第2話 背負うとは、

「あの…では、後日また話しても良いですか…?」

思っていたカウンセリングと違っていたのだろう。如月さんはまた今度と言ってそそくさと帰ってしまった。


「…………やっちゃったかな」

熱く語りすぎたかな、こう言う悩みのある人に熱意や好意で返すのは大体逆効果だからな。大事な第一村人と仲良くなるのは無理か…

気を取り直して予約情報を見よう。ガラガラだろうけど…


「あ!」

予約:放課後

相談理由:お悩み相談

備考:今度こそ話します。


「………ちょっとは信じてくれたかな」

不慣れ場所に少しばかりの光が見えた気がする。


後日…

扉を叩く音が聞こえ、はぁ〜いと返した。カウンセリングは扉を入る瞬間から始まっている。そう思って今までやって来ている。

「失礼します…」

あの時の集会と違って、少し萎んだ雰囲気である。そう言えば前もそんな感じだったような気がする。


「君は凄いな」

しまった。思った事が口に出てしまった。


「え?」

心底驚いたように如月は聞いた。

褒められる事は何もしてないのに…顔に出ている。


「ああ!ごめん!気にしないでくれ」

気まずい。思った事が口に出た事はこの職に勤めてから減っていったのだが…


「ほらほら、座って座って」

如月さんに座るように促し、このお菓子は自腹なんだよな…と頭に浮かびつつ、お菓子を勧めた。如月さんは食べなかったけど。


「あの…悩み…話して良いですか?」

悩みはつきものだろうが、誰かに悩みを打ち明けると言う経験が少ないのかもしれない。あまり馴れ馴れしくせず、真摯に対応していこう。


「勿論、変に簡潔にまとめずに思った事をそのまま話してくれると嬉しいな」

如月はぽつぽつとだが話し始めた。


「私達如月家は教育関係の中枢を担う仕事をやっているのは知っていますよね」

そうだったのか。つまり彼女もいずれは…


「だから、お父様から教育とはなんたるかを骨の髄まで叩き込まれるのですが…」


「お父様は志半ばで亡くなれてしましました。

この事は誰も知りません」

人の死。簡単に受け入れられるのだろうか。

少なくとも僕にはできない事を彼女は強いられている。


「君を悩ませている種は何だい?きっと様々な要因があると思うけど」

今は取り敢えず、一通り話させてみよう。そう思った。カウンセラーとしてまだまだだけど勘がそう言っている。


「如月家はお父様が中心にやってきました。何もできない子供のまま傍観して、みんなの足を引っ張る訳にはいかなかったんです。学業もそう、頼まれてものは全力で応える。お父様もそう言ってました。教育の達人である。お父様がそうしたのならなら私も背負います。私が……人より優れた何かを持っているのならそれに相応しい力を払うべきなのではないでしょうか」


「お父さんがいなくなってから…!もしかして、君が全部背負ったのかい!?」

どんなに様々な方法を叩き込まれても高校生。

まだ十代。背負うなんて重苦しい単語は聞こえてこないはずなのに。


「お父様の代わりとして私がやられねばならないのですから」

短く息をして、勢いよく立ち上がった。


「何か…スッキリしたように感じます、ありがとうございました。私の愚痴を聞いてくれて、この事は誰にも言わないで下さい、それと、心配してくれて嬉しかったです」

………ここで言うべきなのか、それとも黙るべきなのか…と彼女の背中を見ていたら彼女は突然クラクラして、倒れそうになった所をギリギリで抱えたが…


「如月さん!?」

応答がない。まずい!!

急いで保健室に運び、責任者として保健室のベットで寝ている彼女の近くにいた。


如月皐月視点

あれ…ここは家のベット…にしては狭いから…カウンセラー室にはベットはない…から…

「保健室!!」

ガバッと毛布をどかし起き上がった。頭がクラクラする。


「如月さん!」

人懐っこい顔に薄くある顎の髭。あれは…木島先生。先生からどうして私がここにいるかを聞いた。彼は医学も多少心当たりがあるらしく軽く見てくれたらしい。正確には診断しないとわからないけど、顔色や倒れる寸前の所から貧血だろうとの事らしい。


「大丈夫?気分はどう?」

彼は心配そうに聞いてきた。流石にこれ以上は危ないからって言う事でカウンセリングは中止となった。ん…?待って中止?私はあの時話を終わりにしたんだけど…まぁいいか。後で聞こう。


後日…

学校で、友達もまだ教室にいなかったので

少しぼ〜っとして外を見ていたらもう慣れたが

男子達の視線の集中攻撃を喰らっていた。


「皐月様…!横顔も凛々しい…!」

「なぁ、聞いたか?皐月様がカウンセラーの……え〜とまぁいいや、その先生にお姫様抱っこされて保健室に連れて行かれたらしいぜ!」

「それ本当か!?あの先生…!!」

「まさか!!誰もこない密室で一発ヤ…!!」

「な訳ねぇだろ、先生いるわ普通に」

え……?抱っこ?お姫様?OHIMESAM?


「……………」

え〜〜〜〜!!!なんで!?そう言えば私あの時、意識失って倒れたって聞いたけど!!

嘘嘘嘘嘘嘘!!!!あの先生に〜!!??

取り敢えず、一旦お手洗いに行って落ち着きましょう!!


皐月は顔には出ていなかったが手は震えている

さっきまで外の山は美しいなどと考えていた部分が、お姫様抱っこに全て埋め尽くされた。

お気づきだろうが、彼女は初心である。

小さい頃こそそんなものに憧れがあったが

成長するに連れそんな事を考えなくなった。

それに先生は実際顔は悪い方ではない。得意分野や集中している所を見るとかっこよく見えるやつである。しかし、彼女の頭には木島優成と言う名前に埋め尽くされていたのである。

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優先生のカウンセリング日記 @NotMonster

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