e-sportsはやりこみで

のこのこさん

e-sportsはやりこみで (読み切り)

秋の空が高くなり、孤独を感じる季節になってきた。

しかし私の心は真夏の灼熱のアスファルトより暑い!


自分はプロゲーマーである。


数多の大会で名を馳せ、公式大会では上位に入り、ファイトマネーとして多額の賞金を稼いできた。


次の大会は優勝を狙い日々血の滲むような鍛練を積んできた。


ジャンルは対戦格闘ゲーム


いわゆるストリートなんちゃらとか

、鉄なんちゃらとか、ギルティなんちゃらとか、キングオブなんちゃらとかサムライなんたらなんかが得意なのだ。メジャーなのはスマッシュなんとかなんだが、ここでは性質上アーケードゲームではないので差別化させて頂く。


おっと、まだ名乗ってなかったな。


俺の名前は "ジャスチン"

ニューオリンズ育ちのアメリカ人だ。


幼少の頃から格ゲーを嗜み、ここいらのゲーマーで俺を知らないやつはいない。



今度オーストラリアで大会がありエントリーを済ませた。

プロゲーマーと言ってもゲームばかりしているわけではない。

長距離を毎日ランニングしたり

ジムに通って筋トレしたり

水泳で汗を流してストレッチしたり

メイン以外のゲームでも特に脳トレやパズルゲームはアップ用にこなす。


日本の国技ではないが

心 技 体 

が備わらなければ強くなれないのだ。


対戦ゲームの基礎的な説明をしよう。


デバイスは8方向レバーと6つのボタンの他スタートボタンがついてる。


8方向レバーは上方向の要素が入るとジャンプ

前に入れると歩き前進。素早く2回前に入れるとダッシュステップ

後ろに入れるとガード

真後ろで上段ガード

斜め後ろで下段ガード

下要素はしゃがみ状態になる。


6つのボタンはパンチとキックが弱中強でそれぞれ3種類ある。性能は後述する。


用意された複数のキャラから自分に合ったキャラを選び、ゲーム内で動かしていく。


最初はCPUを相手に戦って基礎を学んでいく。

ゲームによってストーリーが多彩で、中身よりキャラや世界観が好きなファンも多い。


我々プロゲーマーは、この選択したキャラに心血を注ぎ、技術を練り上げていく。


プラクティスモードで立ち回りや連続技を練習し100%実践で繰り出せるように研鑽を積んでいく。


そしてオンラインやゲームセンターにて人対人の対戦を経験していく。

何百、何千、何万という試合をして対戦のセオリーを学んでいく。


やがてそのなかでも8~9割の勝率を出せる猛者グループが形成されていく。


プロゲーマーはそうした猛者達のさらに選抜されたエリートの集まりなのだ。


格闘ゲームは1/60秒の駆け引きを何フレーム(1秒=60フレーム)有利に進めたかで勝敗が決まる。


振る通常技も威力が高い攻撃ほど、隙フレーム(以下F)が多い。

小攻撃なら発生5F、隙4F

中攻撃なら発生8F、隙8F

大攻撃なら発生11F、隙20F

といった具合だ


格ゲーには必殺技というさらに強力な攻撃手段があり、飛び道具、対空技、突進技、反射技、当て身技、投げ技、設置技などがある。

それぞれ様々な性能差があるが基本的には通常技より威力は高く、ガードされると隙がデカイのが特徴だ。


これに格ゲー独特のシステム「キャンセル」を駆使し戦っていく。


キャンセルとは通常の攻撃モーションの戻りを特定の必殺技によるコマンド入力でキャンセルし、より少ない隙で攻撃を繋げる高等技術だ。

中には必殺技をキャンセルし超必殺技に繋げるスーパーキャンセルという概念も存在するが成立条件は極めてシビアである。


他に投げ、回避、カウンター、中段攻撃など駆け引きの肝となる選択肢が用意されている。


今回の競技に使われるタイトルは


「ファイティングスパークル3」


玄人向けで敷居が高い反面、対戦バランスが良く、やりこまれたマニア同士の戦いは芸術的ですらある。


私は夏華(シャオシー)という中国拳法を使う女性キャラクターが持ちキャラだ。隙が小さく連携も豊富で多彩な立ち回りが出来る所謂 強キャラ だ。

こいつで優勝を狙う。


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光陰矢の如し。


あっという間に修行期間は過ぎた。


さあ、いよいよ大会開始だ。



地区予選に敵はなく、あっさり世界大会に俺はマスを進めた。


本戦は流石に猛者揃いで、準決勝はザンギュラという人気のないオッサン投げキャラの職人並みな緻密かつねちっこい立ち回りに苦しめられたがなんとか決勝にコマを進める事ができた。


「ナイスファイト!ジャスチン!」


ファンが声援を送ってくれる。ゲーム性ゆえ黄色い声は少なく、野郎だらけだが、それは別として嬉しい。


彼らの声援に答える為にも優勝しなくては。


決勝の相手は日本人だった。

名前は "海原士郎"

海外ではまだ無名の青年だ。


使用キャラは 

"ホワイトデビルマスターズ"(以下WDM)


飛ばせて落とす基本戦術を生かし、爆発力のある連続攻撃(コンボ)と

二択に優れたラッシュ力がウリのゲーム内では中堅クラスの性能といわれているアメリカ育ちの日本人キャラだ。


俺の夏華と違い奴は性能としては最強クラスのスペックではない。

どうやってこの大会を勝ち上がって来たのか?興味は尽きない。


WDMは悪魔蹴りという超必殺技を持っている。単発では使いづらいがコンボに組み込むと凄まじいダメージを被る。技後は背中を向け、胴着に"666"の悪魔の数字が浮かび上がる痺れるくらいカッコいい中2キャラだ。


反面私の使う夏華は千発蹴という超必殺技を持っている。相手を体力僅かに追い込んでこれを繰り出せばガードの上から体力を削りとり、対戦相手はなす統べなく倒れることは必至だ。


お互いが登壇し、いよいよ決勝が始まる。3セットで2本先取した方が勝者だ。



ROUND 1 Fight!!



実況者:解説のタザハマさん、この試合どちらが勝つと思いますか?


解説者:んー。キャラ性能はジャスチンくんが上ですが海原くんには底知れぬポテンシャルがあります。しかし1000の蹴りに対し666の蹴りではね。


1000-666= 334 じゃないですか!


実況者: な 阪 関 ! !

意味はわからんが兎に角すごい自信ですね。

おっと、早速一本目はジャスチンが圧倒的なラッシュでほぼ完勝です!


ジャスチンは思った。

見たか海原!これが俺の実力だ!圧倒的手数の前に返せまい!



ROUND 2 Fight!!



しかし2ラウンド目は海原の動きが変わった。堅実に10Fの隙を針の穴を通すような連携で有利に読み勝ってくる。


解説者:これは シーソー ゲーム ですな。


実況者:おっとここでWDMが投げた!


ガードを固める夏華を


また投げた!!!


起き攻めどうなる??

どうなる??


また海原が投げたァー!!!!!


まさかの3連続投げで海原が完璧に読み勝ち2セット目を取り返した!



「うおおおお!すげすげゔぉー!」



沸き上がる試合会場。ボルテージはMAXだ!


実況者:さあ泣いても笑っても最後のラウンドだ!お互いベストを尽くして死合ってくれ!



ROUND 3 Fight!!



ジャスチンは常勝の戦法「鳥籠(トリカゴ)」を使って戦っていた。飛び道具と対空技の性能を生かし、海原を追い込んでいく。体力はジャスチン6割、海原1割未満。


ジャスチン「もらったー!!!」


ギャラリー「Let's Go!ジャスチーーン」


夏華の超必殺技「千発蹴」が画面端を背にした海原WDMに襲いかかる。


この時、誰もがジャスチンの勝利を確信しただろう。


だがしかし


バチーン!!

カッカッカッカッカッカッカッ!!


???!


一体何が起こったのか、ギャラリーは静まり返ったが、すぐに状況を理解し画面に釘付けになった。


海原はジャストブロックという削りを無効化する超高等防御手段を繰り出していた。

通常格闘ゲームは後ろにレバーを入れるとガードだが前にレバーを3F(3/60秒)の猶予で入れる事でこのテクニックは成立する。


試合で狙って決めるなど至難の技であり、ましてや34発も攻撃判定がでるこの技に対しジャストブロックの防御手段を取るなど常人ならまず考えないだろう。


夏華の千発蹴は33hitの後、最後に上に蹴りあげるのだが


カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ


海原は3Fを33回連続でジャストブロックを成立させた。


最後の蹴り上げは小ジャンプ後に空中でジャストを決める為に真下にレバーを1Fで入れる。


カッ!!


全弾ジャストされた夏華は隙だらけ。

WDMは軽い前ステップの後、大パンチ→大キック(キャンセル)→対空技(スーパーキャンセル)→悪魔蹴りという超激ムズコンボを決めたのだ!


バシッ!ビシッ!バコーン!

キュイィィィィン!!

食らいやがれぇ!!!

バコバコバコバコバコバコ

スコーン!ポコーン!ドヴァー!!


夏華「キャアーーー」


ドタンバタン


画面はエフェクトが弾け、胴着の背中に666の数字が浮かんだ勝者名を告げる


WDM WIN!!


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


この会場の全員が以降 伝説 として語り継がれる試合を目の当たりにしたのである。


ジャスチン「俺は、負けた?のか?」


呆然として空を仰ぐ。


画面にはYOU LOSEの文字。


「ジャスチン完敗だな」

ファンの声掛けで我に返った。


この瞬間に私は敗北を 享受 したのだ。


表彰される海原


ギャラリーのボルテージによって、彼はまさに"戦神"となったのだ。


俺は羨望の眼差しで彼を見ていた。


壇上で握手を交わし互いを讃える。


会場を後にし帰国する。

ニューオリンズの空港についた俺は空を見上げる


もう冬を迎えるキャンバスはビビッドな陽光を遮るグレーの曇天が侘しさを演出している。



次は負けない。



数多のe-sportsファイターはこうした敗戦を乗り越えて成長していくのだ!


そんなファイター達の果てしない戦いは続いていく。


そう新たなる好敵手(とも)を探して。


次は君の街に行くかもしれないな?


to be continued…


※エンディングテーマ曲が流れる

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