生と死(短編)

第1話


 昼間。

 ベッドの上で呆然と天井を見上げる。

 みんなは今頃、学校で授業を受けたり、バカ騒ぎしたりして楽しくやってるのかな……。


 中3の三学期という大事な時期に、俺は不登校になった。

 

 高校受験はすでに終わっているがもしかしたら卒業式には出ないかもしれない。

 なんなら、高校にすら通わないかもしれない。


 "疲れた"。ただそれだけだった。


 友達は自分でも言うがかなり恵まれていた。クラスでもかなり人気者だったという自負をもっている。


 けれど、俺は周りの『目』『気持ち』『態度』を気にしすぎた。それが、過剰に精神に負担をかけ、今の状況を作り上げたと俺は思っている。


 例えば、友人が少しでも『いつもと違う態度』を俺にとれば俺はその真意を極端に知ろうといろいろ考え込んでしまう。

 そして、それがどんどんネガティブな考えに行き着き、生まれるのが負の感情だ。



 だが、俺はそれを無意識に心の奥底にある箱に封印して、その負の感情を閉まっていたのかもしれない。

 しかし、その箱は限界を迎え、爆発した。箱からは大量の負の感情が溢れ出し、あっという間に俺の身も心も蝕んだ。


「死にたい」

「転落死って本当に痛くないのかな」

「首吊ってたら驚くかな」


 最近の口癖がそれだった。過去の負の感情を生んだ記憶を思い出すたびに俺は「あぁぁぁ…!」と頭を抑えて「死にたい死にたい死にたい」と連呼する。


 その様は『まるで死神に取り憑かれた人間』の"それ"だった。



 ふと、外から誰かの声が聞こえる。学校の友人たちの声だった。


『大丈夫か〜?』とか『生きてるか〜』といった声が聞こえるがその声音には確かに心配する気持ちも宿っていることはすぐにわかった。


 だが、俺はそれを無視する。友人の心配する声を無視するたび、『罪悪感』という"負の感情"が心に渦巻くが、俺は顔を出すことはできなかった。


 ただ、ひたすらに――、


「はやく帰ってくれ……」 


 この言葉だけが俺の心を埋め尽くすのだった。



 夜、お母さんが帰ってくる。俺の家庭は少々訳ありで、俺の家族は別々にすんでいた。


 この家では俺と母しか住んでいない。


 つまり、お母さんは"こんな俺"を女手一つで今育ててくれている。

 こんなどうしようもない俺にウマい飯を食わせるために遅くまで仕事して、帰ったら家事。


 正直、本気で自分の存在に嫌気がさし、本気で死のうと考えた。だが、いつかお母さんが俺に言った言葉を思い出す。


『子供の存在があるからお母さんは頑張れる』 


 もし今、俺がいなくなったらどうする?

 お母さんは負担が減ったと喜ぶか?


 いや、喜ばない。きっと、死ぬまで後悔するはずだ。


『自分のせいで……』って。



 だったら今のこのどうしようもない俺に何ができる? 

 学校に行くこと? ……違う!


 "子供の元気な姿を親に見せる事だ!"


 ――――。


 それからというもの、俺は1年間、心のケアにいそしんだ。精神科に行き、お薬を貰い、定期的に通院した。

 


『また元気な姿を見せてあげられるように』


そして――。


『いつか恩返しをするために』




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生と死(短編) @hika3

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