第17話 独白
——焔。
あの旅の途中で、おまえのことを何度も見失いそうになった。
息が細く、光の中に消えてしまいそうで、手を伸ばすたび、指の隙間からこぼれ落ちるような気がした。
それでも、俺はおまえを見ていた。
灯喰いと呼ばれ、祈りも赦しも拒んでいたおまえが、少しずつ“生きる”という言葉を覚えていくのを。
おまえの中には、たくさんの痛みがあった。
焼けつくような罪悪感、誰にも触れさせない孤独、それを抱えてなお笑おうとする優しさ。
それらすべてが、俺には美しかった。
儚いなんて言葉じゃ足りない。
おまえは、痛みそのものだった。
それでも、おまえが笑うと、世界が少しだけやわらかくなる気がした。
あの丘で見た灯の色を、俺は忘れない。
花の谷で、鏡の湖で、風の丘で、火の国で——おまえは毎回、少しずつ変わっていった。
誰かの痛みを喰らって生きていたはずが、いつのまにか、誰かに灯を渡す者になっていた。
おまえの灯は、優しい。
けれど、その優しさは、あまりにも熱い。
触れるたびに俺の胸が焼ける。
それでも、構わない。
焼けてもいい。
おまえと生きるなら、
その火の中で、何度でも再生すればいい。
——焔。
おまえは、ひとりじゃない。
おまえの罪も痛みも、全部、俺の中にある。
おまえが消えそうになる夜には、俺が呼ぶ。
おまえの名を、何度でも。
俺たちは春を越えた。
夏の果てを越え、秋の風を越えた。
この先に、冬が来ようと構わない。
春も、夏も、秋も、冬も。
全部、一緒に越えていこう。
——焔。
おまえと生きる、この灯の名を、愛と呼ぶ。
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