第31話 多層交流都市構想
「気象を操作できるという技術的確証と広報によるイメージ戦略を徹底すれば、多層交流都市構想の実現は夢でなくなる、と。
確かに風を受けなくなれば、多くの物流上の懸念がなくなりますね。
唐突な竜巻とか、そういったものも大方事前に予防できうるってことでしょうから。
道路空路の縦型多層化で、安価な通常車両とフローターカー用、それぞれの道を整備でき、物流網を圧縮、加速させる。構想は全く知らないじゃありませんでしたけど、なるほど僕の力ってそういう使い道がありえるわけですか」
雫は客観的に物事を語っているに過ぎないが、周りの人間たちのが表情は暗く重苦しい。
「たく、なんで皆さんの方が深刻そうな顔するんです?
ついさっきまでそれこそ僕なんか殺してやろうって勢いだったでしょうに、度し難いなぁ」
とりわけ秋津など、最初は問答無用で雫のことを撃ち殺そうとしていたはずにも関わらず、である。
「ナノマシンを水瀬さんがぶっこ抜いたってことは、あなたがたの命運は彼が握っているってことですね。
脈拍と大まかな位置情報を検知、トレースするという特性上、金華先輩のそれは俺がさっき処分しちゃった以上、向こうでは金華先輩は僕にやられて死んだことと考えられているでしょう。水瀬さん、ほかの皆さんのはどうなんです?」
「彼らのに関しては、分離した直後からずっと僕の手元で僕の脈拍を測っているよ、まぁそうでなくとも、市が受け取る記録をリアタイで偽装してやるくらいのことはできないでもない。
こういう小型ガジェットは、最低限必要な以外の機能は乗せにくいものだし、それでも手堅い性能をしているんだが。
市側の思惑としては、迷宮巣の向こうへ駆り出す以上、不測の事態と犠牲はしょうがない、くらいの心持ちだろう。
飴川くんの討伐に、天知さんが消極的だったのは知っているし、これぐらいは予定調和と考えているかもしれない。
派遣部隊の異能者は、通常の異界探索者とはことなり、人が通常立ち入れない領域にも、魂魄鎧を用いて介入できる。
これは利点でこそあるけど、その実、タテマエほどに市は異能者たちへ期待など寄せていない。口先では何とでも美辞麗句を述べ立てるがね。
派遣部隊というか、幻獣対策課の職員やそこに招集された学生たちを、魂魄鎧のような異能を持っている、テロリスト予備軍くらいに上層部は考えているよ」
「そんな――っ」
リヒトが思わずそう口走ると、水瀬は彼を向いて続ける。
「十七年前、僕が世界を滅ぼしかけた時も、或いはそれ以前からそうだったけどね。
以降も時代を下るにつれて、異能者と言うのは少数派ながら現れた。
民主制下において為政者というやつは、市民の生活向上に野心的なぐらいでないと当然務まらない、市民の脅威となるモノを事前から排斥するのも、おのが役割だとさえ考えている」
「脅威、たかが異能者たちがですか?
僕らにできることなんて、人形に鎧を纏わせる程度でしかないのにっ」
つぎにヒサゴは叫んでいた。
「それは流石に、見立てが甘いんじゃないかな。
行政の執行者と言うのは、常にシビアな予測で動かざるをえなくもある。
派遣部隊に異能者が招集されたのは、結局市の目が届くところで飼い殺しにしたいだけだ、きみたちは生きて戻ることすら、期待されてなどいない。
どうせ異能者など自然に現れて、あとから補填が効いてしまう。
異能者による迷宮巣開拓事業も、近年は先細っている一方、てことはこの地で骨を埋めてくれても、彼らはなんら痛痒に想わんだろう。
加えて都合のいいことに、異能者は親が子の異能を理解しきらないために、大抵が親子関係の冷え切っているからね。
……どうやら、心当たりがないではないようだ」
「悪趣味ですよ、そんな」
金華が言うと、水瀬はうんうんと首を縦に揺らしたうえで、
「ここまでは僕の露悪的な主観に過ぎないのも確かだ。
ただ、いまの君たちを市が積極的にその人としての権利を守ってくれる存在ではないこと、その点を指摘しておきたかっただけだ。
ナノマシンの無断投与なんて、そういう実験でもなきゃプロセス上は言語道断だからねぇ。一応の物的証拠だけど、これだけで市の上層部を糾弾するには、まだ弱いかな」
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