開示請求専門会社「モロミエ」~掌編ほか~

渡貫とゐち

掌編(11本)


#1 有名人



「影響力がある? いや、ないない――

 あなたたちに、影響『され力』があるんでしょ?」






#2 あなたは被害者ではありません



「正直に言えなかった? その時に嫌と言えなかった?

 ……それ、加害者に加担しているのと同じことですよ?」






#3 パターン2



「主演の俳優が逮捕? ……あー、そうですか……」


「なので、この映画の公開は見送りに――」



「そうなんですか? する必要あります? だったら二種類ほど作ればいいじゃないですか。俳優違いで映画館と配信スタイルの二種類を作ればいい。

 昨今、よく言われる、フェミ、ポリコレ……これも二種類、もしくは三種類でもいいですが――を作って、形式を変えて公開すればいいと思いますよ。なにもお蔵入りにする必要はないはずだ。まあ、俳優の入れ替え、フェミとポリコレに配慮した『パターン2』が多くの人に見られるとは、僕は思いませんけどね」






#4 隠された世界



「見たくない、という声がありましてですね……」

「何人?」

「結構、その……十何人も……」


「それだけじゃないか。一万人を越えてから言ってもらいたいね……。しかしまあ、そういうことなら仕方ない、その十数人の目に触れない場所で開催しようか。それさえも見つけて文句を言ってくるなら、そいつが悪い……見つけたあなたが悪いんですから」






#5 開示請求専門会社「モロミエ」



「いやー、儲けましたね。使い道も特になくて……なのでっ! 私はあり余ったお金で新しい会社を立ち上げようと思います! ……全世界よ、震えて眠れっ」


「おおっ、新しい挑戦ですね、一体どんな会社を立ち上げるんですか?」



「開示請求専門会社『モロミエ』です。

 ――さてさて、タレントの皆様方、手間暇さらに費用は我々が負担しますので、報酬額は多くいただきますが、任せてください。

 誹謗中傷、その銃口を握るクズどもを我々が丸裸にして見せましょう!!」






#6 凹み中…



「あれ、落ち込んでる? なにがあったのか、相談してみなさいよ」

「実は――」


「……あー、悪口を言われたのね……あっそう……」

「き、嫌われた……怒られた……。もう嫌だ、生きる気力が湧かないよぉ……」


「んー、っと。その人って、あなたにとって大切な人なの? たとえば――、その人が死んで、葬式があったら……誰に誘われるでもなく、行くの?」


「…………いかない」


「うん、じゃあその程度の相手ってことでしょ? 気にするな。あなたの物語にそいつは必要ない存在なの。死んでもなんとも思わない相手から言われた言葉なんか、既に死んでいるようなものよ――死語ね」


「そ、それこそ、死語がもう死語なんじゃ……?」


「あなたの葬式には行かないから気にしませーん!」


「ごめんなさいっ見捨てないでぇ!!」






#7 標識



「道路の標識って、なんでああも小さいんだ? 信号機は大きいくせに……。絶対に守ってほしいから立ててるんじゃないのかよ。見えなかった人間に合わせて大きくするべきだろう……、見えてる人間は小さくても守るんだよ」


「見えてても無視する奴はいるけどな」


「おっと、申し訳ない、これは私のミスだったな。ルールなんて、あるから破るんだよな」






#8 浮気



「はぁ? 浮気したいの? …………なら、少し待ってて――」


 妻が自室へ戻って数分後、ドレスコードを変えてきた。


 ドレスというか……髪型、骨格まで変わってる……身長も……上げ底か?


 喋り方もやや舌足らずだった。

 そこに妻の面影はなく――


「はじめまぁして、エミです、ゆーすけさぁん、デートしましょっ」


「いや……レミじゃん」


「知りませんよぉ……奥さんには内緒で、悪いお遊びしましょっ」

「……」


 妻であって妻ではない。

 レミならぬエミと、おれは今日、浮気をした。






#9 芸能人



 不祥事を繰り返し、席が空いていく芸能界……、

 空いた椅子に座った矢先に、不祥事で椅子がまた空いた。


 空いては座って、立ち上がっての繰り返し……。


 回転の早い芸能界。

 人の定着が、近年ではなくなっていた。

 見ない顔がテレビに出ている……、気がついたらまた新しい顔だ。

 一発退場ゆえに、有名人なのに有名じゃないという矛盾だった。


「結局、アナウンサーばっかりが出てるなあ……バラエティーもアナウンサーばかり」


 ようは局の社員で穴を埋めた――

 その結果、芸能人ではなくアナウンサーが舞台に立っている。


 会社員なら安心だ。モラルもあるし、教育も行き届いているだろう……しかし、不思議なことに、不祥事は止まらなかった。


 会社員であっても有名になれば鼻が伸びるらしい。

 裸の王様。金銭感覚が狂って、人気者になれば悪いこともしてしまう。

 結局のところ――やっぱり、だ。


 消え続けて、そこには誰もいなくなった。



「面白いものは、お金を払って見る時代だな」






#10 一日が48時間



「一日が48時間になったら――お前だって彼女を作るだろ?」


「それだけ時間があったら……まあ……いや?

 結局、今やってることを倍の時間するだけの気がするなあ」






#11 ヘッドホン



「個人的な意見だけどさ」

「うん」


「外でヘッドホンしてる人って、ダサくない?」

「首にかけてる俺をどう見てるんだおまえ」


「はは」

「愛想笑い!?」


「首はセーフだね。でも、ちゃんと曲を聞くために頭に付けるのは、そのね……ダサい」


「それはおまえの、見る側としてのセンス次第だが……」


「ヘッドホンしてる人を見ると……目を塞ぎたくなるね」


「あっちが耳を塞いでるから? やかましいんだよ!!」




・・・おわり

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