そっくりさん

タピオカ転売屋

第1話

 こういうことを聞いたことありませんかね。

 この世には、自分とそっくりな人が3人居る…と。


 まぁ、広く世界に目を向けると3人が7人に増えたりするらしいんですな。

 まあ、そんな話はどうでも宜しいんですがね。


 これってやっぱり、同じ年頃って決まりがあるんでしょうかねぇ。


 あんまり聞かないでしょ、小学3年の時の自分に瓜二つの子供がいた!なんて話。

 大体、そんな昔の自分のツラなんぞ、覚えていませんしね。


 逆にね、自分が爺さんになった時と同じ顔だ!ーーーおい!よく見ろ、そりゃお前の親父だよ!なんつってね、笑い話にもなりゃしません。


 ああ、すんませんね。どうでも良い話を長々と、ここからですよ本題は。


 実はね…最近、身の回りであたしにそっくりな人を見たって話をよく聞きまして。

 それがあたしにそっくりと言うより、どうやら周りの人らは、あたしだと思っているようでしてね。


 この間もね、久しぶりに会った知り合いにこんなこと言われまして

「おい!昨日駅前で話しかけたのに無視しやがってお前さん、もうボケちまったんじゃねぇだろうな。」


 …会うなりそんな事言われて、あたしもむかっ腹がたちましてね、言い返しましたよ。

「昨日は一歩も家から出てねえ、ボケちまったのは、テメェのほうだろうよ!」


 そしたら野郎、きょとんとした顔してんですよ。

 こりゃいよいよボケちまったか。なんて思っていたら

「いや、確かにお前だった。そんなハゲ頭が何人もいてたまるか。」

 …この野郎!お前もハゲ頭にしてやろうか!って危うく大ゲンカになるとこでしたよ。


 まあ、この馬鹿なんてしばらく会ってなかったんでね、どうせ見間違えでもしたんだろうって思ってましたよ。


 他にも、近所の奥さんが小首を傾げながらね。

「この間、スーパーでお見かけして声かけたでしょ、なのにこちらをただじっと見るだけで一言も話してこなかったでしょう。」


 あたしもこの人と会えば、必ず二言三言ぐらいは喋りますんでね。

「いつも止まらないぐらいの話好きなのに、具合でも悪いのかしら?なんて思いまして。」

 なんてあたしの体調を気遣う始末でね。


 そこでね、あれ?…なんか妙だなって思ったんですよ。

 あたしに似た人に会った人は居るが、誰も会話を交わしてない…誰も声を聞いていないんですよ。


 これが、ただの他人の空似ならね違いますだの、人違いですよだの言うでしょう。

 何も言わない…若しくは、何も言えない…のかもしれません。


 そう考えるとブルっと怖気が走りまして、どうにも気味が悪い。

 気味が悪いが、どうすることも出来ませんでね、まさか街ん中を自分の顔を指差しながら、「こんな顔の野郎、見たことないですかい?」なんて尋ね歩く訳にもいきません。


 そんなある日のことですよ。

 用事の帰りでね、運悪く学生さんの下校時間と重なりまして…。

 満員電車に揺られていた時ですな。


 …フッと目が、ある一点を見定めた。


 あたしはね、霊感なんて御大層なもん持ち合わせてはおりませんが、この時ばかりはある一点から目が離せないんですよ。


 それでじーっと目を凝らしてみると、居たんですよ…あたしが。

 あたしと同じ電車の端であたしと同じに満員電車に揺られて外を見てる。


 はっきりと顔が見えた訳じゃございませんが、あたしです。間違えようがありません。

 その時は何故か、恐怖よりも怒りのほうが勝っちゃいましてね。

 ーーこのニセモン野郎!ってなモンですよ。


 もう我慢なりません。

 この野郎、どこのどいつか知らねえが、勝手にあたしのツラぶら下げて歩き回りやがって、気味が悪いにも程がある。


 何とかその野郎の方へ行こうとするんですが、如何せん満員電車でございますからね、にっちもさっちもいかない。


 それでも、逃がしゃしないってんで、目だけはソイツをグッと睨みつけましてね。


 そしたら、電車が駅に着きまして、さあこれであの野郎をふん捕まえてやる!って息巻いてましたらね。


 気付いたんです。


 自分のやらかしに…


 さっき満員電車の中で何とか捕まえてやろうとニジニジと詰め寄ったでしょう。

 そのせいで駅に着いた時、あたしのいる場所は、電車のど真ん中でしてね。


 電車の出入口から一番遠いんですな。

 嗚呼、と嘆いても後の祭りでございまして、ヤツは端っこにいやがったもんで、そのままスーっと電車降りちまいましたね。


 あたしは、気ばかり焦るものの中々降りられません。

 やっとこさ降りた時には、米粒みたいにちっちゃくなったヤツが、遠くにポツンと見えるんですな。


 そのちっぽけな姿を目に留めたまま、必死で追いかけたんですよ。

 急いで追いかけるんですがね、中々距離が縮まらない。


 いつの間にか街を抜けてね、小さな山の参道に入って行くのが見えたんですよ。

 しめた!これで捕まえられるって思いましたね。


 山の上には神社があるだけの行き止まりでございますからね。

 参道に入りますと、上の方でヤツが脇道に逸れて行くのが見えたんで、2段飛ばしで階段を駆け登って、あたしも脇道に逸れたんですな。


 さあ、観念しろ!と勇ましく飛び込むと、そこは行き止まりの崖っぷちでしてね。

 ヤツの姿が何処にも見えない。

 辺りを見回しても何処にも居ない。

 狐につままれたような気分でしたよ。


 すると、後ろで気配を感じる。

 ハッと振り向くとヤツがいた。

 嬉しくてしょうがないと言わんばかりにニヤニヤと笑っている。

 そのニヤニヤ笑いを見て、ある事に気がついた。


 アイツは、逃げてたんじゃない。


 あたしは、誘い込まれたんだ。


 罠に掛かった狸みたいなもんでね、あたしも終わりだな、後はコイツがあたしに成りすましてしまうんだろうってね。

 そう思ってたんですがね。


 小さな違和感に気がついた。


 …コイツ、この期に及んで声を出してない、さっきの笑いも顔だけのニヤニヤ笑いですからね。


 ひょっとすると、声が出せないんじゃなかろうか、もっと言えば声が苦手かも知れん。


 あたしは、天も割れんばかりの大声で

『この野郎!失せやがれ!』

 と叫んだんですな。

 すると今までニヤニヤと笑っていたヤツが両手で耳を抑えてしゃがみ込んだ。


 あたしは畳みかけるように

『おととい来やがれ!すっとこどっこいめ!』

 ってね、怒鳴ってやったんですよ。


 そしたら、そのままフッと消えたんです。

 ヤツの消えたとこには、紙切れが落ちてましてね。


 拾って見てみると、そこにはあたしの名前と、人って字が書いてあったんです。


 あれが…なんだったかは、見当もつきませんがね、皆様、自分とそっくりな人を見かけたら、怒鳴ってみてごらんなさい。

 フッと消えてしまうかもしれませんよ。

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