早暁に走る城郭跡地公園の風景

@gagi

早暁に走る城郭跡地公園の風景

 夜と朝の狭間の時刻。


 起きてすぐ、家を出る前にパウチに入ったゼリー飲料を胃へ流し込む。


 高1の頃に低血糖でぶっ倒れた反省からだ。


 ランニングウェアに着替え、シューズを履いて外に出る。


 冷えた外気が首元を撫でて、肌寒さを感じる。


 薄明の中、雲の底は朱に染まって、その狭間から見える空は薄い黄と青が混じったような、何とも言えない色をしていた。


 私は中学で陸上部に入った頃から、朝に近所の公園を走るようにしている。


 雨が降っていたり私の体調が悪い時はやらないけど、それ以外の日はなるべく毎朝。


 その公園は昔の城郭があった跡地で、堀の周囲を一周するだけでもそこそこの距離になる。




 堀の水には蓮の葉が疎らに浮かんで、鴨たちが水面をついばみながらその間に浮かんでいる。


 木々から漂うフィトンチッドの香り。


 桜の葉の緑の中にはところどころ赤が混ざり始めている。


 並木の遠く奥に見えるビルディング群。


 よちよちと歩道を歩く2匹連れの鴨。


 刈られて日の浅い草の上を跳ねる雀たち。


 蓮の葉の上で追いかけっこをする白い白鳥と灰色の白鳥。


 堀の淵で丸くなる黒猫。


 ベンチの端にひっそり佇むしおんの花の薄紫。


 そんな景色を通り過ぎながら、公園を一周する。




 汗を吸ったランニングウェアが肌に張り付く。


 熱を持った身体に冷えた外気が心地よい。


 清々しい疲労感に満たされる頃には、空の色は抜けるような青に変わっていた。


 雲の底も黄金色に陽光を照り返す。


 こうやって走った後の余韻に浸りながら透き通る青空を見ていると、私は時々ある種の虚しさに襲われる。


 

 中1から高2の今まで、私は陸上を続けてきた。


 県大会は勝ち上がれる。だけど地方大会で止まってしまう。全国までは届かない。


 中学から今までずうっとそれを現状維持だ。


 私のこの日々の積み重ねに意味はあるのだろうか。


 堀の外周を毎朝踏みしめることに、成果は伴っているのだろうか。


 そんなことを考えてしまう。


 私の努力(と呼ぶのはおこがましいかもしれない)、今までは走った距離の総延長はいつか芽を出す日が来るのだろうか。


 もしかしたら毎朝まき続けた努力の種は、既に芽を出し、花を咲かせ、実をつけていて。


 それでいてなお、突き抜けるように高い空へ届くことは無い。


 全国へ届きうる可能性は微塵もない。

 

 のかもしれない。


 そんな不安と虚しさに、ふと苛まれることがある。




 家に戻って時計をみる。


 学校に行くまで時間に余裕がある。シャワーで汗を流してもだ。


 最近、こんな日が多い。


 ランニングコースを少し変えた方がいいかもしれないと思った。

 

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