第三十章
車の中で社長の昔の話しを聞き終えた。
竜胆社長が週刊誌やメディアを恨む理由もタレントを大事にする気持ちも分かった。だからこそ現行メディアは正さなくちゃいけない。
タレントを叩いて稼ぐような風潮は正さなくちゃいけない。時代は令和なのにずっと平成で止まっているのは変だし、叩かれて何人も死んだ芸能人を知っている。そんな風潮は絶対この時代で止めないといけないんだ。春樹さんはそれでアイドルを辞めてしまったし、辞めるしかなかった。原因がストーカー被害だったけど、それも叩こうっていう風潮の結果だ。まずはそれを正さなくちゃいけないし、それを煽る週刊誌や情報バラエティーを歌うテレビ局も正さなくちゃいけない。あんなのを報道と思ってちゃいけないんだ。人の人権を食い物にしているなんて変だ。やっていることが奴隷制時代と変わらない。不祥事を起こしたアイドルは自殺まで追いつめていいってわけじゃない。そもそもあれはデートと言うわけじゃない。確かに叶とは付き合って居るが、一緒に帰る様子までデートと言っていいものか。
やがて車は事務所に戻った。結構うな重弁当は旨かった。まあ食べたいと思った。小島元太がうな重にはまるのも分かる。
「「ごちそうさまでした」」
悠と叶が竜胆社長にお礼を言う。
「裁判に勝って賠償金勝ち取ったら次は俺に奢ってくれ」
「え、やだ」
「この野郎……」
生意気なタレントだが竜胆社長は意外と嬉しそうだった。
「帰ろっか」
「ああ」
悠と叶は車が去ったあと、ふたりで手を繋いで帰った。
また週刊誌に撮られるというリスクがあるが、今世間の風潮はアイドルも恋愛していい雰囲気になり始めている。まだ意見そのものは割れているし、どうなるのか当事者達も分からないが少しずついい雰囲気になりつつある。
渋谷の風は少し肌寒かった。それでも心は温かかった。この先どうなるのか誰にも分からないが、未来は明るいと信じたい。
「ねぇ」
そう悠が言うと叶はキスをした。
大好きな叶とのキス。こうやって外でキスするのが当たり前の世界になれたら良いなと思った。
あの一件以来、週刊誌は沈黙を決めている。
他のアイドル事務所も少しずつ恋愛歴を話すようになった。恋愛タブーの風潮が少しずつ変わりつつあり、アイドルも恋愛していい雰囲気作りが着々と出来ている。それが面白くないのは既存のメディアだ。炎上商法で儲けていた層は世間の恋愛擁護派に押されて意見を変え始めた。もっと意外だったのは男性ファンだ。メンズアイドルファンの男性はビジュを整える傾向があった。それは憧れから入る傾向が強く、自分もああなりたいとアイドルの美容動画を研究するようになる。憧れは、その人になりたいになるから変わることがあり、中には自分もアイドルになる人も居る。他にも歌舞伎町でホストになる人も居る。だけど女性アイドルファンはあまりビジュアルに気を配る人が少ない。正確にはビジュアルに気を使う人が少なかった。でも今はアイドルにも恋愛する時代に変わりつつあるからなのか服装にも気を使う人が多くなり、それはアイドル側も嬉しい事で動画でも美容関連の事を多く投稿するようになった。
もちろん全員ではないけど雰囲気はモテる方へとシフトしていっている。
こうした背景から炎上商法はむしろ売り上げが下がるリスクがあり、逆に擁護派になった方が美容商品やアパレル関係が潤うようになり、経済としてはこちらが正常になっていく。
「良い雰囲気になってきたね悠」
「うん」
叶の家で動画を撮っている悠とアリスはメイクをしながらそう言った。このまま世間が良い方に変わればいいと思った。
1ヶ月後———。
裁判の結果は満額回答と言っていいほどになった。〇〇週刊誌は謝罪と1億円の賠償金でこの裁判の決着をついた。もちろん一括という事は難しく、判決は1億で毎月100万円を振り込むことで決着となった。もちろん炎上状態での被害額でそんな程度では補償にもならないが、あくまで抑止力的裁判だから結果としては悠たちが勝ったことになる。
「あんまり気持ちいい気分にならないね」
悠が言った。
「もう少しすっきりするのかと思った」
「そんなもんだろ、結局受けた傷ってのは癒えないもんだ」
「そうだね、でもモヤモヤするなぁ」
「じゃあ、そのモヤモヤ俺が晴らしてやろうか」
「もう、叶の変態♡」
そう言いながらも叶にフェラされる。
ここはいつもの叶の部屋、相変わらずふたりはいちゃつきながら、いつも通りだった。
世間では色々言われたが、結果として公認カップルになったことで外でも堂々とデートできる。弊害でダイニングバーが忙しくなったのはまた別の話し……。
親友が猫耳つけて可愛い件BL®18 nayo. @wkuht
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