「キタキツネのクウ」

竹内昴

キタキツネのクウ

夜がくると、ぼくらの村は光りだす。

木々のあいだから、たいこの音がポンポコ鳴って、

狐たちはいっせいに笑い出す。

年にいちどの夜祭り。

ぼくのいちばん好きな夜だ。


たいこをのせた山車をひいて、

「わっしょい、わっしょい」と声をあげる。

綿あめのにおい、りんご飴の赤い光、

あたりがほのかに甘く染まる。


そのときだった。

ふと、見知らぬ影がひとつ。


ひとりの子ども――人間の子。


ぼくの尻尾がぴんと立った。

「まさか……」

まわりの狐たちは、人間の姿に変わっている。

でも、あの子はどう見ても“ほんものの人間”だった。


怖くなったけど、なぜか放っておけなかった。

近づいて、声をかけた。

「こんにちは。ぼく、クウってんだ。君は?」


子どもは泣きそうな顔で言った。

「ぼく、小吉……。お父さんとお母さんと来たけど、道に迷っちゃったの」


ぼくは思わず言った。

「じゃあ、ぼくが探すの手伝ってあげる」


涙のかわりに、小吉は笑った。

その笑顔が、まるで月のひかりみたいにやさしかった。


「ねえ、今日はなんのお祭りなの?」

「収穫祭さ! ほら、見て!」

ぼくは宙返りして、くるりとひとまわり。


小吉は手をたたいて笑った。

その笑い声が、山の木々をゆらした。


2人で、綿あめを食べて、たいこをたたいた。

ぼくは生まれてはじめて、人間と笑いあった。


やがて小吉が言った。

「おなかがいっぱいだよ」

「よかった。あの道を抜ければ君の村に帰れるよ」


――そのときだった。


「ねえクウ、その……おしりから生えてるの、なに?」

小吉が首をかしげた。


しまった。

ぼくの尻尾。


その瞬間、祭りの明かりがすっと消えた。

提灯の火が消え、太鼓の音が遠くなった。

気づいたら、ぼくの体は風の中に溶けていた。


小吉の手には、ぼくが残したどんぐりの実。

まだ少し、ぬくもりがあったはずだ。


遠くで声がする。

「おーい、小吉やー」「どこだー、小吉!」


小吉の声が震えながら返った。

「おっとうー、おっかー! ぼくここだよー!」


……よかった。

見つかった。

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「キタキツネのクウ」 竹内昴 @tomo-korn

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