こちら足立区ダンジョン前お宝鑑定買取所

疾風の刃

第1話 お客様、そちらは買い取りいたしかねます。

時は二〇××年。


東京・足立区某所に、突如として異世界へと通じるダンジョンが出現した。

人々はその存在に恐怖し、混乱し、そして――一部の者たちは狂喜乱舞した。

彼らは武器を手に、その穴へ飛び込み、命を懸けて未知の地へと挑んでいった。


──そして時は流れ、再び二〇××年。


私はかつての名誉も名も捨て、今はただ「店長」と名乗っている。

ダンジョンに潜る冒険者を卒業し、ダンジョン前でお宝鑑定買取所を営むようになって三年目。

ノリで始めた商売は、気づけば軌道に乗り、今ではバイトまで雇えるほどになった。

人生とは、本当に何が起きるか分からない。


一章 うんことドワーフと鑑定眼


「店長、アイテムの鑑定と買取依頼のお客様です♪」


元気な声で呼ぶのは、うちのバイト一号、女子高生の鮎川さん。

私はその可愛らしい声に応じて言った。


「ヘイ、らっしゃい! お客さん、今日は何を握りやしょう?」


「店長、それ毎回言いますけど……まったく面白くないです。」


彼女は相変わらず容赦がない。だがそのツッコミがまた嬉しい。

……これ以上語ると通報されそうなので、仕事モードに入るとしよう。


今日の客は、所沢のドワーフ――いや、元板金塗装屋の**矢沢さん(26)**だ。

開店以来の常連だが、正直言って私は彼が嫌いである。

理由は簡単だ。彼はうちのバイトをいやらしい目で見て、口説こうとする。

現代社会が生んだ悲しいモンスターである。


「おい店長、さっきから聞こえてんぞ? ケンカ売ってるのか?」


「黙れ、荒ぶるドワーフよ! ここは人間の世界だ! 大人しく森へ帰れ!」


「店長⁉ 失礼ですよ! それにドワーフの住処は森じゃなくて地下坑道です!」


ああ、可愛い。そして見事なツッコミ。今日も鮎川さんは最高だ。


「誰がドワーフだ! 俺は人間だバカヤロー!」


「キャッ、ごめんなさい矢沢さん! で、今日は何をお持ちになったんですか?」


スカートの裾を摘み、メイドのように謝る鮎川さん。

その瞬間、矢沢の頬が緩んだ。……ムカつく。


「おいっしょいや!」

独自の掛け声と共に、カウンターへドスンと置かれた頭陀袋。


「オラ、店長! コイツの鑑定と買取頼むぜ! あと誰が野生児だコラ! 俺は群馬生まれの埼玉育ちだ!」


「じゃあ野生児で合ってるな。」


私は袋を開けた。

中から現れたのは――鈍く銀色に輝く塊。


「こ、これは⁉」

「キャ⁉」

「へっへっへ……驚いたか?」


矢沢は得意げに顎髭を撫でた。嫌な笑顔だ。


「モンスターの……うんこだぜ。極上のな。」


私は即座にその塊を掴み、矢沢へぶん投げた。


「うっわーっ! うんこ投げられたぁ!? 何すんだコラァ!!」


「ハハハ、冗談冗談。」


転がったうんこを拾い上げ、私は鑑定眼を光らせる。


「……これだけ叩きつけても形が崩れない。もしかして――」


鮎川が息を呑む。


「店長、まさか……ドラゴンの?」


「その通り。ドラゴンのうんこだ。」


二章 鑑定眼の真実


ドラゴンのうんこは、ただの排泄物ではない。

奴らは鉱石や宝石を食らい、体内で錬成して不要物を排泄する。

つまり、それは未知の鉱物結晶であり、価値は数千万から数億に及ぶこともある。


「で、店長。早く鑑定してくれや。」


私は深呼吸し、自慢のスキルを発動した。


「特殊能力――《何でも鑑定眼》!」


(効果音と共に、店内のスモークマシンが噴き出す)


「店長、もうその演出やめましょうよぉ。」


「何を言う! 雰囲気こそ命だ!」


「チッ、で結果はどうなんだよ!」


私は鋭い眼光で銀色の塊を見据えた。

――そして、沈痛な声で告げる。


「……この物質、買い取りはできません。」


「なんでだよ!?」


「理由は簡単だ。」

私は厳かに言った。


「これは冒険者・田中康夫さん(享年31)の遺体だ。」


店内が凍りつく。


三章 仲間のかたち


ドラゴンに敗れ、捕食された冒険者は、装備ごと体内で圧縮され、鉱物状に排出される。

私の鑑定結果は、まさにそれを示していた。


「なんてこった……田中のオヤジ、あの馬鹿……」


「工場建て直すために、ダンジョンで稼ぐって言ってたのに……」


私たちは黙って頭を垂れた。

彼は昔、私と矢沢と共に戦った仲間だった。


私は警察へ通報し、遺体の回収を依頼する。

奇跡的に肉片が残っていれば蘇生の可能性もあるが、恐らくもう――。


「お悔やみを申し上げます。」


夕陽が差し込む窓辺で、私は静かに手を合わせた。


四章 それでも日常は続く


「また……昔の仲間が、彼方へ行っちまったか。」


しんみりと呟いた私の背で、鮎川がいつもの調子で言った。


「店長、まだ昼前ですよ? それにさっき、田中さんの遺体を矢沢さんに投げつけてませんでした?」


私は思わず苦笑した。


ああ、まったく。

世界がどれだけ変わろうと、日常という名の喜劇は止まらない。


警察のサイレンが近づく中、私は鮎川のスカートの裾を見て――

また怒られる未来を想像しながら、コーヒーをすするのだった。


【了】


こちら足立区ダンジョン前お宝鑑定買取所

― “うんこ”から始まる現代異世界日常譚 ―

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