第18話 暁の手紙



 焔、雅。

 元気にしていますか。

 こちらはもう秋が深く、

 夜になると白い息が見えるようになりました。


 あんたたちが出ていってから、

 この町の灯は少しだけ減った気がします。

 でも不思議と、暗くはない。

 夜の底で、小さな光が生まれている。

 それが、どこかであんたたちの灯と

 繋がっているような気がしてならなりません。


 この間、山を越えた先の谷で、

 ひとつだけ咲いていた花を見ました。

 桃でも桜でもない。

 それでも、風に揺れる姿は

 どこかあんたたちを思わせました。


 焔。

 アンタが言ってたわよね。

 「生きるって、燃えることだ」って。

 あれから考えていたけど、

 たぶんそれは“灯すこと”なんだと思う。

 燃え尽きるためじゃなく、

 誰かの中に、少しでも温もりを残すための火。


 この手紙が届くかどうかは、わからない。

 けれど、

 風の向こうでおまえたちが笑っているなら、

 それで十分。


 夜の帳が降りてきました。

 空には月がひとつ。

 見上げると、まるで誰かが

 その輪郭を灯しているように見えます。

 ……おまえたちの仕業かな?


 こっちは変わらず、

 米を炊いて、味噌汁をつくって、

 食べすぎては後悔してる。

 けど、悪くない。

 灯がある暮らしって、案外いいもんだ。


 それじゃ、今日はこの辺で筆を置くわ。

 風の匂いが冷たい。

 季節が変わるたびに、

 おまえたちを思い出す。


 焔、雅。


 どうか——

 どこにいても、あたたかく、

 笑っていられますように。


              暁より

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