秋の雨
九戸政景@
秋の雨
「雨、か……」
日が少しずつ陰り始めた夕方頃、公園の東屋の下で呟いた。東屋の外では秋雨が静かに降っていて、それも相まって気温は肌寒さを感じるくらいだ。
「でも、やっぱり帰りたくない。どうせ誰も家にいないし」
いわゆる鍵っ子の私が帰ったところで、仕事が忙しい両親はまだ帰らない。出し始めたヒーターの熱でも温められない心の寒さを誰もいないリビングで感じるのはイヤだ。それくらいなら帰りたくない。
「いっそ、傘も差さずにこの中を歩いて――」
「それはあまりおすすめしないかな」
「……えっ!?」
突然隣から聞こえた声に驚く。そこにはいつからいたのか首からカメラを提げた茶色のポニーテールの女の子が座っていた。
「あ、あなたは?」
「私は旅人。最高の一瞬を見つけるために旅してるんだ」
「最高の一瞬……?」
カメラを提げてるところから考えるに各地を旅しながら写真を撮ってるということなんだろう。けど、それなら他所をあたった方がいい。今の私がその最高の一瞬に値するとは思えないから。
「それなら別の人を探した方がいいよ。今の私の気分的にその最高の一瞬っていうのは提供出来ないから」
「そうかな……それなら、これでどうかな?」
ポニーテールの女の子が東屋の外に出る。濡れてしまうと思ってあわてて私も外に出たその時、目の前の光景に私は目を奪われた。
「え……これ、は……?」
さっきまで降っていた雨粒は、すべてが落ち葉に変わっていた。空から何枚も落ちてくる赤、黄、緑、三色の葉っぱはそれぞれを引き立てるようにしながらひらりひらりと舞い、その夢のような光景に私の心に少しずつ暖かさが訪れる。
「綺麗……」
「あ、その一枚! いただき!」
「えっ?」
パシャリ、という音が聞こえた。見ると、ポニーテールの女の子がカメラを構えていて、とてもいい笑顔を浮かべていた。
「最高の一瞬、いただいたよ」
「今のでいいの?」
「うん。本当はこういう事をしなくてもよかったけど、今のあなたにはこの方がいいかなと思ったからね。おかげで、とてもいい笑顔を撮れたよ。ありがとう」
ポニーテールの女の子が笑い、私も笑い返す。その瞬間、一陣の風と一緒に三色の葉っぱが私の視界を覆い、それが消えた頃には女の子は消えて、雨がまた降っていた。
「な、なんだったんだろう……でも、なんだか不思議な出来事だったな」
私は東屋に戻った。そして折りたたみ傘を取り出して開いた後、カバンを背負って東屋の外に出た。
「まだまだ二人とも帰らないと思うけど、話す楽しみは出来たから帰ろうかな。二人が帰ってくるまでにどんな風に話すか考えなきゃ」
雨の中、私は笑った。傘にあたる雨粒の音はどこか楽しげで、私の心も楽しさで満ちていくのを感じた。そして私は歩き出す。今もどこかで最高の一瞬を追い求めて、不思議な一時を過ごさせてくれるあの子の事を考えながら。
秋の雨 九戸政景@ @2012712
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