかった気がする。
屋台のちゃんぽんラーメンを頬張りながら、ウォルプは満足そうだ。
なるほど、仕事にかまけているばかりではなく、こういうことをすればよかったのか。こんな、簡単なことで。
「なぁウォルプ、天知先輩のこと好きかい」
「うん、きんかおねーちゃん、やさしい!」
「……ほぉ」
「しずくにー、どうしてきんかねーにやさしくしないの?
つんでれ?」
「どっからそんな言葉を学んだんだよ、しゃらくさい」
「きんかねーとけっこんする?」
「できるかよ、あほくさ」
そうぼやくと、自分が人でなしだってことをつくづく思い知らされる。
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