あなたに贈る音の束
第25話信じたくない
夏が終わって少し経った頃、大切な人のSNSの更新が途絶えた。
『ネギマ先生 死亡』
嘘だと思いたかった。そんな不謹慎なワードが急上昇に上がっているなんて、信じたくなかった。でも、調べれば調べるほど、ネギマ先生の死は確実なものになっていく。
今を輝く時の人が、突然音信不通になった、という情報を、メディアが見逃すはずもない。テレビでも、ネットニュースでも、先生の死について囁かれ出していく。
「嘘だ……」
そう思いたいのに、毎日のように更新されていた先生のSNSはパタリと止まり、何度更新をかけても、同じ画面だけが表示される。
ほぼ100%先生は亡くなっている。でも、顔も、声も全く明かしていない匿名アーティストであるばかりに、どのメディアも確実な死の証拠は掴めずじまいだった。中途半端な希望を残されているせいで、絶望をするにしきれない。
「大丈夫、きっと生きてるさ」
それ以上は考えたくなくて、スマホを閉じてベッドに横たわった。
翌日、学校に登校すると、クラスメイトが噂をしていた。内容は、ネギマ先生についてだった。
「ねぇ、ネギマさん、本当に死んじゃったのかな」
やめてくれ。
「病気らしかったもんね。長くないとも言ってたし」
そんなのわからないだろ。
「終の葬送、聞いた?あれが、本当に最後なのかな」
そんなわけない。きっとまた投稿してくれる。
「この間ニュースで言ってた女性の遺体ってまさか……」
それ以上のクラスメイトの言葉を聞きたくなくて、俺は教室から逃げ出した。
「あれ、潮さん、どうしたの?」
走ってたどり着いた先は保健室。養護教諭の先生が驚いた顔でこちらを見る。
「少し、体調が悪くて、1限だけ休ませてもらえませんか?」
「あら、そう……珍しいわね、あなたが授業を休むなんて滅多にないから」
そう言いつつも、先生はベッドの用意をしてくれる。ゆっくりと腰を下ろし、横になると、先生は担任に内線で連絡をしてくれた。
「あ、もしもし。養護教諭の長野です。3年2組の担任の長倉先生でお間違い無いですか?はい、そちらのクラスの
その言葉を最後に、俺は短い眠りについた。
次に目を覚ましたのは、それから約1時間後のことだった。
「体調はどう?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
ベッドから起き上がり、教室へと向かう。ここ数週間、ネギマ先生についての話題が絶えないのかと思うと、頭がいたい。
「あ、海月!大丈夫か?体調不良って聞いたから心配したぞ!」
「海月くん部活も頑張ってるもんね、無理しないでね!」
「……ありがとう!」
なるべく爽やかさを損なわないように受け答えをする。嫌われないように。
「潮くん、1限でとったノート、あとで見せてあげるね」
「え!まじ?助かる〜!」
うちの高校は、進学校というほどご立派な学校ではないから、そこまで進度について心配ではないが、ノートがあるに越したことはない。相手の厚意は素直に受け取って、甘えることにする。
それから一日は淡々と過ぎていった。みんな受験生ということもあって、若干空気がピリつくが、さすがにその環境で半年も過ごせば、そんな少し重い空気にも慣れるというもの。
そして、俺も例に漏れず、少しだけピリついていた。
「父さん、母さん、少しだけ話があるんだ」
覚悟を決めて、両親に話を持ちかける。夕食が終わって、リビングにいた2人は、こちらを振り返る。
「どうしたの?そんなに改まって」
「彼女でもできたか〜?」
不思議そうな表情をする母と、少し冗談めかしておちょくる父。いつも通りの2人の態度に、少しだけ肩の力が抜ける。
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