かつて誰かだったフェイトの物語

仲仁へび(旧:離久)

かつて誰かだったフェイトの物語



 ある世界に、フェイトという男がいる。


 運命の名を持つ男が。


 しかし、彼はかつては違う人物だった。


 異なる姿で、異なる意思を持って、どこかの世界で生活していた。


 そんな彼は、毎日研究尽くしで、他に興味をそそるものがなかった。


 彼の精神構造は人と異なっており、興味を抱くものが極端に少なかったからだ。


 彼は、その身に永遠の命を持っていたため、それが理由の一つでもあった。


 だから、彼は一人の少女を研究対象に選び、その命にずっと執着していた。


 その少女はとても強い生命力を持っていて、長い時間を生きられた。


 だから、彼の研究対象にするにはうってつけだった。


 研究のない日々、何もない退屈な時間を考えずに済んだ。


 しかし、そんな彼は、多くの人の策によって別の世界に飛ばされてしまう。


 それは少女を守るために用意された、少女の友の策であった。


 彼は、その世界で別の研究を始めたが、気が付けば元の世界に戻る方法を探し、実行していた。


 男は、気が遠くなるほど、長い時間をかけて元の世界へ戻ってきた。


 しかし戻ってきた世界は、原形をとどめず、跡形もない。


 時の流れにのまれ、記憶や心のすべてを変質させてしまった彼は、ただ欠けた心をかかえて立ち尽くす。


 新しい世界に降り立った彼はフェイトと名乗り、いつものように研究を続けるが、穴の開いた心は存在を主張するばかりだった。


 気まぐれに世界を壊すような実験をし、大勢が死ぬような研究をしても、彼の心にさざ波は立たない。


 どれだけ未知の発見をしても、どれだけの偉業を成し遂げたとしても。


 そんな中、かつての敵とよく似た男と、かつて執着していた少女とよく似た女を見つけた。


 彼はこの出会いを運命と名付ける。


 良い思いも、悪い思いもなく。


 そして、フェイトとなった彼はそれらに手を伸ばす。


 それを払いのけるために、それを手に入れるために。


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