魔族との戦い

 辺りは砂煙で視界が悪い。しかしその中に薄らと見える鋭い真紅の2つの瞳。そしてその少し上から生える角。それをみた時爺ちゃんの言葉が脳裏をよぎった。

(『いいか。メーチ、魔族は人を襲い、喰らう。喰らうことで力を付ける』)

(あの長く少し曲がった角もしかしてあれが魔族か?昔爺ちゃんから聞いた事がある『この世界にはな人ならざるものが居る。魔族もその一角だ。』)

 そんな事を思ってるうちに他の人も魔族の存在に気付いたのか村人の沈黙が一瞬にして悲鳴へと変わり村の人は『魔族だ魔族が現れた』『なんでこんなところに魔族が・・・・・・』と嘆いている。

 アイラに目を向けると足を押さえて動こうとしない。

そんなアイラを見た魔族が笑い天に手を翳した瞬間黒い光が現れて手には剣が握られていた。

魔族はアイラに向けて剣振り下ろそうとしている。恐怖で身体が動かない。(足が震える・・・・・・声も出ない。 あの角、あの牙、目——全てが俺に「逃げろ」と言っている)

(ここで逃げたら・・・・・・俺は一生、自分を許せない)

「俺は逃げない・・・・・・!アイラは俺が・・・・・・守ってみせる!」


 それを見た俺は祭壇に置かれていた2本ある内の1本を握り締め、魔族に向けて走り出した。


 魔族の剣を受け流して、逆に切り付ける。 

 魔族は後ろに下がり、俺を睨みつける。

「お前は・・・・・・誰だ!」

 俺は恐怖を押し殺しながら叫ぶ。

 魔族は意外な事に名前を名乗ったのだ。

「俺様はギザ。魔界じゃ暴虐のギザなんて呼ばれてる。テメェこそ誰なんだ」

「俺はレ・メーチだ。ギザお前はここに何をしにきた」

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべ、ギザは答えた。

「人間の絶望した顔と悲鳴を聞く為にきた」 

 それと同時に切り掛かって来た。

 その答えを聞いた瞬間俺は強い怒りを覚えた。身体中の血液が沸騰する様な怒りが込み上げる。同時に頭の中に奇妙なイメージが湧き上がる。

(あれ・・・・・・どこかで見たことがある・・・・・・ゲーム?)

(いや、違う。これは・・・・・・多分前世の記憶だ・・・・・・)


 袈裟斬り――右肩が動いた瞬間、俺は剣を構え直した。

 金属がぶつかる音が耳を刺す。砂煙が視界を裂く。

 剣が交わるたび火花が散り、視界の中で、心臓が耳を突き破るように打つ――逃げられない、止まれない、ただ斬るしかない。


 俺たちの周りには金属同士がぶつかる甲高い音しか存在しない。

 一撃、また一撃。攻撃を受けるたび腕が痺れ、手の力が抜ける。でも離さない——離したら、アイラが死ぬ

 その想いが俺を支える。

「ここで倒れる訳には・・・・・・」

 呼吸が荒い。

 視界が赤く染まる。

 膝をつき剣で体を支えて息を整え、額から流れる血を拭い、もう一度ギザを睨む。

 恐怖か疲れなのか分からないが手の震えが止まらないし心臓の音もうるさい。

「メーチと言ったな。良く今の攻撃を防いだな」

「ギリギリだったけど、お前が俺の首を狙って来るのは読めていた。後はお前の剣が通る道に剣を構えておいただけだ」

 俺は怒りに身を任せて剣を魔族に降り懸かる。長年積み重ねた動きをひたすら相手にぶつける。上から振り下ろす剣をかすめ、横からの攻撃はぎりぎりで受け止めた。

身体がいつもより軽く、相手の動きがゆっくりに感じる。

 俺は上から右から夢中で剣を振り続ける。


「・・・・・・君、レー・・・・・・君、レー君!」

 幼馴染の声によって我に帰った。冷静になり今まで自分が何をしていたのか考えてる。

 魔族が現れそいつがアイラを殺そうとしてその後魔族に対して強い殺意を持った所までは覚えてる……けどその後の事がよく覚えていない。

「レー君。そいつ倒したの?」

 アイラが指を指す方向に目を向けるとそこには魔族の死体があった。

「そうだ。俺がコイツを・・・・・・殺した」

 松明の残り火が夜の冷たい夜風で消える。

 胸の奥から焦燥感が込み上げて来る。

 魔族とはいえ命を奪った——その事が重くのしかかる。

 そいつが幼馴染を殺そうとした奴であっても罪悪感は消えなかった。

「・・・・・・アイラ、俺・・・・・・この村を出ようと思う。魔族とはいえ命を奪ってしまった。そんな人間がこんな所で普通の生活なんて送れない。夜が明けたら出るよ。」

 割り込んだ瞬間意識が一気に俺に向いた気がした・・・・・・

(なんで・・・・・・俺はアイラにこんなこと言っちまったんだ・・・・・・)

でも、伝えずにはいられなかった。アイラには知っていてほしかったんだ。

 アイラは何も言わなかった。アイラは俯いたまま、拳を握りしめていた。

 その沈黙からは怒り、他人から拒絶される事への恐怖の匂いを感じた。それが俺の物なのか、前世がそう感じさせているのか、彼女からなのか分からなかった。

夜が明けの光がさす村の入り口に向かう。

 そこにはアイラの姿があった。

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転生しても社会不適合者でした。〜魔法万能世界で剣と共に生きる〜 @yuu6030

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