2:盲信の騎士

***

 

 資料室には特に収穫はなかったが、魔物からどう魔術を抽出するかというマニュアルがあった。それを懐に入れて戻ってくると、結構夜も深いこともあって大半が眠りに落ちていた。

 ローランが、眠っているエスの隣で、小さく座っていた。私たちが帰ってきたことに気づき、俯いていた顔を上げる。

 

「ごめん、私たちが戻ってくるの待ってた?」

「いや、そんなわけではないが……、あまり遅いと心配になるから控えてくれると嬉しい」

「ああ、えっと、ごめん……」

「謝る程のことではない。調べ物をしていたのだろう?」

 

 ローランは会話が途切れると大きなため息をついた。

 

「どうしたの、ローラン」

「いや、先のカイン殿の心象内の評議会と、あの魔物の発言をずっと考えていた。俺の信じていたものはなんだったのだろうと」

 

 ローランは既に眠りこけているカインを見つめながら、自分を膝枕にして就寝しているエスの髪を撫でる。その表情には憂いしかなかった。

 

「俺はずっと、評議会とドラストリアを誇りに思って生きていた。しかし、カインはそうは見ていなかった」

「あれはあくまでカインからの見え方だから……」

「俺は正直愕然としたのだ。しかし、同時にあの魔物がリヴァイアの民のことを蛮族と言い表した時、過去の俺にも、確かにそういう考えがあったことに気付かされたのだ」

 

 この問題については魔物との戦闘が終わった直後、ローランとエスのしていた話が、端的に言い表していると思った。

 

 『命を賭し何がなんでも勝たねばならぬ戦場』

 『そっちの戦闘をスポーツかおままごとだなぁって思う』

 

 お互い見ている戦場が異なれば、そういう意識が生まれるのは当然だ。一つ思うのは、同じ国の民であるのに、私たちは治安の悪い国境付近のいざこざを自分たちのものと考えず、リヴァイアに全てを委ねて過ぎてきた。そして、その戦争で生まれたツケまでも、リヴァイアに押し付けて仮初の平和を享受していたのだ、ということだ。

 

「私はそれが分かっただけでも、成長できたと思うよ」

「それは、……確かにそうだな。少なくとも今までの俺なら、考えもしなかったことだ」

 

 それはドラストリアで暮らしていたら気づかないことだよ、と私が言い聞かせるように言うと、少し納得はしてくれたのかうむ、と彼は頷いた。

 

『しかし、分からんな。お前のような盲信の騎士をドラストリアが易々と手放すとは思えん。お前、何をして死刑囚になったのだ』

 

 沈黙が訪れた時、不意にモニ太くんの液晶が光り、冷たくそう言った。

 それを受けて、ローランは片眉を動かした後、組んでいた指を組み直した。

 

『ドラストリアは殺人を合法化している。さすがに評議会への反抗は理由を取って付けて死刑になるようだが……』

 

 モニ太くんの電光の目は一度カインを捉えた。そしてすぐローランにそれを戻す。

 

『これまでの言動から、その線は薄そうだ』

「いや、反抗のようなものだ。罪状としてはノルマン殿と同じく、国家反逆に近いのだろう」

 

 止めるべきかと思い口を開こうしたが、先にローランが言葉を紡いだ。

 その言葉に反射的に「え?」と言う声が出ていた。あまりにも意外だったのだ。モニ太くんと目が合う。モニ太くんも同様に目を丸くしていた。

 

「ど、どういうこと? ローラン」

「王の逝去後、姿を消した王子はドラストリアに逃れた。評議会を有するドラストリアを頼るのは至極当然の話であろう」

 

 これから彼が言わんとすることは大方理解できた。しかし、その行為がローランと結びつかない。

 予測出来たが、予想できないことを、ローランは静かに告げた。

 

「俺は、王子を斬り殺したのだ」

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アトラの墓標:キリギリスの葬列 -囚人たちの罪に向き合う七日間- 飴の浅漬け @amenonuka

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