『俺達のグレートなキャンプ153 注意力上昇「~かもしれないキャンプ」をやろう』

海山純平

第153話 注意力上昇「~かもしれないキャンプ」をやろう

俺達のグレートなキャンプ153 注意力上昇「~かもしれないキャンプ」をやろう


秋晴れの空が広がる長野県の山間部のキャンプ場に、一台の車が到着した。エンジン音が止まり、静寂が訪れる。鳥のさえずりと風で木の葉が揺れる音だけが聞こえる。車のドアが開き、石川が飛び出してきた。彼は両手を大きく広げて深呼吸をした。肺いっぱいに山の空気を吸い込む。紅葉し始めた木々が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。地面には落ち葉が散らばり、踏むとカサカサと音を立てる。

「よっしゃあ!到着だ!最高の天気じゃねえか!」石川が興奮気味に叫んだ。彼の声は山にこだまして響き渡る。

千葉も車から降りてきて、荷物を抱えながら周囲を見回した。彼の表情は期待に満ちている。「本当にいい場所ですね、石川さん」

富山が最後に降りてきた。彼女は少し疲れた表情を浮かべながら、大きな荷物を肩に担いでいる。「で、今回の『グレートなキャンプ』って何なの?」彼女の声には既に警戒心が滲んでいる。石川の企画は毎回予測不可能だ。

石川はニヤリと笑った。その笑顔には自信が溢れている。「今回はな、『~かもしれないキャンプ』だ!」彼は人差し指を立てて、まるで重大発表をするかのように言った。

富山の表情が固まった。眉間に小さなシワが寄る。「はあ?」

「つまりだな」石川は興奮しながら説明を始めた。彼の手振りが大げさになる。「車の運転みたいに、常に『~かもしれない』って危機管理をするんだよ。『あの角から人が飛び出してくるかもしれない』『この車が急ブレーキかけるかもしれない』ってな。それをキャンプに応用する!注意力マックス、危機管理能力アップ!これぞグレートなキャンプだろ!?」

千葉が目を輝かせた。「面白そうじゃないですか!具体的にどうやるんですか?」

「全ての行動において『~かもしれない』を想定するんだ。テント張るとき、料理するとき、寝るとき、全部だ!」石川は拳を握りしめた。

富山は深いため息をついた。「また面倒なことを......」彼女の肩が下がる。

石川は荷物を勢いよく車のトランクから取り出し始めた。テントの袋、寝袋、クーラーボックス、調理器具。次々と地面に並べていく。千葉も手伝って荷物を運ぶ。二人の動きは慣れたもので、テキパキと作業が進む。富山も渋々ながら荷物を運び始めた。

テント設営の場所を探して、石川は敷地内を歩き回った。地面を確認しながら、あちこち見て回る。足元の落ち葉を蹴散らし、土の状態を確認する。彼の目つきが真剣になってきた。まるで戦場で敵を警戒する兵士のような鋭さだ。

「ここがいいな」石川は平らな場所を指差した。

千葉が頷いて、テントの袋を開け始めた。しかし石川は突然動きを止めた。彼の目が細くなり、周囲を見回す。その動きはまるで何かを察知したかのようだ。

「待て」石川の声が低くなった。完全に警戒モードだ。「ここにテントを張ったら、雨が降って地面が傾いて水が流れ込んでくるかもしれない」彼の目つきは鋭く、神経質そうに地面の傾斜を確認している。

富山が呆れた表情で言った。「天気予報、三日間晴れだって言ってたでしょ」

「天気予報が外れるかもしれない」石川は即座に返した。その口調は真剣そのものだ。「可能性はゼロじゃない。『かもしれない』は常に存在する」

「なるほど!じゃあどうするんですか?」千葉が興味津々で聞いた。

石川はテントの設営位置を微妙に変更した。そして荷物からスコップを取り出し、テントの周囲に溝を掘り始めた。土を掘り返す音が響く。彼の動きは素早く、まるで何かに追われているかのようだ。汗が額に浮かんできた。「排水路を作る。万が一の豪雨に備えるんだ」

「それは実際に理にかなってるかもね......」富山が少し感心したように呟いた。

排水路を掘り終えると、石川はテントを組み立て始めた。ポールを通し、生地を広げる。千葉も手伝って、テントの形が出来上がっていく。そしてペグを打つ段階になった。石川はペグを地面に当て、ハンマーを振り上げた。

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

通常の何倍もの力でペグを打ち込んでいる。石川の顔には汗が滲み、目つきは鋭い。まるでペグが抜けることを異常に恐れているかのようだ。

「ちょっと、そこまで強く打たなくても......」富山が心配そうに言った。

「夜中に強風が吹いてテントが飛ばされるかもしれない」石川は打ち続けた。ガンッ!ガンッ!「台風が急に発生するかもしれない。竜巻が来るかもしれない。隕石が落ちるかもしれない」

「隕石まで来た!?」富山が叫んだ。

「『かもしれない』だからな」石川は真顔で答えた。彼の目は冗談を言っているようには見えない。完全に本気だ。

千葉は笑いながらも、「確かに可能性はゼロじゃないですよね」と言った。

ペグを全て打ち終えると、石川はテントの張り具合を何度も確認した。ロープを引っ張り、緩みがないか細かくチェックする。彼の動きは職人のように丁寧で、同時に神経質だ。

テント設営が終わった頃、隣のサイトに車が到着した。ファミリーキャンパーだ。父親と母親、小学生くらいの男の子と女の子の四人家族。彼らは和気あいあいと荷物を降ろし始めた。子供たちの楽しそうな笑い声が響く。

石川は彼らを見て、挨拶をした。「こんにちは!」

「あ、こんにちは!いい天気ですね!」父親が爽やかに返してくれた。

石川はテントに戻り、荷物を整理し始めた。しかし突然手を止めて、隣のファミリーの方を見た。彼の目つきがまた鋭くなる。まるで何かを観察しているかのようだ。

「......待てよ」石川が小声で呟いた。

「どうしたの?」千葉が聞いた。

「隣の子供たちが遊んでいる」石川は顎で隣のサイトを指した。「ボールやフリスビーがこっちに飛んでくるかもしれない」彼の表情は完全に警戒モードだ。眉間にシワが寄り、目が細くなっている。

富山がため息をついた。「別にそれくらいいいでしょ」

「いや、ボールがテントに当たって破れるかもしれない。フリスビーが料理中の鍋に入るかもしれない。最悪、怪我をするかもしれない」石川の口調は真剣だ。

「そこまで......」富山が呆れた。

石川は荷物からバドミントンのネットを取り出した。「これを境界線に設置する。飛来物防護ネットだ」

「ちょっと待って、それやりすぎでしょ!?」富山が慌てた。

しかし石川と千葉は既にネットを立て始めていた。支柱を地面に刺し、ネットを張る。作業は迅速で、あっという間にサイトの境界線に防護ネットが完成した。高さは約二メートル。かなり本格的だ。

隣のファミリーの父親が不思議そうに見ている。「あの......何をされてるんですか?」

石川は爽やかに笑って説明した。「お子さんが遊んでて、ボールがこっちに来るかもしれないと思いまして。こちらも対策を取らせていただきました」

父親は困惑した表情を浮かべながらも、「あ、はあ......ご丁寧にありがとうございます......」と言った。

富山は顔を覆った。「恥ずかしい......」

次に石川は焚き火の準備を始めた。焚き火台を設置場所に運び、周囲の落ち葉を丁寧に取り除く。地面を綺麗にして、安全を確保する。そして防火シートを敷いた。

「よし、焚き火台の準備だ」石川が言った。

しかしすぐに彼の表情がまた変わった。目つきが鋭くなり、周囲を警戒するように見回す。「火の粉が飛ぶかもしれない」

「それは普通に考えることでしょ」富山が言った。

「普通じゃ足りない。徹底的に対策する」石川は荷物から大きな防火シートを追加で三枚取り出した。そして焚き火台の周囲に配置し始めた。まるで要塞を作っているかのようだ。防火シートで焚き火台を三方向から囲む。

「それじゃあ焚き火が見えないでしょ!」富山が指摘した。

「安全が最優先だ」石川は真顔で答えた。「火の粉が飛んで、テントに燃え移るかもしれない。服に燃え移るかもしれない。森林火災になるかもしれない」

千葉が納得したように頷いた。「確かに、火事は怖いですもんね」

さらに石川は風向計を取り出した。小さな風車のような道具だ。「煙が隣のサイトに流れるかもしれない。常に風向きをチェックする必要がある」

「そんなものまで持ってきたの......」富山が脱力した。

焚き火台の周囲の設営が終わると、石川は薪の準備を始めた。薪を一本一本手に取り、状態を確認する。彼の目つきは相変わらず鋭い。

「この薪、湿ってるかもしれない」石川が薪を振った。音を聞いて、水分を確認している。「火がつきにくいかもしれない。途中で消えるかもしれない」

「試しに火つけてみればいいじゃん」富山が提案した。

「その前に準備だ」石川は薪を日の当たる場所に並べ始めた。「念のため乾燥させる。完璧な状態にする」

薪を並べ終えると、石川は着火剤と炭、新聞紙、ライターマッチを全て取り出して確認した。「着火剤が湿気ってるかもしれない。ライターのガスが切れてるかもしれない。マッチが折れてるかもしれない」一つ一つ念入りにチェックする。

富山は諦めた表情で座り込んだ。「好きにして......」

石川が焚き火台に薪を組み始めた頃、陽が少し傾き始めていた。秋の日は短い。空が薄いオレンジ色に染まり始める。気温も少しずつ下がってきて、肌寒さを感じる。

「そろそろ火をつけるか」石川が言った。

しかし彼はライターを手に取ったまま、動かなかった。じっと焚き火台を見つめている。その目つきは異常なほど鋭く、まるで敵を警戒しているかのようだ。

「どうしたんですか?」千葉が聞いた。

「着火した瞬間、爆発するかもしれない」石川が小声で言った。彼の顔には緊張が走る。額に汗が浮かんでいる。

「爆発!?何が!?」富山が驚いた。

「薪の中に何か爆発物が隠されてるかもしれない。着火剤に異物が混入してるかもしれない。ガスが溜まってるかもしれない」石川の口調は真剣だ。

「考えすぎでしょ!!」富山が叫んだ。

石川は慎重に、ゆっくりとライターを着火剤に近づけた。彼の手が微かに震えている。カチッとライターが着火し、炎が着火剤に移った。

「......よし、爆発しなかった」石川が安堵のため息をついた。

「当たり前でしょ!」富山が頭を抱えた。

火がゆっくりと薪に移っていく。パチパチと木が弾ける音が聞こえる。オレンジ色の炎が揺れ、暖かさが周囲に広がってくる。煙が立ち上り、風に流されていく。

石川は風向計を確認した。「風向き、北西だ。隣のサイトには流れない。よし」彼は満足そうに頷いた。

焚き火が安定してきた頃、石川は食材を取り出し始めた。クーラーボックスから肉、野菜、米、カレールーを取り出す。今夜の夕食はカレーだ。

「よし、料理するぞ」石川が宣言した。

食材を地面に並べ、石川は一つ一つ確認し始めた。彼の目つきは相変わらず鋭い。肉のパックを手に取り、裏表をじっくりと見る。

「この肉、腐ってるかもしれない」石川が肉を鼻に近づけて嗅いだ。何度も何度も嗅ぐ。

「さっきスーパーで買ったばっかりでしょ!」富山が呆れた。

「スーパーの冷蔵設備が故障してるかもしれない。流通過程で温度管理がずさんだったかもしれない。賞味期限の表示が間違ってるかもしれない」石川は真剣に言った。

富山は何も言い返せなかった。

石川は念入りに肉の匂いを確認した後、「一応大丈夫そうだが、念のため中までしっかり火を通す」と言った。

次に野菜を確認した。人参、玉ねぎ、じゃがいも、ピーマン。一つ一つ手に取り、状態をチェックする。「この野菜、農薬が残ってるかもしれない。土に有害物質が含まれてるかもしれない」

石川は水を汲んできて、野菜を洗い始めた。普通に洗うのではない。一つの野菜に対して五分以上かけて、徹底的に洗う。ブラシでこすり、水で流し、また拭く。その作業を繰り返す。

「そこまでやる必要ある?」富山が聞いた。

「食中毒になるかもしれない」石川は手を止めずに答えた。「腹痛、嘔吐、下痢。最悪入院だ。『かもしれない』を防ぐんだ」

野菜を洗い終えると、次は包丁で切る作業だ。石川はまな板と包丁を取り出し、設置した。しかし包丁を手に取った瞬間、また動きが止まった。

「包丁で手を切るかもしれない」石川が呟いた。

「そりゃあ注意すれば......」富山が言いかけた。

石川は荷物から軍手を取り出して、両手にはめた。分厚い作業用の軍手だ。

「ちょっと待って、それ逆に危なくない!?」富山が慌てた。「滑るでしょ!」

「大丈夫だ。これで手を切ることはない」石川は自信満々に言った。

そして彼は野菜を切り始めた。軍手をはめた手で包丁を握り、慎重に、ゆっくりと野菜に刃を入れる。その動きは異常なほど遅い。まるでスローモーションのようだ。一つの玉ねぎを切るのに十分以上かかっている。

「石川さん、めっちゃ慎重ですね......」千葉が苦笑いしながら見守った。

「当然だ。怪我をするかもしれないからな」石川は顔に汗を浮かべながら、集中して野菜を切り続けた。

野菜を全て切り終えた頃には、すっかり日が暮れていた。空は濃い紺色に変わり、星が瞬き始めている。気温はさらに下がり、焚き火の暖かさがありがたく感じられる。

石川は鍋に水を入れ、火にかけた。そして肉と野菜を入れ、煮込み始める。鍋からグツグツと音が聞こえてくる。いい匂いが漂ってきた。

「よし、あとはカレールーを入れるだけだ」石川が言った。

しかし彼は鍋の前に正座した。そしてじっと鍋を見つめ始めた。その目つきは鋭く、まるで敵を監視しているかのようだ。微動だにしない。

「何してるの?」富山が聞いた。

「焦げるかもしれない」石川は鍋から目を離さずに答えた。「火加減を間違えるかもしれない。中身が吹きこぼれるかもしれない。鍋が傾いて倒れるかもしれない」

「だから見張るの!?」富山が驚いた。

「当然だ。監視が必要だ」石川の目は真剣そのものだ。

千葉も隣に正座した。「俺も手伝います」

二人は並んで鍋を見つめ続けた。時折お玉でかき混ぜながら、じっと見守る。その姿はシュールだった。まるで何か神聖な儀式をしているかのようだ。

隣のファミリーの母親が小声で夫に言った。「あの人たち、何やってるのかしら......」

「さあ......変わった人たちみたいだね......」父親が困惑した表情で答えた。

十五分ほど鍋を見つめ続けた後、石川はようやく動いた。カレールーを取り出し、鍋に入れる。そして再び監視を続けた。さらに十分。

「できた」石川がついに立ち上がった。

「やっと......」富山がぐったりしながら言った。

石川は器を取り出し、カレーを盛り始めた。しかしお玉を持ったまま、また動きが止まった。

「今度は何!?」富山が叫んだ。

「このカレー、辛すぎるかもしれない」石川が言った。「激辛スパイスが間違って入ってたかもしれない。ルーの配合が間違ってるかもしれない」

富山は深いため息をついた。「味見すればいいでしょ......」

石川は小さなスプーンでカレーをすくい、恐る恐る口に運んだ。舌先でちょっとだけ舐める。そしてしばらく味を確認してから、「......大丈夫だ。ちょうどいい」と言った。

「じゃあ食べましょう!」千葉が嬉しそうに言った。

石川はカレーを器に盛った。湯気が立ち上る。美味しそうな香りが広がる。三人分のカレーライスが完成した。

「いただきます」三人は手を合わせた。

しかし石川はスプーンを持ったまま、また動かなかった。カレーをじっと見つめている。

「......まだ何かあるの?」富山が疲れた声で聞いた。

「熱すぎて舌を火傷するかもしれない」石川が真剣に言った。

「もういい加減にして!!」富山がついにキレた。「お腹空いてるの!さっさと食べさせて!!」

「わ、わかった」石川は慌ててカレーをフーフーと冷まし始めた。

三人はようやくカレーを食べ始めた。スプーンでカレーをすくい、口に運ぶ。

「うまい!」石川が叫んだ。

「美味しいですね!」千葉も笑顔だ。

「まあ、確かに美味しいけど......」富山も少し機嫌が直った。

焚き火の光に照らされながら、三人は静かに食事を楽しんだ。カレーの温かさが体に染み渡る。秋の夜は冷える。焚き火の炎が揺れ、パチパチと音を立てている。

食事が半分ほど終わった頃、石川がポケットからインスタントコーヒーの袋を取り出した。「よし、食後のコーヒーだ」

お湯を沸かし、コーヒーをカップに注ぐ。湯気が立ち上り、コーヒーの香りが漂う。石川はカップを手に取り、一口飲もうとした。

その瞬間、石川の動きが止まった。彼の目つきが急激に鋭くなる。まるで何かを察知したかのように、周囲を警戒するように見回し始めた。顔には緊張が走る。

「どうしたの?」千葉が聞いた。

「猪が襲ってくるかもしれない」石川が小声で言った。その口調は完全に警戒モードだ。

「えっ」富山が固まった。

石川はゆっくりと立ち上がった。コーヒーカップを地面に置き、周囲を見回す。彼の動きは慎重で、まるでサバイバル番組の出演者のようだ。「この時間帯、猪が活動を始める。食べ物の匂いに引き寄せられて襲ってくるかもしれない」

「いや、でもこのキャンプ場、そんな話聞いてないけど......」富山が言った。

「『かもしれない』だ」石川の目は真剣だ。「可能性はゼロじゃない。猪は突進してくる。体当たりされたら大怪我だ。最悪死ぬ」

石川は荷物から懐中電灯を取り出した。そして森の方向に光を向けて照らし始めた。木々の間を慎重に確認する。「猪がいないか確認する。目が光るはずだ」

千葉も懐中電灯を持って、一緒に森を照らし始めた。「確かに、警戒は必要ですね」

二人は背中を合わせて立ち、三百六十度を警戒し始めた。まるで戦場にいるかのような緊張感だ。

「あのね......」富山が呆れた声で言った。「そこまでしなくても......」

「油断は禁物だ」石川は真剣に答えた。「猪はいつ来るかわからない。常に警戒が必要だ」

五分ほど警戒を続けた後、石川はようやく座り直した。「とりあえず今は大丈夫そうだ。でも油断はできない」

コーヒーを飲みながら、石川は周囲を警戒し続けた。一口飲んでは辺りを見回し、また一口飲んでは確認する。まるで敵地で休憩を取る兵士のようだ。

食事が終わり、片付けを始めた。食器を洗い、ゴミをまとめる。石川は相変わらず周囲を警戒している。

「よし、明日の朝食の準備もしとくか」石川が言った。

クーラーボックスから卵とベーコン、パンを取り出した。明日の朝食用だ。そして石川は食材を並べて、じっと見つめた。

「調理中、ミサイルが飛んでくるかもしれない」石川が突然言った。

「はあああ!?」富山が大声を出した。「何言ってるの!?」

「戦争が始まるかもしれない。北朝鮮がミサイルを発射するかもしれない。隕石が落ちてくるかもしれない。UFOが墜落するかもしれない」石川の目は本気だ。

「もう無茶苦茶でしょ!!」富山が頭を抱えた。

「『かもしれない』だからな」石川は真顔で答えた。「可能性はゼロじゃない」

石川は空を見上げた。満天の星空が広がっている。そして彼は懐中電灯で空を照らし始めた。「ミサイルや隕石が来ないか確認する」

「来るわけないでしょ!!」富山が叫んだ。

しかし石川は真剣に空を監視し続けた。時折方向を変えながら、全方位を確認する。その姿は完全にサバイバルモードだ。

十分ほど空を監視した後、石川は「とりあえず今は大丈夫だ」と言って、食材をクーラーボックスに戻した。

片付けが終わり、三人はテントに入る準備を始めた。歯を磨き、着替えをする。石川は寝袋を準備しながら、テントの中を懐中電灯で照らして隅々まで確認した。床面、天井、入口。まるで警察が現場検証をするかのように丁寧にチェックする。

「虫が入ってるかもしれない」石川が呟いた。「毒蜘蛛、ムカデ、蜂。刺されたら大変だ」

千葉も一緒に確認し始めた。「確かに、寝てる間に刺されたら嫌ですね」

富山はもう何も言わずに、自分の寝袋を広げた。「好きにして......」彼女の声には疲労が滲んでいる。

テントの中の確認が終わると、石川は寝袋に入った。しかしすぐに横にならなかった。座ったまま、じっと入口を見つめている。その目つきは相変わらず鋭い。

「寝ないの?」富山が聞いた。

「眠っている最中、熊が襲ってくるかもしれない」石川が真剣に言った。

富山は天を仰いだ。「またそれ......」

「この辺り、熊の生息地だ」石川は小声で説明した。「夜中に食べ物の匂いを嗅ぎつけて、テントを襲うかもしれない。テントごと引き裂かれる。爪で切り裂かれる。最悪食われる」

「怖いこと言わないで!」富山が震えた声で言った。

石川は懐中電灯を手に持ったまま、入口を警戒し続けた。「交代で見張りをする。千葉、二時間後に交代だ」

「了解です」千葉が真剣に答えた。

「ちょっと待って、本気で見張りするの!?」富山が驚いた。

「当然だ。『かもしれない』に備えるんだからな」石川の表情は揺るがない。「熊だけじゃない。不審者が侵入してくるかもしれない。野犬の群れが襲ってくるかもしれない。地震が起きるかもしれない。テントが倒壊するかもしれない」

富山は寝袋を頭まで被った。「もう知らない......」

石川は入口に向かって座り、じっと外を監視し始めた。懐中電灯を時々点けて、周囲を照らす。風で木の枝が揺れる音、遠くで鳥が鳴く音、全ての音に反応する。彼の耳はピンと立っているかのようだ。

三十分ほど経った頃、外から何か物音がした。ガサッという音だ。

石川が即座に反応した。「何か来た」彼は懐中電灯を握りしめ、入口のファスナーに手をかけた。

「え、本当に?」千葉も緊張した。

ガサッ、ガサッと音が続く。確かに何かがいる。

石川はゆっくりとファスナーを開けた。懐中電灯を外に向けて照らす。

光の先には小さな野良猫がいた。ゴミを漁っているようだ。

「......猫か」石川がホッとした表情を浮かべた。

「よかった......」千葉も安堵した。

「だから言ったでしょ、何も来ないって」富山が寝袋の中から言った。

「いや、でも『かもしれない』は証明された」石川は真剣に言った。「実際に何かが来た。警戒していたから冷静に対処できた」

猫は石川達を一瞥すると、のんびりと歩いて行った。

石川は再びファスナーを閉めて、監視体制に戻った。「油断はできない。次は本当に熊かもしれない」

それから二時間、石川は一睡もせずに監視を続けた。彼の目は疲れているはずなのに、鋭さを失わない。時折首を回してストレッチをしながら、警戒を続ける。

午前二時、石川は千葉を起こした。「交代だ」

「はい」千葉が眠そうな目をこすりながら起き上がった。

「頼んだぞ。何か異常があったらすぐに起こせ」石川は真剣に言った。

「了解です」千葉は入口の前に座った。

石川はようやく横になった。しかし彼の体は緊張したままだ。すぐには眠れない様子で、目を閉じてもピクピクと動いている。

それから二時間後、今度は千葉が富山を起こそうとした。

「富山さん、交代......」

「絶対嫌」富山は即答した。「私は普通に寝る」

「で、でも石川さんが......」

「知らない。勝手にやって」富山は寝袋にくるまった。

結局、千葉がそのまま朝まで見張りを続けることになった。

朝日が昇り始めた頃、辺りが明るくなってきた。鳥たちがさえずり始め、新しい一日が始まる。空は薄いピンク色からオレンジ色に変わり、太陽が顔を出す。

石川が目を覚ました。「朝か」彼は体を起こし、大きく伸びをした。

「おはようございます」千葉が疲れた顔で挨拶した。目の下にクマができている。

「千葉、一晩中起きてたのか?」石川が心配そうに聞いた。

「富山さんが交代してくれなくて......」千葉が苦笑いした。

「そうか......すまない」石川が申し訳なさそうに言った。

富山がムクリと起き上がった。「おはよう......」彼女の髪はボサボサだ。

「富山、見張り交代しなかったのか?」石川が聞いた。

「当たり前でしょ。熊なんて来るわけないんだから」富山がむっとして言った。

「いや、でも『かもしれない』は......」

「もういい!」富山が遮った。「とにかく朝ごはん食べましょう」

三人はテントから出た。朝の空気は冷たく、澄んでいる。深呼吸をすると肺が清々しい。朝露がテントや地面に降りていて、キラキラと光っている。

石川は焚き火台に新しい薪を組み、火をつけた。朝食の準備だ。フライパンを取り出し、ベーコンと卵を焼き始める。ジュウジュウという音が響き、美味しそうな匂いが広がる。

しかし石川の目つきは相変わらず鋭い。フライパンを見つめながら、「油が跳ねて火傷するかもしれない」と呟いた。

彼は顔から距離を取り、腕を伸ばしてフライパンを操作している。その姿勢は不自然で、明らかにやりにくそうだ。

「もう普通に料理してよ......」富山が疲れた声で言った。

朝食が出来上がった。ベーコンエッグとトースト、そしてコーヒー。シンプルだが美味しそうだ。湯気が立ち上っている。

三人は焚き火の周りに座って、朝食を食べ始めた。温かい食事が体に染み渡る。朝のキャンプ場は静かで、時折他のキャンパーの話し声や車の音が聞こえてくる。

「やっぱりキャンプの朝食は最高だな」石川が満足そうに言った。

「そうですね」千葉が笑顔で答えた。疲れているが、楽しそうだ。

「で、今日はいつ帰るの?」富山が聞いた。

「昼くらいかな。それまでのんびりしよう」石川が答えた。

朝食を食べ終えると、石川は片付けを始めた。食器を洗い、ゴミをまとめる。その作業も相変わらず慎重だ。

「食器、ちゃんと洗わないと菌が繁殖するかもしれない」石川は何度も何度も食器を洗った。

「洗剤、残ってると体に悪いかもしれない」何度も何度もすすいだ。

富山はもう何も言わなかった。慣れてしまったようだ。

片付けが終わり、撤収の時間が近づいてきた。テントを畳み、荷物をまとめる。石川は相変わらず全ての作業を慎重に行った。

「テント、汚れが残ってるとカビが生えるかもしれない」丁寧に拭き取った。

「ペグ、一本でも忘れたら次回使えないかもしれない」何度も数を確認した。

「忘れ物をするかもしれない」チェックリストを取り出して、一つ一つ確認していった。

その甲斐あってか、実際に富山が充電器を忘れそうになっているのを発見した。

「あ......」富山が驚いた。

「ほら、『かもしれない』だろ?」石川が得意げに言った。

「......まあ、助かったわ。ありがとう」富山は素直に礼を言った。

全ての荷物を車に積み込み、撤収完了だ。キャンプ場を見回して、ゴミが落ちていないか最終確認をする。地面も元通りに整える。

隣のファミリーが挨拶してきた。「お疲れ様でした。楽しいキャンプでしたか?」

「はい、とても充実してました」石川が笑顔で答えた。

「......変わった方々ですね」父親が苦笑いしながら言った。

「そうですか?」石川が首を傾げた。

「いえ、とても慎重で素晴らしいと思いますよ」母親がフォローした。

車に乗り込み、エンジンをかけた。石川が運転席に座り、シートベルトを締める。

「よし、出発だ」石川が言った。

しかし彼はすぐに発進しなかった。じっとミラーを確認し、周囲を何度も見回す。

「どうしたの?」富山が聞いた。

「バックする時、後ろから子供が飛び出してくるかもしれない。車が故障してるかもしれない。タイヤがパンクしてるかもしれない」石川が言った。

「もういいから早く出して!」富山が叫んだ。

石川は慎重に、ゆっくりと車をバックさせた。何度もミラーを確認しながら、超低速で動く。

キャンプ場を出て、山道を下り始めた。石川の運転は相変わらず慎重だ。制限速度をしっかり守り、カーブの手前では十分に減速する。

「あ、そういえば石川」富山が言った。

「何だ?」

「さっきから制限速度ちゃんと守ってるわね。昨日はオーバーしてたのに」

「ああ」石川が頷いた。「『スピード違反で捕まるかもしれない』って思ったからな。『かもしれないキャンプ』の成果だ」

「それよ!それが普通なのよ!」富山が叫んだ。「最初からそうしてれば良かったのに!」

「いや、でも『かもしれないキャンプ』をやったから気づけたんだ」石川が真剣に言った。「常に危機管理を意識する。これは大事なことだ」

千葉が後部座席から言った。「確かに、注意深くなりましたね。僕も勉強になりました」

「だろ?」石川が嬉しそうに言った。「『かもしれない』を考えることで、事故や怪我を防げる。今回のキャンプ、大成功だったな」

富山は深いため息をついた。「まあ......確かに怪我もなく無事に終わったし、良かったのかもね」

車は山道を下り、平地に出た。青空が広がり、田園風景が見えてくる。秋の収穫期で、稲穂が黄金色に輝いている。

「さて、次のキャンプは何をしようか」石川が楽しそうに言った。

「え、もう次の話?」富山が驚いた。

「当然だろ。俺達は常にグレートなキャンプを追求してるんだからな」石川が笑った。「次は『もしもキャンプ』だ」

「『もしもキャンプ』?」千葉が興味を示した。

「そう。『もしもゾンビが襲ってきたら』『もしも無人島に流されたら』『もしも戦争が始まったら』。色んな『もしも』を想定してサバイバルするんだ」石川の目が輝いている。

「......もう勘弁して」富山が頭を抱えた。

「面白そうじゃないですか!俺、やりたいです!」千葉が目を輝かせた。

「だろ!千葉は分かってくれるよな!」石川が嬉しそうに言った。

「はあ......」富山が深いため息をついた。しかし彼女の口元には、小さな笑みが浮かんでいた。

車は秋の風景の中を走り続けた。石川は慎重に運転を続けている。

「あ、そういえば」石川が突然言った。

「今度は何?」富山が警戒した。

「ガソリンが切れるかもしれない」石川が真顔で言った。

「メーター見てよ!まだ半分以上あるでしょ!」富山が叫んだ。

「でも念のため、次のガソリンスタンドで入れとくか」石川が言った。

「それは......まあ、いいけど」富山が諦めた。

「メーターが故障してるかもしれないからな」石川が付け加えた。

「故障してないわよ!!」富山が叫んだ。

千葉が笑いながら言った。「でも確かに、余裕を持ってガソリン入れるのは良いことですよね」

「だろ?『かもしれない』は大事なんだ」石川が満足そうに頷いた。

車は次のガソリンスタンドに寄り、給油をした。石川は店員に「タイヤの空気圧もチェックしてもらえますか?パンクしてるかもしれないので」と頼んだ。

店員は困惑した表情を浮かべながらも、「は、はい......」と答えてチェックしてくれた。結果は異常なし。

「よかった。異常なかった」石川が安堵した。

「当たり前でしょ......」富山が呟いた。

給油を終えて、再び出発した。高速道路に入り、家路についた。快適な運転だ。窓を少し開けると、爽やかな風が入ってくる。

「今回のキャンプ、本当に勉強になったな」石川がしみじみと言った。「常に『かもしれない』を考える。これは人生にも応用できる」

「そうですね」千葉が同意した。「危機管理能力、上がった気がします」

富山も少し認めるように言った。「まあ......確かにね。注意深くなるのは悪いことじゃないわ」

「だろ?」石川が嬉しそうに笑った。「ただ、やりすぎは禁物だけどな」

「今さら何言ってるの!?」富山が突っ込んだ。「あんたが一番やりすぎてたでしょ!」

「いやいや、あれくらいが丁度いいんだ」石川が笑った。「『かもしれない』に備えることで、安全が確保される」

「隕石とかミサイルは明らかにやりすぎよ!」富山が言った。

「でも可能性はゼロじゃない」石川が真顔で答えた。

「もういいわ......」富山が諦めた。

車は高速道路を快調に走り続けた。石川は相変わらず慎重な運転を続けている。制限速度を守り、車間距離を十分に取る。

「あ、前の車が急ブレーキかけるかもしれない」石川が距離を広げた。

「それは普通に考えることでしょ」富山が言った。

「隣の車が車線変更してくるかもしれない」石川が注意深く確認した。

「それも普通よ」

「前方で事故が起きてるかもしれない」石川が速度を落とした。

「起きてないでしょ、普通に流れてるし」

しかし実際、数キロ先で軽い追突事故が起きており、渋滞が始まっていた。

「ほら、やっぱり事故だ」石川が言った。「『かもしれない』で備えてたから、余裕を持って減速できた」

「......まあ、そうね」富山も認めざるを得なかった。

渋滞を抜け、順調に家へと向かった。夕方、ようやく自宅周辺に到着した。太陽が西に傾き、空がオレンジ色に染まっている。

石川は慎重に駐車場に車を入れた。何度もミラーを確認しながら、ゆっくりと停める。

「着いた」石川がエンジンを切った。

三人は車から降りて、荷物を降ろし始めた。テント、寝袋、調理器具、クーラーボックス。次々と地面に並べていく。

「お疲れ様でした」千葉が言った。

「お疲れ」富山も言った。

「また次回もよろしくな」石川が笑顔で言った。

「次は普通のキャンプにしてよ......」富山が懇願した。

「無理だな」石川が即答した。「俺達は常にグレートなキャンプを目指してるんだからな」

富山は諦めた表情で、「はいはい」と言った。

千葉が笑いながら言った。「でも今回、本当に楽しかったです。次の『もしもキャンプ』も楽しみです」

「だろ?千葉は分かってる」石川が満足げに頷いた。

三人は荷物を片付け、解散した。それぞれ自宅へと向かう。

石川は歩きながら考えた。「今回の『かもしれないキャンプ』、大成功だったな。注意力が上がった。危機管理能力も向上した。これは日常生活でも役立つ」

そして彼は周囲を見回した。「帰り道、通り魔に襲われるかもしれない」警戒しながら歩く。

「自宅に泥棒が入ってるかもしれない」玄関を慎重に開ける。

「ガス漏れしてるかもしれない」家中を確認する。

石川の「かもしれない精神」は、キャンプだけでなく日常生活にも完全に浸透していた。

そして彼は思った。「次の『もしもキャンプ』、どんなシチュエーションにしようか。ゾンビ、無人島、戦争......どれも面白そうだ」

石川の頭の中には、既に次なるグレートなキャンプの構想が出来上がっていた。

翌日、石川は富山と千葉にメッセージを送った。

「次回のキャンプ、三週間後な。『もしもゾンビが襲ってきたらキャンプ』をやる。武器になりそうなもの持ってこい」

富山からの返信は一言だった。「絶対嫌」

千葉からの返信は「楽しみです!!!」だった。

石川は笑いながら、次のキャンプの準備を始めた。

こうして、第153回「俺達のグレートなキャンプ」は幕を閉じた。

そして石川達の奇抜なキャンプは、これからも続いていくのだった。

次回、「もしもゾンビが襲ってきたらキャンプ」に続く――かもしれない。

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『俺達のグレートなキャンプ153 注意力上昇「~かもしれないキャンプ」をやろう』 海山純平 @umiyama117

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