第34話 乗り方
「自分からは親が蒸発したこと役所には言わないでくれって頼み込むわり、なに、俺が喋るなと頼んだら、俺を秋津たちにチクったりしなかったっての、違うよな?」
「――」
「やっぱり不公平だよねー、俺たちの関係ってさ。友達ぃとか、親友とか、バカなんじゃないのと」
「――」
コウにその辺り、言い返せる資格のあるわけもなかった。
「僕らはさ、お互いの程度を諦めてたよね。
互いに頭の良さとか、なにができて凄いだとか、そういう才覚は認め合えたかもしれない。だけど結局おまえと俺のあいだには、お互い、『自分のほうがまともだ』、みたいな優越感っていうか、あったよね。ほんとお互いふてぶてしいから、それを黙認しあえてたところあったかもだけど、でもさ、そういうのやっぱ、親友ってより――執着だよな」
「そうと言いつ、実際にお前は俺よりいつも達観して、卓越して……こうして見返せたんじゃないのか、雫」
「見返した、程度で終わるなら、それでいいんだけどね。
……これ以上、お前個人と話すことは俺にないよ」
コクピットの大破した飴川機と洞窟へ置いてあった天知機の残骸をニコイチして、新たなケラティオンをビルドした。その間、移送を手伝ってくれたコウとの話だった。
「今さら人形なんて必要ですか?
ヤシャは討たれ、実効支配地域の外でまたエルフの戦士たちは骸の山を築いている」
「私たちの足はこれしかないんだから、バイクも壊れちゃったし」
「さいですか」
あれから金華はずっと雫のそばにいて、彼もコウが立ち去ったあたりで、彼女の肩をすっと抱き寄せる。
「シズくん、震えて……?」
無言で彼女を、ケラティオンのコクピットへ押し込んだ。
「これは金華先輩の席です、先輩が座るべきだった場所でしょ」
「つまり?」
「先輩が俺に、乗り方を教えてください」
「……タテマエばっかりうまいんだから。
ところでコウくんにやられかかったとき、金華って呼び捨てたでしょう?
あれもうしないの?」
「もう無茶言わないでくださいよ、金華、さん」
「まぁ、及第点としましょうか。ん」
金華は最初こそ席へ押し込まれたものの、接吻しながらくんずほぐれつで体勢の上下を入れ替えると、自分が座っていた席へ雫を据えて、その太腿の上に跨っている。
「なるほど、ハッチを閉めてここなら、誰にも邪魔されないねぇ」
「――」
「この前は洞窟だったし、ナイアスちゃんが来るとそういうわけにもいかなかったでしょ」
「とはいえ僕らももう、あまり露骨なのは避けるべきなんでしょうね。
隊の士気にかかわる」
「うちらのこと、みんなにはバレバレだと想いますけど」
「暗黙の了解ってものがあるでしょう。
派遣部隊ならとかく、実行部隊のひとらは独り身も多いんですから、正直向こうから苦言来ると、僕は言い返せませんよ」
「ふむ――確かに、残念だね。
もう役所仕事どころでもないのに」
「ここで要らん敵増やす暇はありません、我慢するしかないですね」
「誘ったのはシズくんなのに???
許しませんよ???」
「えぇと、あぁ、はい。
最近どうにも、感極まっていけない……バイク壊したとき、先輩が怪我してたら、まず俺はコウを殺してましたよ」
あのときだって、水瀬相手には意味をなさないだけで、精霊の力そのものは水瀬に関係なく、さっさと立て直せないではないでもなかったから。
「池緒くんを、わりに好きにさせてたよね。
ずっと彼を挑発するようで、諭してもいた」
「そんな言葉じゃ、普通届かないんですよ、わかるでしょ。
俺はあいつを相手に不遜さを捨てられなかった。
まぁいつだって……あいつが見苦しいのがよくない。
いえ、それは責任の押し着せですね。
言葉で足りるような怒りじゃ、ないんですよ。
今でさえ、俺の根底に燻っているもの――傍からは子どもっぽいばかりでしょうね」
雫がコウに過去、どのように裏切られた、みなが訊くことはなければ、雫から話そうことだって今後ともないだろう。この確執は、当事者以外に踏み込める余地などない。
「強がりなんだ、シズくん」
「……自分でも損な性格だっちゅうの、わかってんですよ。
それを面と向かって話せるのも、結局金華先輩にだけなんです、だから」
雫は金華をあらためて抱き寄せた。
「市とやりあってるうち、万一にもあなたが死ぬようなら、俺が巻き込める全員、敵とか見方とか関係なく、また殺しちゃうかな」
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