第2話

「思ったより遅くなっちゃったな」


 今日は学校のサークル『料理研究会』にTV取材が入ると言う事でバイトも休み、桜子やサークルの皆んなで取材を受けてたのだけれど、思ったより時間が遅くなってしまって、私は人通りの少なくなった学校裏の通りを自転車で通っていた。


 本当はこっちはあまり通りたく無いのだけれど、バイトが休みだったので自転車で学校へ来ていたのだ。


「えーん、おっかないよぉ」


 頼りない自転車のライトの灯りに、向こうからきた黒塗りのワゴンが突然浮かび上がる!


!?


ガチャガチャ!!


「えっ! きゃ!!」


ガシャン!!


バンッ、バタンッ!!


「ゴー!ゴー!」


◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆


ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ。


「はい」


『〜〜〜〜〜〜』


「それで?」


『〜〜〜〜〜〜』


「行き先は……そうか、助かった」


『〜〜〜〜〜〜』


「この借りはいつか返す。急いでいるんでな、切るぞ」


 古くからの馴染みの情報屋から連絡を受けた俺は、エプロンを外すと素早く店じまいを『カランカラン』


「今日はもう終いなんだ、済まないが今度また来てくれ!」


 入ってきそうになった客の手にコーヒーチケットを持たせて外に追い出す。


 バタン!!


 店を閉めると、裏の非常階段を上がって自室へと向かう。


 カン、カン、カン、カン!


 北川さんが誘拐された、誘拐した奴らの事は分かっている『ブラック・フラッグ』この国の政権を奪う事に躍起になっている連中だ、連中は官房長官の娘を拉致するつもりが間違えて北川さんを攫ってしまったらしい。


 神居市北区の廃ビル、素行の良く無い若い連中が一階付近に屯しているが、実のところ高層階では『ブラック・フラッグ』が隠れ家にしている場所だ。


 何もしなければ放っておいたものの、俺の関係者に手を出したとあっては、もう二度とお天道様は拝めないと知れ。


◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆


「間違えただあ!!」


「スミマセン」


ドガッ!


「済みませんで済む問題じゃねえんだよ!!」


ドガッ!


「どうすんだこの女!? 顔を見られてんだぞ!」


「ウメル…ウメテキマス」


 ひいぃ! 後ろ手で縛られて横たわらせられている私の隣では、黒ずくめの格好をしたカタコトのニホンゴを話す外国人さんが、ヤ◯ザもびっくりなスーツ姿のおじさんに、私を間違えて攫ってきた事で殴られている。


 いやぁウメルって聞こえたよ、いやだー埋められたくないよー。


 私がモゾモゾと動いて端の方に逃げようとしていると、ドサッと言う音が後ろの方から聞こえてきた。


「んだ?」


 スーツのおじさん達も音に反応する。


「何だおめえは!!」


「攫った娘を返してもらおう」


「んだぁ!?」


 誰かが私を助けに来てくれたの?! あーん、誰でも良いから早く助けてぇ!!


 スーツのおじさんがその侵入者に近寄って行ったのか、足音が離れる。


「きさまぁ、や※⭐︎みじゃねえか! ⭐︎※!? ※◯かぁ?!」


「あい※◯ず、外◯⭐︎だな」


 んー、離れたせいで声が聞き取り難い。と言うか周りの外国人達! 「ンダァ!」「ウラァ!」「ワレェ」って煩いよ!


「マトモにターゲットの一人も誘拐出来ないとは、相変わらず三流だな」


 ここだけハッキリ聞こえた! この人なに煽ってるの!?


「ンダァ!!! オラァ! 全員掛かってコイツを◯せえ!」


「「「「ウオオオオオオオオ!!」」」」


 ちょっとちょっと! せっかく助けに来てくれたけど、悪い奴は十人くらいは居たのよ。大丈夫なの?!



ヒュンッ!


ガン!


ガッ!


ドガッ!


ヒュンッ、シュッ!!


ガッ!


ドガッ!


ガン!


ガン!


「ウラァ!」


ガッ!


ドガァッ!!


ヒュンッ!


ドン、ドン!


「ガァアア」


ガシャーン!!


パリーン!











ドサッ。


「うわぁあああー!」



 叫び声の後、突然静かになった室内。何々、どうしちゃったの?


 コツ、コツ、コツ、コツ


 後方から聞こえてくる足音。


 近くで音が止まり、後ろ手に縛られている縄が解かれる気配が。


 「大丈夫でしたか?」


 えっ!? この声? えっ、マスター?!


 体を引き起こされ、振り返ると。


 体に沿ったピッチリとした黒い服を着たマスターがそこに……。


「え、え、何でマスターが?」


マスターは聞かれて少し困ったような顔をして。


「知人が……」ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!


「警察が来ます、面倒な事にならない内に我々は消えましょう。立てますか?」



五月某日、金曜日、午後七時


「どうぞ」


カチャリ。


 お客さんも居なくなり、カウンターに座った私の目の前にはマスターの賄いご飯。


 ワンプレートで置かれたそれは、私が最近のお気に入りにしているトルコ料理と、スペシャルカフェ・オ・レ。


「フルコースですねぇ」


「特別です」


「その心は?」


「……」


 無言のマスターの返事に、私は持ってきていた袋をカウンターに出す。


「先日は助けて頂いてありがとうございました。これ、大した物ではないですがお礼です。受け取って下さい」


 立ち上がって。袋の中身をマスターに渡し、精一杯頭を下げる。


「これは?」


 マスターが袋から出して手にしているのはカフェエプロン、私とお揃いのネコちゃんのワンポイント入り。


「似合いますか?」と、エプロンを腰に当てるマスター。


「フフっ」


「あはははっ」


カラン、カラン。


「小春〜! 迎えにきたよー!」






おしまい。

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すのうどろっぷ カジキカジキ @i_taka_99

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