エピローグ「新世界の夜明け」

 数年後。

 魔王領は、大きく様変わりしていた。

 私とノワールの統治の下、魔族と、そして旧王国から移住してきた一部の人間たちが共存する新しい国が築かれていたのだ。私の闇の力は、もはや破壊のためではなく、荒れた大地を蘇らせ、豊かな実りをもたらすために使われていた。闇は必ずしも悪ではなく、光と対になり世界を成す重要な要素なのだと、皆が理解し始めていた。

 私は『黒の聖女』あるいは『魔王妃エラーラ』と呼ばれ、民から深く敬愛されている。もちろん、一番私を愛してくれるのは、隣にいる夫だが。


「エラーラ、見てみろ。また新しい芽が出ている」


 ノワールが、生まれたばかりの双子の赤ん坊を一人ずつ腕に抱きながら、嬉しそうに庭の新芽を指さす。一人はノワール譲りの黒髪と赤い瞳、もう一人は私譲りの白銀の髪と金色の瞳を持つ、とても可愛らしい男の子と女の子だ。


「本当ね。この子たちが大きくなる頃には、この国はもっと美しい花でいっぱいになるわ」


 私は微笑んで、子供たちの小さな手にそっと触れた。

 これ以上ないほどの、穏やかで幸福な時間。

 かつて、聖女として国の祭壇に縛り付けられていた私には、想像もできなかった未来だ。あの日の追放がなければ、この幸せはなかった。そう思うと、アレスたちへの感謝すら、ほんの少しだけ湧いてくる。まあ、もう思い出すこともほとんどないけれど。


 そういえば、とリリスから聞いた話を思い出す。

 旧王国では、アレスが中心となって小さな共同体を作り、人々が助け合って暮らしているらしい。彼は誰からも尊敬される長として、静かに、しかし着実に、国の再建に尽力しているという。彼が、彼なりの幸せを見つけられたのなら、それは良いことなのだろう。


 私は、愛する夫と、愛しい子供たちに囲まれている。

 もう、何もいらない。

 私は、偽りの光を捨てて、真実の闇の中で、最強の幸福を手に入れたのだ。


「愛しているわ、ノワール。あなたも、この子たちも」


「ああ。我もだ、エラーラ。永遠に」


 私たちは、赤と青の二つの月が輝く空の下で、優しく口づけを交わした。

 元聖女の復讐劇は、こうして、誰もが予想しなかった最高のハッピーエンドで、静かに幕を閉じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

偽りの聖女と罵られ婚約破棄、森に捨てられたので魔王様と手を組みます。今さら戻ってこい?もう遅い、最強の闇の力で全員に後悔させてやる 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ