ドレス選びは見返すための一歩?

エリールはふかふかのソファに座ると、忙しそうにメモとにらめっこしているマルタを眺めた。


「オペラ観劇の相手、私でよかったのかしらね?」


エリールがぽつりと呟くと、マルタは首を傾げた。


「なぜ気にするのです?いいに決まっています」

「オペラに行くペアって、普通は婚約者同士とか恋人でしょ?ボスはその辺り、わかって私を選んだのかしら?」


開演時間の遅いオペラ観劇は、貴族社会では“特別な関係”の証とされる。もちろん、家族や同性同士で行くこともある。だけど、キャプスは家族ではない。


「わかって提案なさっているに違いないじゃないですか。ボスに直々に指名されたのは名誉なことですから、楽しんじゃいましょうよ」

「意外とお気楽ね?ボスのパートナーとして出席するのよ?マルタは組織と私が関わってほしくなかったくせに」

「ボスは、表世界では実業家としても知られています。ボスであるのは間違いありませんが、気にする必要はありません。それに、組織でトップの方ならまた話は違いますしね」

「へえ?」


フェスタへの評価とは違って、キャプスはマルタの中では相当、評価が高いらしい。


「もう現金ね……ところで、ドレスはどんな感じで考えているの?」


マルタは目を輝かせて立ち上がった。


「詳細はドレス専門店に行ってからです!明日、さっそく行きましょう」


マルタがあまりに張り切っているので、ドレスを選ぶが楽しみになってきた。


(こうなったら、楽しんじゃいましょうか)


先日、友人の令嬢に“フェスタとは別れたの?”と聞かれた。だから、そうだと答えたが、気の毒そうな顔をされた。


(私が振られたと思っているのね。本当は私が振ったのに……)


フェスタが張り切って浮気したわけではないから、ただ別れた、とだけ周りに伝えていた。


でも、最近、フェスタとラビィが仲良く一緒にいるせいで、エリールが浮気されたのだと思われていた。


(もう癪だわ!こうなったら、キャプスも惚れ惚れするくらいのドレスを着てやる!)


――翌日の放課後、エリールたちはドレス専門店を訪れた。


店に入ると、オーナーのマダムが直々に出迎えてくれる。どうやら、組織の息がかかっている店らしく、マルタにも親しげに話しかけていた。


「あなたは背も高くてスラリとしているから、スレンダーラインやマーメイドラインがおすすめだわ」


マダムが差し出したワインレッドのスレンダードレスは、美しいシルエットだった。だが、胸元が大きくV字に開いていて、かなりセクシー──でも、大人っぽく見える。


「胸元が気になるなら、アクセサリーで視線を首元に集めるようにすればいいわ。ショールを羽織っても素敵よ」

「なるほど……ステキね」


いざ試着してみると、やはり胸元が気になった。でも、鏡に映る自分にまんざらでもない気持ちになる。


(自分で言うのもなんだけど、私、キレイじゃない)


「アクセサリーも、キャプス様からドレスに合わせて選ぶようにと言われております」

「アクセサリーも?……ずいぶんなお値段よ?」


マダムがにっこりと微笑んで囁いた。


「値段は気にするな、とのことでしたよ」


運ばれてきたショーケースの中には、まばゆいほどの輝きを放つアクセサリーがズラリと並んでいた。 繊細な細工が施されたネックレス、宝石が惜しげもなく使われたイヤリング、光を受けて虹色にきらめくブレスレット──どれも素敵で目が釘付けになる。


「まあ、キレイ……!」

「キャプス様がエスコートなさるお嬢様なら、これくらいのグレードがちょうどいいですわ」


マダムもキャプスをえらく尊敬しているような口ぶりだった。


結局、靴やショール、小物など一式整えてマルタが支払いを済ませていたが、後から聞いたら、目が飛び出るような金額だった。


(今度、ちゃんとお礼を言わなきゃ……)


買い物のあと、街のカフェでケーキとお茶で一休みした。


「週末、あんなスレンダーなドレス着るんだから、ダイエットしなきゃね」

「そう言いながらケーキを食べるお嬢様は面白いですね」

「だって、マルタがケーキ食べるなら、私だけガマンなんて無理だもの」

「いえいえ、お嬢様がケーキを私に薦めたのですよ?まあ、今日くらいは大丈夫です。明日からはヘルシーなおやつを用意しますね」

「ありがとう~」


エリールが笑顔でお茶を飲むと、マルタはスッと背筋を伸ばした。


「週末は、お嬢様の輝きで周囲を驚かせましょう!」


マルタは拳を握ると、そのまま勢いよく空へ突き上げた。瞳は真剣で、まるで戦場に立つ騎士のような覚悟がにじんでいた。


(……本気すぎるわ、マルタ)


エリールはマルタの気合に圧倒されて言葉を失う。


「世間に見せつけるって……大げさね」

「キャプス様とオペラ観劇ですよ?絶対話題になります!フェスタ様とラビィなんかに負けずお嬢様も目立ちませんと!」


(ああ、そういう意味でも張り切っていたのね)


マルタの思いやりが温かく感じられたエリールだった。

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