SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE ~家出少女~【短編小説】

Unknown

SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE ~家出少女~・本編【約22800文字】

 1Kの9.5畳のアパートで1人暮らしを始めて4年目を迎えた。俺は少年ではなく29歳のおっさんになった。

 最近の唯一の悩みは彼女がいない事だ。それ以外は完璧な人生を送っている。

 俺は20歳で仕事を辞めてから何年も実家で引きこもりニートをしていたメンヘラだったが、その荒廃していた時期があったからこそ平穏な今があると思っている。全ての物事には良くなるまでの過程が必ずある。俺の人生には数え切れない出会いと別れがあり、その度に人生や世界について思考した。その過程で少しずつ精神状態が良くなった。

 ちなみに俺が住んでいるのは群馬県のT市だ。群馬最大の都会の駅がアパートの近くにある。


 ◆


 睡眠薬が効かない。

 不眠症の俺は真夜中の3時前になっても眠ることが出来ずに、ベッドの上で悶々としていた。

 眠れないうちに思考は次第にネガティブなもので埋め尽くされた。未来ではなく過去の事を考えていた。それも、過去の失敗や恥ずかしい黒歴史ばかりが脳内に去来した。うわああああああああああああ。と心の中で叫んだ。


「……」


 どれだけ待っても眠気が一切来ない。

 俺は真っ暗な部屋で思わず目を開けた。

 明日も平日で普通に仕事があるというのに、眠れない。

 まあ仕事は10時半からだし、休みの融通も利くから、別に休んでもいいんだけどな。

 俺は在宅の作業所で働いている。平日は毎日フルで働き、土曜も働くことがある。

 少しでも金が欲しいというのも理由だが、今の仕事が好きだという理由もある。ざっくり言えば、俺の仕事は「webライター」のような感じだ。元々ネット上(カクヨムっていうサイト)で小説やエッセイなどの文章を書くのが好きな俺にとっては、今の仕事はやっと見つけた天職だった。


「……」


 俺はベッドから抜け出して、立ち上がり、部屋の電気をつけた。

 このまま目を閉じていても永久に眠れる気がしない。


『どうしても眠れない時は無理に寝ようとせず、あえて趣味活動などをして気分転換すると眠れますよ』


 って睡眠の学者がYouTubeで言っていた。

 俺は彼の言葉を信じて、趣味活動に没頭してみることにした。俺の趣味と言えばやはりエッセイか小説の執筆。ここ最近はエッセイばかりで小説を書いていないから、小説を書こう。リアルの俺自身を主人公にすることで、小説のネタは無限に思いつく。

 現実と妄想を上手い具合にミックスするのだ。そうすることで小説のリアリティーを損なわずに妄想世界が楽しめる。

 俺は部屋の電気を消してスリッパを履いて、スマホの光で床を照らしながら、ノートパソコンが置かれているデスクの前に近づき、椅子に座った。

 俺が文章を書く時はいつもタバコを吸いながら書いている。

 俺はノートパソコンを開いて、スリープモードを解除して、いつも利用しているカクヨムというサイトに移動し、新規小説の執筆に取り掛かろうとした。


(よし、タバコタバコ。……え、嘘だろ。もう1本も無いやんけ! 最悪だ~)


 俺がいつも吸っているロングピースというタバコの包装の中には、もう1本もタバコが無かった。軽く絶望した。


(うわ~マジか。めんどくせえけどコンビニ行って買ってくるしかねえな)


 このアパートからコンビニまでは徒歩で約10分の距離がある。往復20分歩くのは面倒だが、タバコが吸いたいという強固な欲求には勝てない。俺にとって「喫煙したいという気持ち」は人間の3大欲求を遥かに上回る欲求である。タバコが無いのは死活問題だ。

 俺は3万円ほど入ってる財布を持って、玄関でサンダルを履き、上下真っ黒のスウェットのまま外に出た。秋の冷たい風が吹いていて寒かった。今は曇りなのか星も月も見えない。

 3階の●●●号室から出た俺は、あえて鍵は閉めなかった。どうせ誰も俺の部屋になんか来ないだろ。


「うー、さむ……」


 階段を下り、そこから10分ほど歩いてコンビニに到着した。道中、車とは何度もすれ違ったが、人とはすれ違わなかった。まあ、真夜中3時だしな。


 ◆


「103番のタバコを2個ください」


 俺は無表情で、夜勤のメガネの男性店員に告げた。年齢は俺と同じくらいに見える。俺もメガネをかけているから、俺達ダブルメガネコンビだな。

 無事にロングピースを2箱買い、ついでに100円ライターも買った。

 背中に「ありがとうございました~」という無気力な声を受けながら、颯爽と外に出て、とりあえず吸い殻入れの前でタバコを開封し、今買ったライターで着火して1本吸い始めた。


「ふぅ、やっぱりピースは、うまいンゴねぇ……」


 と小さい声で呟いて、俺は薄く開けた口から煙を吐いた。風が吹いて寒い。俺が口から吐き出したタバコの煙は風に乗って大きく左へ逸れた。


 ──しばらく喫煙していると、俺はある異変に気付いた。


「──うっ……ううう……ずずっ、ずびっ」


 ……なんか、女の人が小さく嗚咽を上げて鼻をすすって泣いている声がする。俺の左側から、聞こえてくる……。

 俺はゆっくり左を一瞥したが、人は居ない。だが、泣いてる声は確かに聞こえる。

 もしかして、店の物陰に誰か居るのか? こんな時間に? 今、深夜の3時過ぎだぞ。

 

「……誰か、誰かぁ……。ずずずず」


 その声が気になった俺は、燃焼しているタバコを指に挟んだまま、声のする方角へ、おそるおそる接近した。すると泣いている女性の声が意外と大きいことに気付いた。

 やっぱりコンビニの物陰に女の人がいるな。

 だが、暗闇では何も見えない。俺はスマホの懐中電灯を点けて、光で照らしながらコンビニの陰に行った。

 すると、どこかの学校の制服を着てしゃがんで顔を腕に埋めて泣いている小柄な少女がいた。痩せていてロングヘアだ。地面には薄ピンクのリュックが置かれていた。

 目立たない場所にいる少女は、光に気付いてスッと顔を上げた。

 眩しそうにすぐ目を逸らしたので、俺はすぐスマホの懐中電灯を切って、スマホをポケットにしまい、タバコを吸いながら暗闇の中でこう訊ねた。


「あの~……大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃありません。ずずずっ」

「そうですか」

「はい」

「制服着てますけど、高校生ですか?」

「高校2年です」

「若いですね」

「はい」


 訳アリっぽいな。普通、こんな糞みたいな真夜中に女子高生が1人で外にいること自体がおかしい。しかも泣いている。明らかに異常だ。


「うっ、うう……私、もう2日間以上、何も食べてないんです。お腹が空きました。お金は32円しかありません」

「え」

「私、埼玉の本庄市っていうところから家出して、電車で群馬の高崎まで来たんです。今日の夜9時からずっとここにいたけど、あなたが初めて声を掛けてくれました」

「え、まず親御さんはあなたが家出してることを把握してるんですか?」

「把握してます。『もう2度と家に帰ってくんじゃねえ』ってアル中の父に言われて思いきりお腹を殴られました。お母さんは、もう死んだのでいません。私は一人っ子で身内は父しかいません。高校には、風邪って噓の電話を掛けて2日連続でサボってます。もう私には世界のどこにも居場所がありません。もう家出して2日以上経ちました」


 そうか。家出の動機について詮索するのはやめよう。

 それより、2日間以上何も食べてないのが、まずい。倒れてしまう可能性がある。


「とりあえず俺が食べ物とか飲み物買いますよ。一緒に店の中入りましょう」

「えっ!? いいんですか」

「だって48時間以上何も食べてないんでしょう?」

「はい。でも、申し訳ないです……」

「このままだと死んじゃいますよ」

「……私、昔からずっと死にたいんです。餓死してもいいです」

「でも餓死って数ある自殺方法の中でも最上級に苦しい死に方だってネット掲示板に書いてありましたよ。別に死ぬなとは言いませんが、餓死以外の方法の方が絶対良いです」

「じゃあおすすめの自殺方法は何ですか?」

「おすすめ? 俺が今まで実際にやったのは、普通に首吊りと練炭と飛び降りです。自殺未遂は29年の人生の中で5回以上してます。全部苦痛だったので、どれがおすすめとかは無いですね」

「めっちゃ自殺未遂してますね」

「そうですね。精神科には今まで4度入院したことがあります」

「私は1回だけです」

「じゃあ圧倒的に俺の勝ちですね」

「別に争ってない……」

「てか、こんな話をしてる場合じゃありませんね。食べ物買わないと。自力で立てますか?」

「……立てます。ごめんなさい。感謝します。ありがとうございます」

「うん」


 俺と埼玉の謎の女子高生は一緒にコンビニの中に入った。

 再入店した俺はオレンジのカゴを手に取り、俺の後ろにいる女子高生に顔を向けて言った。


「なんか食べたい物とか飲みたい物が見つかったら、何でも入れてください」

「ありがとうございます」


 直後、女子高生は、ゆっくり歩いて、何故か真っ先に酒のコーナーに向かった。

 俺は色々と察しつつ、その後ろを着いていった。

 女子高生は、缶チューハイの冷蔵庫の前で立ち止まって、俺の目を真っすぐ見てきた。俺は少女に近づいて、店員に聞こえない小さな声量でこう言った。


「あなた高校2年ですよね? まさか普段、飲酒してるんですか?」


 すると、女子高生は頷いて、無表情かつ小声でこう言った。


「お酒大好きです。高校にもお酒を持って行って、こっそりトイレで飲んでます。大きな水筒に入れて。臭いでバレないようにマスクはいつも2重に着けてます。高校に友達がいなくて誰とも喋る機会が無いから、バレません」

「将来有望ですね」

「皮肉ですか?」

「皮肉です」

「ふふ」


 さっきまで泣いていた女子高生は小さく笑った。その瞳は赤く充血している。


「お酒、買ってもらってもいいですか?」


 俺はしばらく無言になった。そして小声でこう言った。


「……相手が未成年だと知りつつアルコールを飲ませるのは立派な犯罪です。俺は警察には捕まりたくないです」

「私が警察にチクるかもしれないって思ってるんですか?」

「……」

「あなたは私を助けてくれた人です。警察には絶対に、絶対に言いません」

「その言葉を信じます」

「はい」

「どれを何本飲みたいですか?」

「ストロングゼロのレモンのロング缶、9本」

「えええ……飲みすぎだろ……俺、22歳の時からアルコール依存症って診断されてるけど、ストゼロ9本ってアル中全盛期の俺の1日の飲酒量じゃねえか……」

「じゃあ、4本でいいです」

「わかりました。でも未成年の飲酒は法律で禁止されてて駄目な事ですからね? 俺が酒を買うのは、特別ですよ」

「でも、この世に居場所が無いトー横キッズはみんな未成年でもガンガン飲酒してるじゃないですか」

「うん。まぁ、そうですけど」

「私も歌舞伎町に集結するトー横キッズと同じで、家庭環境が終わってて、もうこの世に居場所がありません。お酒買ってほしいです」


 そう言うと、女子高生は上目遣いで懇願するように俺を凝視してきた。

 この子供は、俺が上目遣いなんかで動じるとでも思ってるのか?

 俺は29歳の人生経験豊富なおっさんだぞ。この女子高生の顔面は、可愛いか可愛くないかで言ったら可愛い方だと思うが、俺は未成年には一切興味が無い。あなたとは人生の“経験値”が違うんだよ。経験値が。

 

「よし、買ってあげる」

「やったー、ありがと」


 人生の経験値が少ない俺は、あっさりストゼロのレモン味を無表情で4本カゴに入れた。女子高生は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 そして、俺は酒コーナーから離れた。


「あれ? あなたはお酒買わなくていいの? アルコール依存症って言ってたけど……」


 と女子高生が背後から言った。


「俺は今、断酒してるんだ。もう酒は一生飲まないと決めてる」

「そうなんだ。同じアル中でも、私のお父さんとは全然違う」

「俺は適当にモンスターとブラックコーヒーでも買います。アルコールの代わりにカフェインだ」


 俺はMonsterという国民的エナジードリンクと500mlのBOSSのブラックコーヒーをカゴに入れた。

 それからしばらく待っていたら、女子高生はおにぎり3つと、ミートソースパスタの弁当と、サンドイッチと、バニラのカップアイスと、バウムクーヘンと、みたらし団子と、ワッフルを俺の持つカゴに入れた。やっぱり相当腹が減っているようだ。


「これで大丈夫です。ほんとに助かりました。ありがとう」

「うん。よかったな、飢え死にしなくて」


 俺はレジで会計を済ませた。レジ袋は2つ買った。

 俺の分の袋と、女子高生の分の袋を持ち、女子高生と一緒に店外へ出た。

 そして俺は、無言で片方のビニール袋を手渡した。

 

「ありがとうございます」


 と言って、女子高生は袋を受け取った。

 夜風を頬に浴びながら、俺はふいに気になった事を聞いた。


「今夜、寝る場所はあるの?」

「……ない」

「そっか。じゃあ2万円やるから、今日はネカフェに泊まりな。その余りの金は電車賃に使って、埼玉に帰るんだ。でも父親がいる家には帰るなよ。役所とかの行政に行けば親からの虐待に困ってる子供を保護するサービスが受けられる。頼れる親戚がいるなら、親戚にも頼るんだ。色々書類とか書く必要があるはずだから」

「え、2万円? ただでさえこんなに買ってもらったのに、2万円は申し訳ないです。私はこれからずっと野宿します」

「野宿はやばいだろ。風邪ひくぞ。あと、こんな真夜中に女子高生1人で外にいるのは良くない。下手したら性犯罪に遭うぞ」

「別にいいです。どうせ近々死ぬんだから、誰に何されようが一緒」

「そんなに死にたいのか」

「はい」

「そっか」


 俺は、自分が16才だった時の記憶を呼び起こした。当時俺は、俺と同じ16才の女の子に恋をしていた。両思いだった。俺の初恋だった。だが、付き合い始める寸前に、真夜中、1人で歩いていたその女子は最悪な性犯罪に遭った。その後、その子は男性恐怖症に陥り、一方的に縁を切られた。そこで俺の初恋は儚く終わった。

 あの女の子も、この女子高生と同じように「死にたい」と言っていた。それも毎日。俺もあの子と同じように毎日「死にたい」と言った。あの子も俺も、高校に友達が1人もいなくて、病んでいて、死にたがっていた。

 俺には、この死にたがりの孤独な女子高生が、初恋のあの子に重なって見える。

 なので俺は言った。


「野宿だけは、絶対駄目だ。安全な場所に泊まれ」

「じゃあ私、どこに行けばいいんですか?」

「うーん……」

「あ、良いこと思いつきました。私、あなたの家に泊まっていいですか? コンビニで色々買ってくれたり泊めてくれるお礼に、私なんでもします。性的な事も」

「俺は性的な事は付き合ってる人としかしない主義だ」

「じゃあ期間限定で私と付き合ってください。あなたに何のお礼も出来ないのは、罪悪感があります」

「駄目だ。俺は未成年とは絶対に付き合えないし、倫理的な観点から未成年とは絶対やらない」

「真面目ですね」

「とりあえず金あげるから、今日はネカフェに泊まりな。ここから少し歩けば快活クラブっていうネカフェがある」


 俺が財布から1万円札を2枚取り出しながらそう言うと、女子高生は黙り込んだ。


「ん、どうしたの」

「お金は1円も受け取れません」

「真面目だな。32円しか所持金無いんだろ。何もできないじゃん」

「あと、知らない土地で私1人で過ごすのが寂しいです。ネカフェに行ったら1人になっちゃう。誰かと一緒にいたいです。だから、わがままかもしれないけど、あなたの家に今日は泊まってもいいですか?」

「怖くないのか? 俺の素性なんて何も知らないだろ」

「あなたは怖い人じゃないです」

「どうしてそう言い切れる?」

「あなたと話してると落ち着くからです」

「あ、そう」

「泊まってもいいですか?」


 野宿はさせたくない。この子はネカフェには行きたくないと言う。じゃあ俺の部屋に泊めるしかない。幸い、家出から2日しか経っていない。まだ問題は大きくなっていない。問題が大きくなる前に、早期に埼玉に帰ってもらって、行政に行ってもらおう。


「いいよ。今日は俺が匿う」

「やったー」

「でも俺、部屋でタバコ吸いまくるから、制服が臭くなるぞ」

「別にいいですよ」

「あと交通費渡すから、明日埼玉に帰れ。市役所に行って、行政とすぐ繋がるんだ」

「なんでそんなに冷たいの? もう埼玉に居たくないから家出したのに」

「俺が冷たいのは、俺の手には負えないからだ。俺じゃあなたは救えない」

「私がまだ高校生だから?」

「それもある」


 その瞬間、冷たい風が勢いよく吹いた。


「寒いから、行こうよ」


 と女子高生は言った。長い髪がカーテンのように風に揺れている。


「うん」


 と俺は言った。

 女子高生はしゃがんで、自分のリュックの中にコンビニのビニール袋をしまった。


 ◆


 ド深夜の街の暗い歩道を並んで歩く。

 人は居ないが、車は頻繁に通過する。


「もしも警察に遭遇したら、間違いなく職質されるな。上下黒いスウェットの男がこの時間帯に制服姿の女子高生と2人で歩いてるのは怪しすぎる。犯罪の臭いしかしない」

「もし職質に遭ったら、私が妹って言い張るから大丈夫」

「それで行こう」

「あ、でも私あなたの名前が分かんない。私は佐々木みゆ。あなたの名前は?」

「山田」

「下の名前は?」

優雅ゆうが

「ふーん。じゃあ警察に職質されたら、私、山田みゆって言うね」

「うん」


 その後は互いに無言で歩いた。

 不思議な感覚がした。俺はただタバコを買う為にコンビニに行ったが、家出した死にたがりの埼玉の女子高生をアパートに連れ帰ることになってしまった。

 10分ほど歩くと、アパートに着いた。

 2人で階段を上がる。


「着いたね」と女子高生。

「うん。3階の角部屋が俺の部屋」

「1番いいじゃん」


 ◆


 俺はアパートの扉を開けて、スマホの懐中電灯を点けて、女子高生が分かりやすいように玄関を照らした。

 俺は扉を押さえながら、「上がっていいよ」と促した。

「うん」と言って女子高生はローファーを脱いで、キッチン・便所・風呂がある空間に降り立った。続いて俺が入り、9.5畳の部屋へと繋がる扉を開けて中に入った。続いて女子高生が入った。

 俺はすぐ部屋の電気を点けた。


「汚い部屋でごめん」

「私の部屋に比べたら全然汚くないよ。綺麗。あ、ぬいぐるみがいっぱいある。かわいい。ギターもある」

「弾けないけどね。エレキギターはただのインテリアだ」

「この部屋、何畳?」

「9.5」

「大きめだね」

「1人で暮らすには充分だな。俺は今からパソコンで作業するから、高校生はその辺でくつろいでてくれ」

「さっき名前教えたじゃん。佐々木みゆだよ」

「ああ、今覚えた」


 俺は椅子に座って、ノートパソコンを開いて、無言でタイピングして小説を書き始めた。

 ビニール袋からモンスターを取り出し、一口飲んで、タバコに着火して吸い始めた。

 佐々木みゆは、俺の部屋のテーブルのそばにリュックを置いて、ビニール袋から食べ物や酒を取り出して、テーブルに並べた。そして座布団の上に座った。

 俺は佐々木みゆに背を向ける形になっている。

 やがて、プシッという音がした。振り返ると、少女は無表情でストゼロを飲んでいた。

 俺は再びノートパソコンに向かい、カクヨムに載せるための小説を書き始めた。


「ねぇ、なにやってるの? 仕事?」

「仕事じゃないよ。趣味で小説を書いてる」


 俺は少女に背を向けたまま、そう答えた。


「小説書くのが趣味って珍しいね。そんな人、初めて知り合った」

「好きなんだ。17才の頃から、ずーっと小説を書いてる」

「ふーん。今どういう小説書いてるの?」

「病んでる女子高生の小説を書いてる」

「えっ、私じゃん! 私にも読ませて。私、小説読むの好きなの」

「そのうち完成すると思うから、ちょっと待っててクレメンス」

「うん」


 それから5分くらい無言の時間が続き、佐々木みゆはこう言った。


「ねぇ優雅さんって彼女いる?」

「17年くらいずっと居ないよ」

「え、17年もいないの? 17年前って、何歳?」

「12」

「若! それ以降彼女できたことないの可哀想」

「しょうがないよ」

「ねえ」

「何」

「優雅さんってどんな高校生だった?」

「最初は野球部にいた。でも、途中で辞めて帰宅部になった。そこから不登校になったけど、ギリギリ留年せず3年間で公立高校を卒業できた。友達は最終的には1人もいなかった。いつも1人ぼっちで病んでた」

「寂しくなかった?」

「寂しかったよ。初めて自殺を考えたのは高校生の時だった」

「そうなんだ。今は寂しい?」

「どうだろう。もう孤独なのが当たり前すぎて、何も感じなくなった」

「私と付き合ってよ。私、いつも1人ぼっちで寂しいの」

「だめだよ」

「なんで?」

「知り合って間もない上に、倫理的に駄目だ。今何才?」

「私は17」

「17とは付き合えないな」

「振られちゃった。あ~、早く死にたいなあ」

「生きてれば勝手に死ぬ日がいつか来る」

「その日が遠いから今死にたいの。てか、ぶら下がり健康器に洗濯物干してるんだね。変なの」

「このぶら下がり健康器は、元々は首吊りで死ぬために買って組み立てたんだ。でも死ねなかったから、物干し竿として有効活用してる」

「あはは。うける。あー、酔ってきた~」

「近い将来、俺みたいにアルコール依存症になっても知らねえぞ」

「優雅さんはアルコール依存症なのに、なんで酒やめてるの?」

「彼女欲しいからダイエットのために断酒してる」

「私と付き合えばいいのに! そしたらお酒飲めるよ」

「もうお酒はいいよ。俺も今まで色々あったんだ」

「飲まなきゃ人生やってられなくない?」

「意外とやっていけるぞ」

「私はお酒が無い人生なんて考えられない」

「俺も昔はそうだった」

「なんで考えが変わったの?」

「色々あったからな。29歳まで生きてると、そこに至るまでに色んな事が起こる」

「当たり前じゃん」

「予想もしてない事が何度も何度も起きて、生きるのも悪くないって思える日が俺には来た。5回以上自殺未遂するくらい死にたかったのに、去年の暮れに首吊り用ロープを燃えるゴミの日に処分した。燃えるゴミは俺自身だとずっと思ってたのにな」

「私は、これ以上生きても良い事なんて1つも起きないって思っちゃう」

「俺もそうだった」

「ふーん。良い事は起きた?」

「起きたよ。どれも長続きはしなかったけど。でも、これからも生きてたら俺には絶対良い事が起こる。絶対悪いことも起こる。良い事だけっていう人生は存在しない。悪い事だけっていう人生も存在しない」

「そうだね。でもつらいよ、生きるの」

「ああ、つらいな。分かるよ」


 ◆


 それから20分くらい経つと、佐々木みゆは完全に酔ってしまった。彼女は食べ物には手を付けていなかった。空きっ腹に酒を流し込んだから、酔いまくるのは仕方ない。

 俺が先に食べ物を胃に入れるように促すべきだった。

 

「あ~、超酔っぱらっちゃった! ねぇ優雅! 私の話、聞いてくれる?」

「うん」

「私ね、高1の時に初めて彼氏できたんだけど色々酷いことされて過食嘔吐が始まって躁鬱になって過食嘔吐になって食費がめっちゃかかるようになっちゃって賄えなくなったから躁鬱の躁の勢いで売春とかパパ活始めたの。それで警察にも補導されまくってきたし唯一の家族のお父さんがアル中で終わってるし躁の時に色んな知らない人とやりまくって鬱になった時に死ぬほど後悔してメンタルが糞になって学校行けなくて不登校気味になって友達いなくなって、無駄に進学校に入っちゃったせいで不登校になったから勉強に全くついていけなくて将来に絶望してるから自傷行為とか止まらないし。でね、お父さんが会社でこっそり酒飲んでるのがバレて仕事中に会社の人を殴ってクビになって、あ、いよいよ無理だなと思って私がお父さんに色々言ったらめっちゃ殴られて家出した。ちなみに躁状態の時に散在しまくったから金は今ほんとに無い。躁の勢いだけで群馬まで来たんだよ」

「大変だったな。でもなんで群馬なんだ? 埼玉のすぐ下は東京だ。歌舞伎町に行けばトー横キッズもいる。東京の方が居場所があるんじゃない? なんで群馬?」

「だって歌舞伎町とか危険がいっぱいありそうで怖いんだもん」

「たしか埼玉の本庄市から家出したって言ってたよな」

「うん」

「本庄市って埼玉のどの辺?」

「埼玉の1番上。田舎だよ」

「あ、そうなんだ」

「うん。てかこれからどうしよう自殺するしかないかな~自殺するしかないよね~?」

「冷静に考えた方がいい。たしかに現状は厳しいけど、今後の選択肢が無いわけじゃない」

「じゃあ教えて。私が自殺以外にどうしたらいいのか。1番いい選択肢」


 どうしたらいいんだろう。家には無職のアル中の暴力を振るってくる最低の父親がいる。他に家族は居ない。グループホームには17才ではまだ入れないはずだ。しかも彼女は躁鬱と過食嘔吐(摂食障害)というメンタル疾患を持っている。ついでに不登校気味で進学校の勉強には全くついていけてないらしい。

 俺がその立場だとしたら、おそらく高校を中退するか通信制に転入する、と言いたいところだが、父親がアル中で無職であるという事を加味すると、お金のかかる通信制は厳しい。仮に売春・パパ活で学費を稼ぐとして、一体何回すればいいのか。通信制に行くことはあまり現実的ではない。中退して高卒認定の試験を受けて、自分で学費を貯めて専門学校や大学に行く方が良いな。その場合、より金が必要な大学よりも専門学校の方が現実的か。躁鬱を抱えながら4年間大学に通うのはおそらく困難な道だ。なら、2年間か1年間で修了する専門学校が良いだろう。元々この子は進学校に行ける頭脳の持ち主だ。多少勉強すれば高卒認定の試験は簡単に受かるだろう。

 

「俺がそっちの立場だったら高校は中退すると思う。それで学費を貯めながら勉強して高卒認定の資格を取る。高認の資格は16歳以上から受験できて、満18歳以上で効力を持つようになる。それで18歳から専門学校に行く。そっちにとっては、それが1番まともなルートな気がする。仮に自分で学費を貯めたり奨学金を借りて大学に行ったとしても、躁鬱を抱えながらだと4年間も通うのは大変だ。2年制か1年制の専門学校の方がメンタルの負担は少ない」

「“そっち”じゃなくて、みゆって呼んで」

「みゆ」

「そう。みゆって呼んで。もう1回みゆって呼んで」

「みゆ」

「ねえ優雅」

「なに」

「真剣に考えてくれてありがとね。近々、高校中退するよ。それで自分で学費貯めながら勉強して高卒認定試験受けてみる」

「そんなあっさり中退決めていいの?」

「いいよ。どうせ高校なんて卒業できないもん」

「そっか」

「てかさ~。眠くなってきた……。私、酒に酔うといつもすぐ眠くなっちゃうの……酔っていたいのに」

「そうか。俺は今日は寝ないから、もしベッド使うなら使っていいよ。洗濯ばさみに干してある枕カバー使ってくれ」

「え、ベッドで寝ていいの? 床で寝ろって言われるかと思った」

「言わないよ。あと今日寒いからクローゼットから毛布出すわ」

「さいこー。今日は寒い中で野宿するつもりだったから、優雅に会えて本当に良かった!」


 俺は立ち上がってクローゼットを開けて毛布を出して、ベッドに置いた。

 ついでに洗濯ばさみから新しい枕カバーを取って、枕カバーを交換した。


「あと、なんか食っといた方が良いよ。まだ食べ物に手つけてないだろ」

「うん。あと眠い」


 みゆはスイーツ類を食べ始めた。やがてこう言った。

 

「ねえトイレ行きたい。お酒飲むとすぐトイレ行きたくなるよね。トイレ借りていい?」


 俺以外の人が来ることを一切想定していなかったので、うちのトイレは汚い。


「トイレ汚いけど我慢してね」

「別に汚くていいよ。あと優雅さん」

「なに?」

「優雅さんの事、優雅って呼び捨てで呼んでいい? 私たち、もう仲良しでしょ? これから優雅のこと優雅って呼ぶから、優雅は私のこと、みゆって呼ぶんだよ。分かった?」

「もう既に俺のこと呼び捨てで呼んでるだろ」

「酔ってるね。私」

「酔ってるな」

「とりあえず私のことはみゆって呼んで。“そっち”って呼ばないで」

「分かった。トイレ行ってきな、みゆ」

「うん」


 みゆは立ち上がり、若干ふらつきながら部屋のドアを開けてトイレへ向かった。

 しばらくすると、トイレの水が流れる音がして、みゆは戻ってきた。

 俺は小腹が空いたから冷蔵庫を開いて漁っていた。みゆは冷蔵庫の中を興味深そうに覗いた。


「お酒が入ってないね。ほんとに断酒してるんだね」

「失敗の繰り返しだけどな……。禁煙が難しいのと同じで、禁酒も難しいんだ。ものすごく」

「私がお酒飲んでるの見て、俺も飲みたくて仕方ない! ってなったりしなかったの?」

「しない。精神科に通院してるんだけど、レグテクトっていう薬を貰ってる。抗酒薬って言って、酒を飲みたい欲求を減らしてくれるんだ。これが効いてる。効いてて草」

「偉いね」

「何が?」

「何回断酒に失敗しても、その度にまた断酒し直してるんでしょ? ……あっ」


 みゆが歩き出そうとしたら急にふらついて、倒れそうになったので、軽く腕を掴んだ。


「ありがとう」

「酔いすぎたな」

「私、一人っ子だから兄弟がいる人の気持ち分かんないけど、こんな感じなのかな~。安心感がある」

「俺は姉と妹がいる」

「そうなんだ。優雅、私のお兄ちゃんになって。今日から」

「お兄ちゃん?」

「私、小さい時からずっと優しいお兄ちゃんが欲しかったの。優雅の姉妹きょうだいが2人から3人に増えても別にいいでしょ?」

「うん。姉妹が1人増えたところで何も変わらない」

「じゃあ今日から私も妹ね。女の姉妹きょうだいだらけだね。あはは。私ね、小さい頃から優しいお兄ちゃんが超ほしかったの。って、もう言ったか。あはは楽しい~」


 そう言って、みゆは歩き出し、テーブルの前の座布団に座り、再び酒を飲み始めた。

 未成年の飲酒は法律で禁止されている。それを黙認する俺は、悪いことをしている自覚はある。だが、みゆの言うとおり、「とてもじゃないけど酒を飲まなきゃ人生やってられない層」が一定数存在するのは明確な事実であり、そこに成年・未成年は関係ない。

 俺は未成年の飲酒を促したいわけではない。むしろ本心としては真逆だ。だが、みゆのように他人に全く救われず、精神病になり、人生や未来に絶望し、泥濘を彷徨って死にたがっている人たちは、一体どこに救いを求めればいいのだろうか……。

 俺は、みゆの隣にゆっくり座った。


「みゆ」

「なぁに?」

「普段、酒はどうやって調達してるんだ。その見た目だと確実に年齢確認されるだろ。スーパーのセルフレジとかで買ってるのか?」

「お父さんが酔ってる隙に、くすねてる。1度もバレた事が無い。4リットルの甲類焼酎だったら多めに減ってても全然バレないし、お父さんはいつも大量に缶チューハイを箱買いしてるから、何本か減っててもバレないの。お父さんは家にいるときは常に酔ってるから、お酒が取り放題。私はコンビニとかスーパーでお酒買ったことは1回も無いよ」

「そうなんだ。まぁそうか。俺がみゆの立場だとしても、同じことをする」


 親父に問題がある。まぁ酔って自分の娘の腹を思いきり殴る時点で相当終わっている。

 やがて、みゆは酒の缶をコトンとテーブルに置いて、制服の両袖をまくって、ワイシャツのボタンを外して、細い両腕を俺に見せてきた。リスカ・アムカ痕が大量にある。

 みゆは笑顔でこう言った。


「見て見て。いか焼き!」

「いか焼きだな。この傷の量だと夏でも長袖着ないとな」

「体育祭で、みんなクラスTシャツ着てる中、私1人だけがジャージだった。マラソン大会の時、ほんの数人だけ女子でジャージで走ってる子がいたけど、たぶん私の同類」

「高校生だとTシャツになる機会が多いから大変そうだな」

「まぁ、周りに自傷行為がバレたところで、私は何も気にしないんだけどね。でも私の自傷痕を見て不快に感じる人がいたり、先生にネチネチ言われる可能性があるから、ずっと隠してる」

「そっか。考え方がまともだな」

「優雅は自傷した事ある?」

「何回もある」


 そう言って、俺はスウェットの袖をまくって自分の左腕をみゆに見せた。

 

「え、なにこれ。黒い丸がいっぱいあるね」

「これは、タバコの火を押し付けた痕。社会人時代には職場の便所や車の中で細かいリスカも頻繁にしてた」

「タバコの火を押し付けるとか、超痛そう」

「別にそんなでもないよ」

「嘘だ~。ほんとは超痛かったんでしょ」

「うーん。自傷する時って、心が苦しい時だから、体の痛みが心の苦しさを取ってくれる感覚あるだろ? だからあんまり腕は痛くないんだ」

「あ、それ分かる。自傷すると心の痛さが緩和される。体の痛みが中和してくれるっていうか」

「自傷しないと生きていけない層は一定数いる。俺が今まで仲良くなった人たちの多くが自傷してた」

「それって女の人?」

「うん」

「男で自傷する人ってめっちゃ少なくない? 私、今初めて見たよ。リアルの世界で自傷経験ある男の人」

「意外と多いよ。俺のXの男のフォロワーでエグい自傷をしまくってた人がいる。Xで探せばゴロゴロいるんじゃない? 女の人より割合は少ないだろうけど」

「優雅ってXやってるの? 私と相互フォローしよ」

「分かった」

「あとLINEも交換して」

「うん」


 みゆと俺は互いのXアカウントをフォローし合い、LINEも交換した。

 すると、みゆは笑った。


「家出して良かった! これでもう私は孤独じゃない」

「俺もまさかアパートに家出した高校生が来るとは思わなかったよ」


 そう言うと、みゆは笑って、ストゼロを飲んだ。

 既に1本目が終わり、2本目を飲んでいる。


「私、太宰治みたいに大好きな人と一緒に自殺するのが夢なの」

「23歳くらいまでは、俺もみゆと同じ考えだったよ。太宰治みたいな死に方に憧れてた。一緒に死ぬのも1つの愛の形だと思った」

「今はどう考えてるの?」

「普通に好きな人と仲良く暮らしていけたら、それが1番の理想かな」

「それ、メンヘラには1番難しくない?」

「難しいからこそトライするんだよ」

「まぁ願うだけなら自由だよね。私も本当は穏やかに生きたいよ。優雅の今の夢は何?」

「今の夢は、彼女作って一緒に猫カフェに行くことだ。ちなみに最近まで“好きな人と一緒にカラオケに行く”っていうのが夢だったけど、それはもう叶ったから、次は彼女作って猫カフェに行くのが夢だ」

「優雅は猫好きなの?」

「うん。実家に猫がいる」

「私も猫は好き。というか動物が好き。動物は純粋で、私を絶対に裏切らないから」

「まあな」

「優雅は私のこと絶対に裏切らないでね」

「保証は出来ない」

「え、どうして」

「この世に“絶対”は無いからな」

「うん」

「あと、知り合って間もない男の家で2人きりになるのは超危険だから、今回だけにしとけ」

「うーん」

「偶然みゆに声を掛けたのが俺だったから、みゆは性被害に遭ってないだけだ」

「別にいいけどね。性被害に遭っても。もう人生が全部どうでもいいし。今まで好きでも何でもない汚いおっさんと金だけの為にやりまくってきたし」

「性被害を受けて、それで終わるとは限らない。強姦の証拠隠滅のために、みゆが殺されてバラバラ遺体にされて山に埋められる可能性もゼロじゃない」

「あ、それは嫌」

「めっちゃ嫌だろ。どうせ死ぬなら、自分の意志で死にたいだろ。でも、犯罪に巻き込まれたら、その自由すら奪われる可能性だってある」

「そっか。じゃあこれからは気を付ける」

「うん」


 みゆはスイーツを食べながら、酒を飲み続けている。

 やがて2本目も飲み終えて、3本目の缶を開けた。

 少し経つと、みゆの酔いは更に加速して、エスカレートしてきた。


「私、付き合うとしたら年上が良い。優雅みたいな人が良い。大好き。結婚して。死ぬまで2人で一緒に居たい」

「……」


 俺は無表情のまま、特に何も言わなかった。

 みゆの口調がゆっくりになってきた。眠そうな顔をしている。

 

「ベッドで寝るなら今のうちにベッドで横になっとけ。めっちゃ眠そうだよ」

「うん……」


 みゆは欠伸をしながら立ち上がり、よろよろと歩いて、ベッドに横になって、自分の体に毛布を掛けて、目を閉じた。

 その1分後くらいに、みゆの寝息が聞こえてきたので、俺は部屋の電気を真っ暗にした。

 部屋の光源はノートパソコンだけになった。

 ベッドは俺の背後の離れた場所にある。

 気が付くと、時刻は深夜の4時40分になっていた。ほぼ朝だ。

 俺はイヤホンを装着してパソコンでAmazonミュージックを開き、好きなロックを聴きながら、暇潰しに小説を書き始めた。

 偶然、俺が今書いている小説は、病んでいる女子高生の小説だった。

 みゆと話していて思ったが、高校生あたりの年齢で病むことが1番きつい気がする。

 まだ自立が出来ない、あるいは自立が許されない年齢で、先行きも見えてこない。大人になるにつれ精神病は落ち着いていくのが一般的だ。だが、まだみゆは17才。躁鬱と摂食障害になってから、まだ日が浅い。それに、17才という年齢で自分の身に起きている事の全てを受け入れて達観するのは不可能だ。

 みゆの事を真剣に考えていたら、息が詰まるような感覚になった。

 これから、大変なんだろうな。色々と。これから受難の道が彼女には待っている。

 

「……」


 俺は切ない気持ちになり、無表情でタバコに火を点けて、吸い始めた。

 

 ◆


 小説を書いていたら、気が付くと朝の10時30分になり、俺の仕事が始まる時間になった。だが俺は休みの連絡を入れた。みゆがそばにいるこの状況下で作業所の仕事をしている場合ではない。

 不思議と眠気は来なかった。みゆはまだ寝ている。

 俺は歯を磨くついでに着替え(今着ているのと同じ上下黒のスウェット)を持っていき、シャワーを浴びた。

 俺がシャワーを浴びて髪と体をバスタオルで拭いて部屋に戻ると、みゆは目覚めていて、テーブルのそばの座布団に座ってスマホを弄っていた。そして朝っぱらから酒を飲んでいた。

 

「あ、おはよう優雅」

「おはよう。よく寝られた?」

「うん。優雅は寝たの?」

「座布団を枕にして寝たよ」

「私、歯磨きしたいけど、持ってない」

「じゃあ俺がドラッグストアで買ってくるよ」

「一緒に行きたい」

「そういえば、着替えは無いの?」

「無いよ。衝動的な家出だから」

「制服だけで来たのか」

「優雅の服借りてもいい?」

「ああ、いいけど」


 俺はクローゼットを開けて、上下グレーのスウェットを収納から取り出して、みゆに渡した。


「ありがとう。着替えるから、あっち向いてて」

「うん」


 俺はしばらくみゆの反対方向をぼーっと眺めていた。


「いいよ」


 そう言われて振り返ると、上下グレーのスウェットに着替えたみゆが笑って立っていた。


「見て。クッソぶかぶか」

「それ3XⅬだからな。俺ですらぶかぶかだから、みゆなら尚更だな」

「あ、そういえば私も、シャワー浴びたい」

「シャンプーと洗顔が男物だぞ」

「大丈夫」

「そっか」

「じゃあシャワー借りるね」

「うん」


 みゆは、ぶら下がり健康器の洗濯ばさみからバスタオルを取って、部屋から出て行った。

 俺は椅子に座ってドライヤーで髪を乾かしながら、今後について考えていた。

 みゆを一体どうしたらいいのか。

 どうするのが1番いいのか。

 とりあえず、埼玉の役所に行ってもらって、行政に何とかしてもらうしかないのか。

 正直言って、みゆが何の組織にも属していない無職だったら、しばらくここで一緒にいることは出来るが、みゆは高校生だ。てか今日も平日だ。これで3日連続で欠席していることになる。

 家出した高校生のみゆを俺が匿っていること自体が、もしかしたら何らかの法に引っかかっているかもしれない。仮にみゆの関係者が捜索願を出して、みゆが「行方不明者」として認定され、俺のアパートにみゆがいることが発覚したら、俺は警察に捕まると思う。

 だから捜索願が出される前に何とかしないと。

 まぁ、別に捕まったからって死ぬわけじゃないけど、色々面倒だ。

 

 ◆


 やがて、みゆが部屋に戻ってきた。


「あー、さっぱりした。シャワー貸してくれてありがとう」

「さっぱりしてよかったな。そういえばみゆ、お父さんには連絡入れてる?」

「入れるわけないじゃん。あんな糞野郎に」

「一応LINEくらいは送っといた方が良いぞ。もし捜索願が出されたら、みゆは行方不明者のリストに入って警察に探される事になる。あと俺も困る」

「あー、私を匿ってる優雅が犯罪者になっちゃうかもね。未成年略奪? 誘拐? みたいな罪状で」

「そういうことだ」

「じゃあ今すぐ親にLINEする」

「助かる」


 みゆはテーブルの上のスマホを手に取り、高速でフリック入力した。

 次にみゆは高校にも欠席する旨の電話をした。

 その後、とりあえず俺たちはドラッグストアに向かう事にした。

 みゆの歯ブラシを買うためだ。

 

 ◆


 アパートから出ると、今日はよく晴れていた。

 階段を下りていると、


「ドラッグストアってここから何分?」とみゆに質問された。

「徒歩1分」

「近いね」

「徒歩圏内に何でも店があるし、何年も運転してないから、車は売ろうかなって最近悩んでる」

「売ったら勿体ないよ」

「なんで?」

「彼女が欲しいんでしょ? 彼女とデートとか旅行する時に車があった方が印象いいよ」

「じゃあ売らない」

「うん」


 ◆


 ドラッグストアに入ると、みゆは何故か薬のコーナーに直行した。

 横にいた俺は色々察した。

 ●●●という名前の咳止め薬の前でみゆは立ち止った。


「みゆ、ODもしてるのか」

「うん」

「俺も25歳まではODしてたなあ」

「やっぱり、大人になると自然とODってやめられるものなの?」

「人による。30過ぎた大人でも40過ぎた大人でも、やってる人は居る」

「そっか」

「欲しい?」

「いや、いい。値段が高いから。その代わり、ちょっとお酒欲しいかも」

「普段毎日飲んでるの?」

「うん」

「悪いガキだなあ」

「ふふふ。ねえ優雅は何歳からお酒飲み始めたの?」

「俺はちゃんとハタチから」

「真面目だねえ」

「ハタチで車の工場の仕事辞めて引きこもりニートになったんだ。それからはもう酒・ODの嵐だった」

「そうなんだ。私、仕事なんて出来る気がしないよ。高校にすら、まともに通えないのに」


 そう言って、みゆは俯いた。


「そういえば優雅って仕事してるの?」

「障害年金貰いながら在宅の作業所で働いてる。今日はたまたま仕事が休みの日だ。俺も、一般企業じゃもう働ける気がしない」

「そっか」


 そっか、に若干の哀愁が漂っていた。


 ◆


 みゆの歯ブラシと、みゆが要望したアルコール度数9%の缶チューハイ3本を買って、アパートに帰宅した。

 みゆはすぐに歯を磨き始めた。

 そして、みゆは部屋にある座布団に座り、死んだ目で缶チューハイを飲み始めた。


「これから私、どうしよう」とみゆ。


 俺は椅子に座り、ぼーっと喫煙しながら、


「どうしようか」


 と呟いた。煙がゆっくりと宙に舞っている。

 

「とりあえず高校を中退することは決めたの。それで売春とかパパ活しながら学費貯めて、高認の資格取って、18才になったら専門学校に進学しようかな。就きたい職業なんて無いけどね……。とりあえず学費は自分の力で貯めなきゃ」

「無職のアル中の父親には頼れないからな」

「うん」

「俺は貯金が今56万ある。もし学費が足りないなら俺も多少は払える」

「さすがにそれはいいよ。申し訳ないから。あと、私も優雅みたいに1人暮らしがしたいな。17才でもアパートって借りられるの?」

「未成年の場合、親の同意が必要になる。親名義で賃貸契約をして、住居人を未成年の子供にする場合がほとんどだ。未成年だけで賃貸契約する事は法律的に難しい」

「そっか。私だけじゃアパートも借りられないんだ……。しかも唯一の親が無職だし。私の父親が働いてくれたらいいんだけど、どうせ働かないし1人暮らしなんて許してくれない。最近は貯金を酒とパチンコとパチスロに浪費してる。無職になってからどんどん酷くなってる」

「……」

「酷い親だよね。私がなんか言うと殴るし」

「……うん」

「死にたい」


 そう言って、みゆは酒を流し込んでいく。俺はタバコを吸いながら、ただその様子をぼーっと見ていた。

 やがて、みゆのスマホがLINEの通知音を発した。

 みゆはスマホを手に取った。すると笑った。


「連絡なんかしてくるな、だってさ」

「ごめんな。俺が連絡しろって言ったばっかりに」

「いいよ。とりあえず、父親が私の捜索願を出すことは無さそう」


 俺は無表情でタバコの煙を吐いた。

 するとみゆは遠い目をして、こう呟いた。


「高校、さっさと中退して自由になりたいな」

「父親の説得は出来そう?」

「うん。そもそも父親は私が高校に行くことに反対してたから。私が『進学校に行って良い大学に行きたい』って言ったら、『お前を大学まで行かせる金なんて無いから高校に行くこと自体が意味無い。中学卒業したら働いて家に金を入れろ』って言われてた」

「マジかよ……」

「うん。私の親はそういう親。お母さんが生きてた頃は酒に溺れることも無かったのに。私が中学2年の時にお母さんがガンで死んで、そこからお父さんがアルコールに依存するようになった。なにかの糸が切れちゃったんだろうね」

「そういう背景があったのか」

「うん。お父さんは、酔うと人格が変わったように怖くなるの。お父さんがお父さんじゃなくなる」

「俺も、酒を飲みすぎると、俺が俺じゃなくなる」

「優雅は、酔ったら怒る人?」

「……」

「えっ。怒るの?」

「何回か親しい女性にブチ切れた事がある。それぞれ違う人だ」

「そっか……」

「死ねって言ったことも1回だけある」

「嘘だよ。優雅がそんな事、言うわけないよ」

「本当だ」

「そうなんだ……」


 俺が真面目に言うと、みゆはショックそうな表情を浮かべて、俯いた。

 そこからしばらく、互いに無言になった。


 ◆


 やがて、みゆが静寂を破った。


「でもシラフの時は大丈夫でしょ?」

「シラフの時は大丈夫」

「なら平気だね」


 過去の複数の罪の記憶が急速に蘇り、俺の本質は悪人だという事を再認識して、落ち込んだ。


「俺は死んだほうがマシな人間だ。どれだけ反省して自分を取り繕っても、人間の本質は変わらない。俺は人と関わらない方が良い」

「そんなこと言わないでよ。私、優雅に助けられたんだよ」

「仮にコンビニの陰で泣いている人の声が男だったとしたら、俺はその人を助けていたかどうか分からない」

「私が女だから助けたの?」

「多分そうだろうな。幻滅したか?」

「幻滅はしてないよ。だって実際、助けてくれたから」

「俺は、自分のことがよく分からない。この年齢になっても」

「優しい人だと思うよ」

「下心ありきの優しさなんじゃないのか?」

「それは、私に聞かれても困るよ」

「そうだよな。ごめん」


 少し間が空いて、急にみゆがこう言った。


「あ、そういえば病んでる女子高生の小説、完成した?」

「まだ完成してない。もう少し完成には時間が掛かる」

「じゃあ完成したら読ませて。楽しみにしてるから」

「ああ」


 ◆


 その日、俺はみゆに埼玉に帰るように言った。とはいえ、父から「2度と帰ってくるな」と言われている上に、みゆは父から暴力を受けている。家には帰らせたくなかった。

 俺は行き先を伝えず1人で外出してコンビニのATMで10万円を引き出した。そして、みゆに10万円を渡した。みゆは受け取りを渋ったが、俺が半ば無理矢理渡した。

 その後、2人で話し合いを行った。

 俺が渡した金でネカフェでしばらく過ごして、その間に高校を中退して、無職になったら、みゆがしばらく俺のアパートに滞在するという事で話がまとまった。


 その日の夕方まで、みゆは俺のアパートにいた。特に何もせず、ずっと2人で話していた。お互いの幼少期から今に至るまでを話したり、くだらない話や、趣味の話をしていた。

 夕方、みゆは俺のスウェットから制服に着替えて、埼玉に帰る準備を始めた。

 空がだんだん暗くなり始めた頃、T駅の改札前まで一緒に行って、俺はみゆを見送った。みゆが笑って手を振ったから、俺は小さく手を振った。

 俺が1人で歩いてアパートに帰宅した頃には、既に空は真っ黒だった。


 ──俺は、自分が正しい事をしている自信が無い。でも、みゆの奥深くまで干渉して関わった以上、もう他人事ではなかった。10万円を渡すことにも何の迷いも無かった。


 帰宅後、とりあえず暇だから、俺は病んでいる女子高生の小説をノートパソコンで書いていた。

 みゆは「完成を楽しみにしてる」と言っていた。

 その日の夜21時過ぎ、みゆからLINEが来た。ネカフェの個室で笑顔でピースしている自撮り写真と、文章が送られてきた。


『さっきお父さんに高校中退したいってLINEしたら、あっさりOKされた。中退までの流れはよくわかんないけど、明日お父さんが学校に電話して、私と一緒に学校に行くみたいなこと言ってた。躁鬱でもう通えないし、休みすぎて勉強ついていけないし、ぼっちだし、遅かれ早かれ中退してた。あとネカフェって快適だね。漫画もいっぱいあって楽しい。おすすめの漫画あったら教えて』


 俺は自分が大好きな漫画をいくつか教えた。

 そしたら『ありがとう。読んでみるね』と返信が来た。


 ◆


 それから1週間後の平日、みゆは俺にLINEの通話を掛けてきた。ちょうど作業所の仕事が昼休憩の時間だった。


『あ、もしもし優雅~?』

「はい。もしもし」

『さっき高校中退したよ。正式に』

「そっか」

『なんか変な気分。制服着てるのに、今はもう無職なんだよ。私』

「うん……」

『なんか元気ないね』

「……俺は、本当に正しかったんだろうか」

『中退を最終的に決めたのは私だよ。何も気にしないで』

「分かった」

『お父さんに、明日から群馬県の友達の家に住むって伝えたら、分かったって言ってた。荷物まとめて、明日群馬に行くね』

「……」

『優雅?』

「ん?」

『どうかした?』

「いや、なんでもない。明日、何時くらいに来る予定?」

『明日の昼の12時とかにT駅に着く予定』

「了解」

『じゃあ今から車で家に帰るから、電話切るね。じゃあね。また明日』

「うん。じゃあね」


 そこで通話は終わった。

 

 ◆


 翌日、11時50分頃に俺は徒歩でT駅に行き、スマホを弄りながら暇を潰して、みゆが来るのを待っていた。

 12時を数分回った頃、多くの人が雪崩のようにぞろぞろと改札から出てきた。

 俺はその中にみゆの姿を探した。だが人が多くて分からない。

 俺は改札出口から見てド真ん中の壁際に立っていた。服装はあらかじめ伝えてある。黒の無地のパーカーと、黒に限りなく近い紺のジーンズを着ているのが俺だと。

 群衆を目で追う事に疲れた。

 ぼーっとしていると、左肩をトントンと軽く叩かれた。

 左を見ると、そこにはみゆがいた。みゆは笑っている。大きいピンクのスーツケースを持っている。ちなみに制服ではなく私服だった。俺はファッションに無頓着だが、可愛い服装だという事は分かった。


「優雅。おはよう」

「おはよう」

「私、無事に無職になったよ。今日から優雅の部屋に住み着く」

「うん。よろしくな。みゆ、俺の家はシェルターみたいなもんだと思ってくれ。緊急の避難所みたいなもんだ。それ以上の意味は特にない」

「わかってる。今の私に1番必要なのは、物理的な居場所。優雅以外に頼れる人がいないから頼る。でも、仲良くしてたい」

「これまで通り、俺は普通に接する。それでもいいか?」

「いいよ。私も普通に接する」

「“普通”ってなんだろうな」

「よくわかんない。私の普通は、みんなの普通じゃないかもしれない」

「俺の普通も、多分みんなにとっての普通じゃない。まぁ、あんまり深く考えても答えは出ない」

「そうだね。あんまり堅苦しくなっても疲れるだけ」

「うん」

「あ、そういえば、病んでる女子高生の小説、完成した?」

「ちょうど今日の午前中に完成したよ」

「そうなんだ! 読むの楽しみだなあ。どんな小説なんだろう。小説って、その人の人物像や内面を覗き見してる気分になれるから好きなの。私は、暗い小説が好き」

「俺が今回書いた小説は暗いぞ。孤独な人に読んでもらいたい小説だ」

「孤独な人って、私じゃん。読むの楽しみ」

「あんまり期待しないでね」

「純粋に、優雅がどんな文章を書く人なのか気になるの」


 みゆは嬉しそうに笑った。


「ちょうどお昼だな。T駅の中でなんかメシ食ってくか?」

「うん。なに屋さんがあるの?」

「T駅のモントレー5階にうどん屋・パスタ屋・ステーキ・ハンバーグ・肉寿司の店とか、結構なんでもある」

「ガッツリお肉食べたい」

「じゃあそうしよう」

「私、過食嘔吐でめっちゃ食べるからお金かかっちゃう。あ、でも最近パパ活で稼いだから、私の分は私が払うよ」

「お金稼いだのか。偉いな」

「ありがとう。あと、優雅から貰った10万円の余り、あとで返すね」

「うん」


 俺たちはT駅モントレー5階にある、上州牛グルメが食べられる店に入った。


 ◆


 食事を済ませた後、俺は気分的にカラオケに行きたくなったので、みゆと一緒にT駅西口から徒歩数分の場所にある「カラオケまねきねこ」に入った。

 女性の店員さんだった。受け付けのタッチパネルで「酒を飲む・飲まない」という項目があるのだが、俺は「酒を飲む」を押し、更に飲み放題コースを選んだ。俺が飲むわけではない。みゆの目が「お酒を飲みたい」と言っていたのだ。

 だが、カラオケの酒ってアルコール度数弱いよな。経験上、アルコール度数強めで注文しても、薄すぎて飲んだ気にならん。

 3階の●●号室が割り当てられた。

 割と狭い部屋だったが、2人ならちょうどいい広さだった。

 とりあえずドリンクバーで俺はウーロン茶、みゆはコーラをコップに注いだ。そして部屋に戻り、椅子に座った。

 早速みゆがメニュー表を見て「私レモンサワーのでかいやつ5個注文する」と言ったので、俺はまねきねこアプリからレモンサワーのでかいやつを5個注文し、ついでにポテトを注文しておいた。


「そういえば好きな音楽の話、したことなかったね。優雅が何歌うか楽しみ」

「俺が好きなのは、多分みゆが知らないバンドだ」


 俺はデンモクでsyrup16gの「月になって」という曲を選んだ。それが画面に表示された。


「あ、優雅シロップ好きなんだ。私も好きだよ」

「17才でシロップ知ってるんだ。すごいね」

「17才だからって無知な子供だと思わないでね。私、音楽詳しいんだから」

「17才は、まだ産まれたての小鹿だ」

「バカにしないで。じゃあ29歳の優雅は一体なんなの?」

「ただの精神障害のキモイおっさんだ」

「じゃあ生まれたての小鹿の方が偉いし未来あるし可愛いね」

「そうだね」


 そんな会話をしていると、やがてイントロのギターが流れ始めた。

 俺は「月になって」という曲を歌った。


「歌うまいね」

「ありがとう」

「いつか、シロップのライブ一緒に行きたい」

「お、良いね。関東でライブがあったら、一緒に行こう。みゆが好きなアーティストのライブにも一緒に行こう」

「うん。約束だよ。じゃあ次は私が歌う番ね」


 と、次の瞬間に部屋がノックされて、俺はすぐ扉を開けた。レモンサワーのでかいやつが5個届いた。店員さんがかなり重そうにおぼんを持っている。

 ほぼ2人同時に「ありがとうございます」と店員さんに言った。

 店員さんが「ごゆっくり」的なことを言って出て行った。

 みゆは速攻でレモンサワーを飲んだ。


 ※未成年の飲酒は法律で禁止されている。


「うん。おいしい。でもアルコール薄い」


 みゆはデンモクを操作し、俺が名前だけ知ってる最近の女性アーティストの曲を歌った。みゆはとても歌が上手かった。俺とみゆが交互に歌ったが、中には俺の知らない曲もあり、ジェネレーションギャップを感じた。そりゃ12歳の差があれば当然だ。干支1周分の差がある。

 あと今更だが俺はロリコンではない。


 そのうち俺は、ナンバーガールというバンドの「SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE」という曲を歌った。


「この歌詞に出てくる女の人、なんか、私と優雅みたいだね。退廃的な感じが好き。歌詞が超いい」


 と言って、みゆがレモンサワーを飲みながら殺人的に笑ってこう言った。


「この曲みたいに、私のことさらって」

「良いよ。どこまでも拐ってやる」

「やったー」

「でもみゆ、大麻は駄目だぞ。覚醒剤も駄目だ」

「じゃあ酒は?」

「酒は……超ギリギリセーフだ」

「じゃあタバコは?」

「超ギリギリセーフだ」

「じゃあ優雅のアパートに帰ったら、私に1本ちょうだい」

「ああ」


 俺は無表情で答えた。














 ~終わり~








 




 

 

【あとがき】


 ※この小説は未成年の飲酒や喫煙を推奨するものではありません。


 最近エッセイばかりだったから小説を書いた。

 未成年を題材にした小説を書くことは今は少ないから、書くのが難しい小説だった。

 ちなみにこの小説の「SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE」というタイトルはナンバーガールというバンドの曲名から取った。

 最近、急激に寒くなって、さすがの俺も長袖・長ズボンになった。俺は上下ともに無地の真っ黒の服ばかり着る。スニーカーは真っ白だ。スニーカーだけ真っ白だと、不審者感が減る。

 寒くなったので、みなさんも体調変化には気を付けてください。













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SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE ~家出少女~【短編小説】 Unknown @ots16g

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