傍観者でいたら、悪者にされた
泡沫 知希(うたかた ともき)
誰の味方にもなれなかっただけ
悪者になりたかったわけじゃない。ただ、誰の味方にもなれなかっただけなんだ。
「最低だね」
「何考えていたの?」
「本当に近づかないで欲しい」
「どちらの味方にもならない」
「弄んだ最低な野郎」
「薄情で冷たい人」
冷たい言葉を投げられる。これで何人目になるのだろうか?
関係ない人からも、私の非を責めてきたのだが、めんどくさくなって、睨みつけた。これ以上こちらに踏み入れさせない。
関係ないくせに、何も知らないくせに。ひそひそとこちらに視線を向ける輩もうざかったから、牽制になればいいと思って、下を向くのを辞めた。
タイミング的にも文句を言われて睨んだのは、最善だったと思いながら、廊下を歩く。不機嫌を纏い、人を近づかせないようにしたおかげで、私が近づくと去ってくれる。 女王にでもなった気分だ。いや、そんな良いものではないかもしれないけど、いつもより歩きやすい。
目的の教室に入ろうと、扉を開ける。その瞬間、ざわめきは無くなり、静寂が訪れた。私を見て黙るのだが、扉の閉める音、私の足音だけしか聞こえない。すぐにもとの雰囲気に戻そうという気持ちが駄々洩れであったが、何も発することができずに、気まずさが空間を満たしていく。
私に視線を向ける中で、雰囲気の違ったものを感じた。そちらに視線を向けると、心配をにじませつつ、苦悩している顔をしたグループがあった。私と目が合い、何かを言いたげだったが、私は睨む。これ以上被害者を増やしてはいけないし、彼女たちを傷つけたくはない。こちらと関わるだけで、怪訝な視線を感じてほしくなかった。いや、私と接点があった時点で、もうだめか。それでも、これ以上はだめだ。私を知っている人がいるだけでも救われる。救われるんだよきっと。
拳を強く握りつつ、視線で伝えた。これ以上近づかないでと。もしかしたら、傷ついたかもしれないが、それでもいい。だって、ここで声を掛けるのは無謀である。
無茶である。
私は自分の席に座るために椅子を引く。私が動くたびに、ビクビクするのを見てしまい、失笑してしまう。ビビりすぎだよなぁ。化け物でもないし、人間だよ。
あぁ、君たちのアイドルと称されている人間の味方にならなかった、助けてくれなかったという悪人だもの。そりゃあ、頭おかしい人間と思われるよな。
その上、知名度のある人間の味方をしなかった上に、親友を庇うわけでもなかったから。せめて、親友の味方になったとなれば、同情的な視線も増えたかもしれないが、私からしたら、どっちの味方とかは無かった。
当事者同士で解決するべきことに、親友と言えど第三者が介入していいことじゃないだろ?恋愛なんて、当事者間でやってくれよ。
なぁ、君たちも何も全部を知らないくせに好き勝手言いやがって。言葉に責任を持てるのか?回ってきた噂を信じて、あの子たちからの一方的な言い分で人を責めるのは間違っていると思わないのか?
無知だし、馬鹿だから?
…そっか。そんな可能性すら思い浮かばない可哀そうな人たちなんだ。可哀そうな人たちだから、こんなに気にしちゃだめだよね。無知なんだから、悪いことすらも理解できていないから、教えてあげなきゃいけないよね。それに気づかせる必要があるんだね。
でも、こんな人たちのために時間を使うのは無駄か。私の時間がもったいない。なら、もう耳を塞ごう。弁明なんてしない。説明なんてしない。聞かれても何も答えない。相談なんて聞かない。
私だって君たちの相談くらいは聞けたよ。大切だし、困っていたのだから、聞くのくらいは苦痛じゃなかった。苦痛よりも得られるものが大きかったから。
親友だったから、新たな一面を知れる特権があった。
学校のアイドルとは言えど、人間らしい悩みを打ち明けた姿を見れる特権があった。
でもね、どちらの味方とかは考えていなかったし、そんなことになるとも思っていなかった。恋愛なんて入り込むことがこじれる原因になることは理解していたから、何もしなかったし、私は傍観者を選んだだけだったのに。
周りのせいでこんなにも修羅場になって、私にも火種が落ちた。あぁ、思い出すだけで全身に熱が巡る。
味方とかは無いんだよ。だって、傍観者なのだから。
悪者になる気なんて有るわけないでしょ?
悪者として、レッテルを貼られた私が何を言ったって無駄だろう。
チャイムが聞こえてきた。先生が扉から入ってきて、クラスメイトが慌ただしく席に座る光景。
それは何も変わらないのに、全てが違った世界に見えるのであった。
傍観者でいたら、悪者にされた 泡沫 知希(うたかた ともき) @towa1012
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