優先生のカウンセリング日記
@NotMonster
第1話 始まりの四月。
四月…冬の寒さはまだまだあるが、この暖かさと寒さが共存している。寝るのは最高。起きるのは最悪だ。ベットから暫く出たくない!と何度思った事だろうか。
「ふう、荷物は大方片付いたかな」
有名私立である如月学園にカウンセラーとして赴任した木島優成は、学園の大きさに驚きつつも、そこそこ立派なカウンセリング室で荷物を方していた。
まさか自分がこんな有名学園にわざわざ指名されるなんて、これからどうなるかな…?と、期待と不安が感情の綱引きをしている。どっちが勝ったところであまり意味はない。
「木島先生。集会で生徒達に挨拶があるのでそろそろ準備、お願いします」
そう言ったのは三年一組担当の足立である。
自分と比べても一回り小さく若い女性教師である。元々なにかスポーツでもやっていたのだろうか、背筋が真っ直ぐ伸びていたキリッとしている。教師歴が短く他の先生達からはまだまだ未熟という扱いで三年の担任は荷が重い…なんて意見もあるがどうなのだろうか。
「あ、はい」
何を言おうかな…そう考えながら体育館に向かい、生徒の拍手と共に入場した。新任の先生達や他の学校からの異動した先生達と共に壇の上に上がった。
「であるからして…みさなんと共に素晴らしい青春を…」
長い。最後は僕だからいいけど、かれこれ二十分は過ぎている。[であるからして…]この単語を十三回聞いたあたりから数えるのをやめた。
「以上です」
まばらな小さい拍手で、新任の教頭挨拶は終わった。足が棒になるところだった…
「最後にカウンセラーの優成先生。お願いします」
こう言う集会挨拶系は最初と最後は聞いている人が多い。主に最後は寝ている人が起き始めるため最初と途中に比べて視線がどっと増えた気がする。まぁ慣れてるから良いけど。
「こんにちは、カウンセラーの木島優成です。前任の学校では優先生って言われていたので、そう言ってくれるまで嬉しいです。カウンセリングってハードルが高いイメージがあるけど、全然そんな事ないから、人の視線とか気になると思うけど。実は相談でもお話でも何でも良いよ。愚痴をぶつけても良いしね!それを前の学校で話したら、先生は何でストレスを解消してるの?と聞かれたんだけど、僕はお酒にストレスをぶつけてるから、みんなは遠慮しなくて良いからね!」
生徒達に笑いが生まれた。瞬時に出た話として上々だ。心の中でガッツポーズをしつつ。体育館端にある、座席に座り一息ついた。
「次は生徒会長挨拶。如月皐月さん。お願いします」
如月…?まさか理事長の娘?まぁおかしい話ではないか、そんな事を考えていると凛々しく、はっきりとした声ではい。と言い壇上に上がり完璧な所作で生徒達を見据え、話し始めた。
生徒達(主に男)の視線を見ると彼女に釘付けだ。そう言え移動中に男子達から彼女に対して
ある人は美しい。ある人は凛々しいと、ある人はスタイル良し、黒髪良し、笑顔は小さい子供のようで良し。など彼女の容姿に対して褒めちぎっていた。誰も彼女の内面はどうなのかと考えた事は無いのだろうな。
「生徒のみなさんこんにちは。今年から生徒会長になりました。如月皐月です。これからみなさんと青春を楽しみつつ、生徒会長として様々なイベントのサポートをしていければと思います。不束者ですがよろしくお願いします」
言いたい事をここまで簡潔に話せるものなのか。凄いな。大人達よりも拍手が心なしか大きい気がする。
「以上で集会は終わりです。みなさん終わった後、タブレットで感想を入力して下さい」
こうして始めの集会はいい感じに終わりを迎えれたと思う。
放課後…カウンセラー室に戻り、明日の予約は…今日の予約はまさかのゼロだったからな。
少しずつ信頼を得ていかなくちゃな…
「えっ?」
この人は……あまりにも驚いた。失礼だけどこう言うのに縁がない人だと思っていた。
「如月さん…?」
どうやら早速手腕を問われる時が来たらしい。
次の日…
「失礼します」
昼休みに彼女は早速来た。まさか本当に来るとは…となっている。
「こんにちは、如月さん今日は…」
パソコンに目を向けた。生徒達は好きなタイミングで予約できるシステムとなっている。
これはなかなかいいと思う。誰にも知られる事なく、カウンセリングを受けることができる。
しかもここは校内の端の端。人目を気にする必要はない。一時期は性犯罪が〜なんて騒がれたらしいが、ここは食堂と玄関近くではあるし、女性警備員がここ辺りを警備している。意味不明だが女性ではない僕の方が安心しているのは何故だろう。
「お悩み相談って事で良いんだよね」
そう聞くと僕から目を逸らし、話しづらそうにしてしまった。
「………別に話したくなかったら話さなくても良いんだよ、ただ遊びに行くイメージな人もいるし、安心できる場所で休みたい人もいる。如月さんがそうしたいなら僕は席を外すよ」
誰だって、偶には一人になりたい時もある。お嬢様と持て囃されている彼女にとっては尚更だろう。
「え?そんな理由でも来て良いんですか?」
目を点にしている。これを色んな人に伝えたいと思っている。僕にとって彼女は記念すべき一人目だ。
「もちろん、悩みがあるからでも、なくても大丈夫!!それを集会の時でも言ってただろう?」
悩みは残したって良い事は全くない。それで死を選ぶのはもっとダメだ。二度と僕の救える範囲で犠牲は出さない。決して。
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